子の引き渡し事件、監護者の指定の事件、東京家庭裁判所八王子支部:平成21年1月22日審判

東京家庭裁判所八王子支部平成20年(家)第1678号
平成21年1月22日審判


       主   文

1 未成年者の監護者を申立人と定める。
2 相手方は,申立人に対し,未成年者を引き渡せ。


       理   由

第1 申立ての趣旨
 主文と同旨
第2 当裁判所の判断
1 当庁平成20年(家イ)第○○○号夫婦関係調整調停事件記録,当庁平成20年(家ロ)第○○○号審判前の保全処分(子の監護に関する処分《子の監護者の指定,子の引渡し》)事件記録及び本件記録に基づく当裁判所の事実認定及び判断は,次のとおりである。
(1)申立人と相手方との婚姻生活の状況等
ア 申立人(昭和44年×月×日生)と相手方(昭和43年×月×日生)は,平成12年×月×日に婚姻し,平成13年×月×日に未成年者をもうけた。申立人と相手方は,婚姻当初,○○区△△所在のマンションに居住した。
 申立人及び相手方は,平成15年×月,申立人名義で□□市所在の分譲マンションを購入し,同所に転居した。
 申立人と相手方は,関係が悪化し,平成16年×月ころ,相手方が未成年者を連れて実家に帰り,一時別居したことがあった。相手方は,この間,派遣社員として稼働した。しかし,未成年者が幼少であったことや相手方の実母が闘病生活を送っていたことなどから,相手方は,同年×月ころには,申立人の下に戻り,再び同居した。
 しかし,申立人と相手方との夫婦関係は,完全に修復することはなかった。
イ 相手方は,平成16年×月ころから,申立人以外の男性と交際するようになった。相手方は,同年×月ころ,深夜,自宅において,未成年者を置いて,家を空け,申立人が,その際,仕事で会社近くのホテルで宿泊していたため,未成年者が,相手方を捜して近所を徘徊し,警察に保護されたことがあった。
ウ 申立人と相手方は,平成17年×月以降,相手方が申立人以外の男性と交際していることを告げたため,夫婦関係は決定的に悪化した。申立人と相手方は,同年×月ころから性交渉はなくなった。
 未成年者の監護養育については,平日は,申立人が仕事で深夜に帰宅するため,相手方が行い,土日は,申立人が未成年者を外に遊びに連れ出すなどして,別々に行う状況となった。
(2)別居に至る経緯及び本件紛争の経緯等
ア 未成年者は,平成17年×月,○○幼稚園に入園した。相手方は,専業主婦であったため,園の送迎を行っていたが,午後6時までの延長保育までに迎えが出来ないときは,NPO法人「○□」を利用して,未成年者の迎えを代わりに依頼していた。
 幼稚園の行事については,相手方だけでなく,申立人が参加したこともあった。
 相手方は,平成17年×月から平成19年×月まで,夕方の迎えが出来ないとして合計44回前記「○□」に対し,未成年者の迎えの依頼をしていた。
イ 相手方は,平成18年ころから,入院中の実母の看病に追われるとともに,アロマテラピーの資格取得を目指して,学校に通うなどし,多忙となった。
 相手方は,平成19年×月ころ,申立人に対し,未成年者の親権者を相手方と記載した離婚届出を渡したが,申立人は拒否した。
 申立人と相手方は,このころから,完全に家庭内別居の状態となった。
 相手方は,このころから,後記エ記載のとおり別居に至るまで,家事を十分に行わず,行き届いた居室等の掃除をしていなかった。
 未成年者は,平成19年秋ころ,精神的に不安定となり,保育園の他の子や保育士に対し,つらく当たるなどの行為をしたことがあった。保育園のカウンセラーは,未成年者の相談に関与するようになったが,相手方は,カウンセラーの求めに対し,面談に応じていない。
 未成年者は,平成20年4月,□□市立○○小学校に入学したが,学童保育に通所し,午後6時ころ一人で自宅に帰宅することが多かった。
 未成年者は,やや寝不足が認められたことがあり,入浴も毎日ではなかった。
ウ 申立人は,平成20年×月×日,当庁に対し,離婚を求めて,夫婦関係調整の調停申立てを行った。同調停は,同年×月×日及び同年×月×日と2回の調停期日が設けられた。同調停は,離婚については合意がなされたものの,未成年者の親権者について双方が主張したため,同年×月×日,不成立となった。
エ 相手方は,平成20年×月×日,申立人に無断で,行き先を知らせずに,未成年者を連れて,現住居地に転居した。相手方は,転居の際,冷蔵庫,洗濯機,食器棚,テレビ等を搬出した。
 相手方は,未成年者について□□市立○○小学校から△△市立○△小学校への転校手続を併せて取った。
オ 申立人は,平成20年×月×日,本件及び本件を本案とする審判前の保全処分の申立てを行った。申立人と相手方との間では,同年×月×日の第1回審問期日において,未成年者の過剰歯除去手術のための申立人から未成年者の受診中の歯科医院へのカルテ送付や,同年×月×日の第2回審問期日において,相手方から申立人への健康保険証の返還などが話し合われた。しかし,いずれも,相手方の拒絶により,実行されなかった。
 申立人は,平成20年×月×日,東京地方裁判所に対し,相手方と男女関係のあった男性に対し,損害賠償訴訟を提起している。
 申立人は,平成20年×月×日,本件を本案とする審判前の保全処分については,取下げをした。
(3)未成年者の監護状況等
 未成年者は,平成20年×月×日から,△△市立○△小学校1年生に在籍し,授業終了後は,○△学童保育所に通所している。
 未成年者は,午後5時過ぎに一人で帰宅するかあるいは午後6時30分ころまで学童保育所にいて,相手方とともに帰宅している。
 土日は,相手方とともに過ごすが,相手方が仕事の場合は,ファミリーサポート等の利用で対応している。
 相手方と未成年者との関係は,良好である。
 未成年者は,ぜんそくの症状があるが,投薬で対応し,日常生活には支障がない。未成年者は,現在の通学先に慣れつつあり,学校生活でも特に問題は生じていない。
 未成年者は,転居ないしこれに伴う転校は希望していない(なお,相手方は,平成20年×月×日受付で未成年者の直筆による相手方との同居を希望する書面を提出しているが,申立人と相手方との紛争の経過や未成年者の年齢からして,本人の意思を聞き出すこと自体の相当性に疑問があり,これについては考慮すべきでない。)。
(4)申立人及び相手方の状況等
ア 申立人は,○○大学を卒業後,平成6年×月,○○□□に勤務している。申立人は,平成18年×月,○○△△に出向し,業務部に所属している。平成20年×月,業務部の課長に昇進した。
 申立人は,昇進前は,残業等により帰宅が深夜となることが多かったが現在は,平日午後7時30分ころから午後8時ころには帰宅している。
 申立人は,年収1000万円から1100万円を得ており,月額10万円(ボーナス時40万円)の住宅ローンを支払うほか,相手方に対し,婚姻費用として月10万円を支払っている。
 申立人は,○○市に居住していた申立人の実母(71歳)を呼び寄せ,平成20年×月×日から同人と同居している。
 申立人の実母は,未成年者と従前から交流があり,健康である。申立人の実兄夫婦は,○○県内に在住しており,未成年者と同年齢の子があり,申立人は,同人とも交流をさせる意思でいる。
 申立人は,看護師及びカウンセラー経験のある○○○○に依頼し,平成20年×月ころから,週火水木の3回午後3時から午後9時まで家事等を依頼している。
 申立人は,未成年者の監護養育については,実母と上記○○○○の協力を得て行う予定である。
イ 相手方は,○○短期大学を卒業後,米国に留学し,会社に勤務した。相手方は,婚姻後,専業主婦をしていたが,平成20年×月には,アロマテラピーの資格を取得した。
 相手方は,平成20年×月×日から外資系企業に経理事務を内容とした派遣社員として勤務し,手取りで月額16万円程度の収入を得るほか,相続不動産から月7万円程度の家賃収入を得ている。
 また,相手方は,アロマテラピーの講師も行っており,1か月に1回土曜日に講義をし,月2万円程度の収入を得ている。
 相手方には,未成年者の監護養育に当たり,近隣に居住し,援助協力をする親族はない。
(5)本件紛争後の申立人と未成年者の交流等
ア 平成20年×月×日,当庁の児童室において,申立人と未成年者の面会交流が行われた。同面会交流においては,特に申立人と未成年者との関係に問題があるとは窺われなかった。
イ 相手方は,申立人と未成年者との面接交渉については,反対の意思を表明し,裁判所による面接交渉の調整についても拒絶的対応を示している。
2 ところで,父母が事実上の離婚状態で別居し,子の監護について協議が調わない場合において,子の福祉のため必要があるときは,家庭裁判所は,民法766条,家事審判法9条1項乙類4号を類推適用して,子の監護に関し必要な事項を定めることができると解される。
 そこで,前記1で認定した事実に基づいて,父である申立人と,母である相手方と,そのいずれを監護者とするのが適切か検討する。
(1)前記1で認定した事実によれば,次のとおりの事実を認めることができる。
ア 相手方は,未成年者が乳幼児のころから現在に至るまで,ほぼ専業主婦として未成年者の食事等の身の回りの世話を行ってきている。相手方と未成年者との関係についても良好と認められる。
 未成年者は,まだ7歳であり,安定的に母子関係を形成することが重要であることからすると,相手方と未成年者を分離させることには問題がある。
イ 未成年者は,平成20年×月×日より,現在の居住地の学区にある△△市立○△小学校に通学し,学校生活には慣れつつある。仮に,未成年者が申立人宅に居住することになると,転校を余儀なくされ,学校生活の継続性が失われることとなる。
(2)しかしながら,他方で,相手方の未成年者の監護養育状況については,次のとおりの事実も認めることができる。
ア 相手方は,申立人と婚姻生活中,ほぼ専業主婦として未成年者を監護養育していたものの,幼稚園の迎えについては,延長保育や第三者に依頼するなどしたことが度々であった。また,相手方は,未成年者が幼稚園で精神的に不安定な状態となった際にも十分な対応をしていない。
 相手方は,当時,申立人との夫婦関係が悪化し,実母の入院,死亡等の事情があったが,これらを十分に考慮しても、相手方の未成年者の従前の監護養育状況に問題がなかったとはいえない。
イ 相手方は,現在,未成年者の学童保育の終了時間に合わせて帰宅しているが,相手方のこれまでの監護状況や現在の就業形態からすると,平日及び休日未成年者を身近に置いて十全に監護できる状況にあるとはいえない。また,相手方には,未成年者の監護養育につき援助協力する親類等もいない。 
ウ 相手方は,申立人と未成年者とが面接交渉をすることについて反対の意思を有しており,本件申立て以後においても,未成年者の通院等の手続についても申立人の協力を拒むなどした。相手方のかかる態度については,申立人と未成年者との交流を妨げる結果となっており,未成年者が社会性を拡大し,男性性を取得するなどの健全な発育ないし成長に対する不安定要素となっている。
(3)さらに,前記1で認定した事実によれば,申立人は,従前,未成年者の監護に関与しなかったわけではなく,未成年者との関係については問題はないこと,実母ほか監護補助者の協力を得て未成年者を十分に監護養育する環境を整えていることが認められる。
 そうすると,前記(1)で説示したことを十分考慮し,かつ,現在の監護環境の変更に伴って生じる未成年者の負担を鑑みてもなお,相手方を未成年者の監護者と指定し,相手方において引き続き未成年者の監護養育を行うことよりも,未成年者の監護者については,申立人と定めてその下において養育させるのが未成年者の福祉にかなうものと認められる。
3 以上から,本件申立てについては,理由があり,未成年者の監護者については,申立人と定め,相手方は,申立人に対し,未成年者を引き渡すのが相当である。
 よって,主文のとおり審判する。
(家事審判官 澤井真一)