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むくろ人形の怖い話19【クラクション】

『クラクション』

2020年3月30日にした話です。

『火野さんの話』でも出てきた、風俗嬢兼ライターのSさんにまた会ってきたんです。なんでも火野さん関連でまた騒動があったらしく、話せる相手が俺しかいなかったのでLINEくれたようでした。

火野さんというのは、第12話でお話しした俳優の火野翔平似の、Sさんの知り合いのフーテンじみた人で、まあ、色々すごい過去持った人なんです。(詳しくは第12話参照)

この話は昨年の11月、Sさんとその友人Hさんが体験した話です。

Hさんは、Sさんの大学時代の後輩。卒業後も友人として仲良くしていたそうですが、大学時代から少し抜けているというか、世間知らずなところがあって、Sさんはお姉さん的に接していたんだそうです。

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そんなHさん、社会人になってから彼氏(以後Tさん)ができたそう。ウブなHさんに比べて経験豊富という噂も多い人だったので、Sさん含め周りは少し心配していたそうです。が、Hさん惚れ込んじゃって、甲斐甲斐しく付き合い、なんやかんや同棲までするようになったんだとか。

そんな出来事から時は流れ、Sさん、ここ数年は忙しくなりあまりHさんに会えなくなっていったそうです。SNSで相互フォローしていたので音信不通ではなかったそうですが。

ですが、HさんのSNSでのラブラブな更新が、ある日を境にパタリと止まっていることに気がつき、何となく気になって、SさんLINEで「久しぶりに会わない?」と声かけたんだそうです。


で、11月の某日。2人は久しぶりに会って、美味しいもの食べたりしながら楽しく過ごしたのだとか。

Hさん、一見すると元気そうだったみたいで、安心したSさんはHさんと昔話に花を咲かせたらしいのですが、あれだけ夢中になっていた彼氏の話題を一切しないHさんに少し引っかかったそうで、タイミング見てそれとなく触れてみたんだそうです。

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Sさん「そういえばさ、Tくんとはまだ暮らしてるん?」
Hさん「え、うん、暮らしてるよー」

反応薄くて、これ以上触れるのやめようかとも思ったそうですが、こういうときは大抵悩んでいること知っていたので、もう少し突いた。

すると、徐々に今の生活について話してくれたそうで、
簡単に言うと、先月、Hさん、妊娠が発覚したんだそうです。


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Sさん慌てながらも心から祝福して、それ見たHさんも嬉しそうに照れていたらしいです。

でも、よく聞くに、その頃からTさんがなんだか冷たくなっていったらしくて、考えないようにしていたそうですが、明らかに自分を疎んでるというのです。

Sさん情にあついところがあるので、父親らしからぬTさんの態度に腹が立ったそうですが、内向的なHさんは「うーんでもそういう気持ちになるのかもしれないよ、男の人って…」みたいな感じなんだそう。

Hさん、なんだかTさんのことを後ろめたそうに擁護するというか、なにか隠しているようなテンションだったそうです。少しずつ核心に迫るように会話をしていると

Hさん「でも、雨降ると『また車来た』とかって怒鳴るのだけはマジで意味わかんないけどね〜」

Sさん思わず、「ん、どういうこと?」と聞き返したそうですが、

Hさん「なんかねー、アイドリング? してるんだって車が、外で。プープーってクラクションもずっと鳴ってるって言うのよ」

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Sさん「え?」

Hさん「『ちがうよ』とか『ちょっと無理って言ってきて!』ってすごいわめくから、寒いのに傘さして外見てもさ、誰もいないのよ。『誰なの?』って聞いても、めっちゃキレるの。意味わかんなくない?」

Sさん「え、借金取りみたいなこと?」

Hさん「いやいや、知らないよ! 借金ではないよー。ってか、聞こえてないからあたし! あー酔っちゃったー」

Sさん、ちょっと意味がわからなくて黙っていたら、お酒入って饒舌になった様子のHさんが「お化け的なことなんかな…? そうか、そういうこと!? 最悪なんだけどー!」って騒ぎ出しちゃって。

Hさん「そういやSちゃんそういうの結構詳しかったよね? 知り合いとかもいない?」

で、Sさん、火野さんの話とかしちゃったそうなんですよ。止めればいいのに。そしたら、Hさん盛り上がっちゃって「一回見てもらいたい」って聞かなくなっちゃったんだそう。

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飲み会以後、こまめにLINEをする中で、Hさんのしつこい懇願に負け、年明けの1月になんと、火野さんを交えた飲み会開いたんだそう。

彼氏のTさん、Hさんから一連の話聞いた時、不審がっていたそうですが、なんとか説得したそうです。


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当日、雨降っていたそうですが3人で繁華街で待ち合わせ。

Hさんは来たがったそうですが、体のこと考えてお留守番。SさんとLINEで中継的な感じになったみたいです。

火野さんは、彼にしては珍しく時間通りに来て、うまくいくか不安だったものの、思いの外普通に会話は進んだそうです。

火野さんも、基本調子いい人なんで冗談交えつつ、怖い話も披露して盛り上がったそうです。

で、ひとしきり盛り上がったところで、SさんからHさん家の雨の日のことを伝えたそうです。

火野さん「はーん…」

Sさん「なんか、分かることとか、近い話とか聞いたことないですかね〜...」

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特に何もなくて。

急に、その場、盛り下がっちゃったらしくて。

「あたし、この辺りから記憶あやふやなんだよね。でも、タバコ買いに行ったのは覚えてる、一人で」Sさんそう私に言ってました。

その後、特に進展もなく、「どうしようかなぁーこの空気」とか思いながらSさんは傘差してコンビニ向かった、ということは覚えているそうです。

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ふとLINE見ると、Hさんから結構返信きてることに気がつく。

「どんな感じ?」
「なんか火野さん言ってた?」
「聞いてっかー!」
「マジ、なんか言ってた? ねえ?」

「ごめん! ちょい酔ってた! 楽しくやってるよー。でも火野さんにあの話したらなんか、気まずくなっちったw」

すぐ返信きて。

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「男同士だからわかるものあるかもとか言ってたのに...ウケんだけど」「??」
「くだらないよね、そういうのさー」

そうこうしている間に、コンビニの中入って、タバコ買って、出て、またLINE来てて。

「ねえSさん、ずっと友だちでいてくれる?」
「なにー? もちろんだぜ」

って返して、笑顔の絵文字きて。お店戻ったそうです。


戻ったら、火野さんタバコふかしながらちょっと落ち着きなくて、Tさんいなくて、Sさん「あれ、Tくんは? トイレですか?」って聞いたら、

「帰った。もう戻んないかもしれんわ、悪い」

って。

「は? 帰った!?」

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火野さんから話聞くと、Sさんがタバコ買いに行ってすぐ、Tさんが語り出したそうなんです。

「こんなことになるはずじゃなかった、ってずっと言ってくるんですよ...。それ聞いているうちに、俺も『この子、いい子だけど人生つまんなくなっちまったな...』って思えてきて。もっと、男同士で、それが楽しかったから、だから彼がそうしたってわかるんですよ…」

「あの時、俺だけ彼女できちゃったから、だから『もうくんなよ、楽しくねーだろお前も』って言われたって。それずっと忘れられなくて、だからハンドル切ったんでしょうね…思いっきり、『どうでも良いや』って」

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そう言うなり、Tさん黙ってしまったんだそうです。


火野さん「だからさ、『もう帰ったら? お前じゃないんだし。奥さん大事にしなよ』って言ったのよ。でも聞かなくてよぉー。勘定はしてくれたよ」

Sさん「いや…ちょっと、意味がわかないんだけど…」

火野さん「でも、もうどうしようもねぇかもなぁ。なんであいつだったんだろうな。お腹に赤ちゃんいんだろ、あいつの嫁さん? だからかなぁ…まあ、もういいか…」

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Sさん「…なに言ってんすか」

火野さん「まあいいや、出ようか。俺もわかんねぇよ、勘だから責任持てねぇし」

火野さん出て行っちゃって。

Sさん、Tさんに電話しても出なくて、Hさんに慌てて電話して、「(あたしなにしてんだろう…どうしよう…)」ってすごく怖くなったそうです。

コール音、雨音、少なくなってくる喧騒、同時に涙溢れて、Hさんが電話出たときにそれは同時に起こったそうです。

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ブゥゥゥ----ン バァ---ン!!



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って言う車のけたたましい加速音と衝突音が、目の前から迫ってきて、2人を追い越したんだそうです。


Sさんも火野さんも傘落として固まっちゃって、そしたらSさんスーーっと手足の血の気引いちゃったそうです。

直後に

プーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

っていう不快なクラクション音が、耳元でズーッと鳴ってて、パニックになったそうです。

同時に火野さんも「なんだおい!」って慌てて、なんか周りキョロキョロしていたそうです。

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しばらく呆然としていると、フッと周りの音戻ってきたそうです。

そこで気がついたらしいんですけど、車なんかいなくて、二人だけが雨の中尻もちついてて、親切な人が「どうしたんですか」とか、大半が見て見ぬ振りしているとか、そんな異様な状況になっていたらしくて、手にしてたスマホから「ねぇ!! ねぇ!!」ってHさんの叫び声聞こえて。

慌てて出たら泣いてて。

「ご、ごめん……今、え、どういうことこれ」
「Sも聞こえた!? 私も聞こえたの、部屋の中で!! なにこれ…あと、ボコボコボコって水の中みたいな音聞こえたよね?」
「いや、私、クラクションが…」
「え? あ、Tくんいる? 彼、大丈夫?」
「え、あー、いや、ごめん…あ、そうだ居なくなっちゃって…」
「え!? え、どうしよう…」

Sさん、とりあえずHさんのところに向かうと伝えて、電話切ったそうです。

火野さんに音のこと言うと、「俺、人だかりの音がしたんだけど…この人たちじゃなく」って、周囲の人たち見渡してて。

Sさん「私、クラクションの音で、Hちゃんは水の中の音みたいだったって...」言ったら、火野さん急に青ざめて帰ろうとするから引き留めたら、

「あいつらが、バラバラで死んだんだよこれ...その音かこれ...」

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Sさん「は? どういうことっすか?

「バラバラで死んだんだよ! 飛んでったんだって、それぞれの頭が! だから音全員違うんだよ!」って怒鳴られたそうです。

その後、火野さん「もうこんなんで呼ぶな!」って怒って帰ってしまったそうです。

Sさん、去っていく火野さんを呆然と見てて、ふと我に返って慌ててHさんの家向かって、夜中にHさん家着いたら彼女大泣きしてて、Sさんよくわからないけどすごく謝って、そしたら「さっき警察から電話きて、Tくん事故に遭ったって」って言うんだそうです。家に帰る途中に車にはねられて亡くなってしまったんだそうです。

その後、Sさん、そしてなによりHさんはひどく落ち込んでしまったそうです。でも、Hさんの周りのご家族や、Sさん含む友人たちの支えもあってなんとか元気取り戻し、無事赤ちゃんも出産。順調に大きくなっているそうです。


後でわかったのですが、二人でドライブをしている時に、急に彼がブレーキかけて黙り込んだ時があったそうで、その時はすぐ元に戻ったそうですが、それ以来、クラクションの音が聞こえるようになったそうです。

ちなみにSさん、火野さんとは今、連絡控えているそうです。
(「申し訳ないと思っている」とのことです)

おわり

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