アキバで奇妙なペットを買って愛護協会へ持ち込む夢

2020年3月8日の夢日記

 アキバを散策している途中、あきばお~で「スラリー」というペット玩具の亜種みたいなものを見つけた。店の表に出てるカゴの中にいろんな色のスラリーが入っていてどんどん買われていく。
 スラリーはネットでも話題の流行りのペットだ。肉まんくらいの大きさのプニプニした塊で口も内臓もなく、身体に蓄えた栄養だけで三ヶ月から半年ほど生きられる。神経もなく痛みも感じないらしいが、触るともぞもぞと動く。一応動物の一種らしいけどそんな特徴なので「ペット玩具」と呼ばれ、あまり動物的な扱いは受けていない。
 本物のスラリーは目の代わりとして黒い石が二個はめ込まれているんだけど、あきばお~にある偽スラリーは赤い目の様な石が一個だけはめ込まれていた。本物がピンクと水色の二種類だけなのに、偽スラリーはカラーバリエーションも豊富で、いかにも中華製の偽物という雰囲気がある。体表も綺麗ではなく少しムラがあるようだった。

スラリー

 スラリー自体にはそこまで興味がなかったけど、本物が一万円以上するのに偽スラリーは3000円とかなりお得だったので買ってみる事にした。カゴに「質問不可、バルク品」と書かれていたけど、近くに居た店員に「これ寿命はやっぱり3ヶ月くらいなんですかね?」と聞いてみたら「寿命は本物と同じみたいですよ」と教えてくれた。ピンクと水色以外にも黄色とか緑とか色々居て迷ったものの、やはり本物っぽいのが良いかと思ってピンクを買う事にした。

 帰りの電車で袋に入れたスラリーを触りながら飼い方を調べてみた。飼い方と言ってもエサ不要でフンもしないし、ほぼ置いておくだけのようだった。徐々に大きさが小さくなっていって、ある日突然死んで翌日には身体が全て溶けてしまい、目の代わりに入ってる黒い石だけ残るらしい。飼い方が簡単なので子供に人気という事のようだった。
 スマホをいじっているとスラリーが「ククククク」という鳴き声の様な音を出す。なんだろうと思って調べてみると、多くの人が「鳴き声」と捉えているものの、実際には体表組織の摩擦でそういう音を出すようだった。

 家に帰って空いている皿に食塩水を薄く張って、そこにスラリーを入れて飼う事にした。こうすると気持ち長生きするとツイッターのフォロワーが教えてくれた。本物のスラリーと比べるとちょっと不気味だけど、何となく情も移ったので3ヶ月で死んでしまうのは少し哀しい気がした。

 スラリーをしばらく飼いながら長生きさせる方法を調べていたら、スライリー愛護協会という組織があってそこがスラリーを長寿命化してくれるという情報を見つけた。「スライリー」はスラリーの元になったアマゾン奥地に生息する動物の事で、愛護協会は「スライリーからスラリーという玩具目的の動物を作り出した事は倫理に反する」と言っているようだった。スラリーをスライリーに戻す手術をすると寿命が30~50年程に伸びる。おまけに手術費は愛護協会持ちなので無料でやってもらえる。どうせ長くは生きられないのだからダメ元でと思って連れて行く事にした。

 八王子にあるスライリー愛護協会の施設にやってきた。郊外にある大きなコンクリートの建物で悪の組織の秘密基地のような雰囲気だ。噂によるとアメリカ(本部)ではスラリーの製造工場へテロ攻撃を仕掛けようとして逮捕者が出ているらしい。どう考えてもヤバめの環境保護団体だけど、スラリーの寿命を伸ばすにはここに頼むしかない。
 中に入ると意外と綺麗で、受け付けの女性に「スラリーを長寿命化したい」と伝えると直ぐに応接室へ通してくれた。白衣を来た男性がやってきて同意書などの書類を出しつつ、スラリーがいかに酷い扱いを受けているかを話してくれた。
 彼によると、アマゾンに居るスライリーは樹上で暮らす軟体生物で貝の仲間に属すらしい。原始的だけど神経も内臓も口もちゃんとある生物で、何十年か前に発見されてからアメリカに持ち込まれ、遺伝子操作で徐々にペットに適した形に改良されたんだとか。現在のスラリーの形になったのは3年ほど前。そこからアメリカでは一大ブームになって、日本にも輸入され始めたらしい。
 白衣の男性は「スラリーが増えれば希少種であるスライリーの生息が脅かされ、生物多様性が失われるのです」と力説していたけど、その理屈はおかしいし生物多様性とは関係ないだろ、と思った。

 スラリーの長寿命化手術は直ぐに始まった。手術室には自分と医師(白衣の男性)と補助の看護婦の3人だけで、部屋も特別な感じではなく単なる空き部屋っぽかった。真ん中の机の上に大きめの金属トレーがあって、その中に自分のスラリーが置いてある。
 医師は「まず栄養剤と細胞活性剤を入れます」と言って大きな注射器を取り出してスラリーに赤い液体を注入した。スラリーは2~3倍ほどの大きさに膨れ上がって、ところどころひび割れができてそこが赤く見える。更に医師は「神経幹細胞を入れます、直ぐに神経が形成されます」と言って太い針の注射器から白い糸みたいなモノを注入。ここまでは特にスラリーの反応もなくスムーズに進んだ。
 看護婦が電子レンジくらいの大きさの装置の乗った台車棚を押してきて、医師が装置から金属棒を二本引っ張り出してスラリーに当てた。

「これから電気ショックを与えます。電気で神経発達を促す事で内臓などが形成されていき、スライリー本来の姿に近づきます」

 そう言いながら電気をバリバリ流すと、スラリーの身体は激しく収縮しながら沸騰したようになって、表面にボコボコと腫瘍のようなものができ始めた。膨らみの先端からは栄養剤が吹き出していて血のように見える。

「口を作って、人工眼を取り出して終わりです」

 医師は電気ショックを止めてメスに持ち替えた。ブルブル震えるスラリーを押さえつけて、腫瘍のような膨らみの先端を切開する。中から赤い栄養剤が噴出し、ギギギギギと不快な音を発し始めた。医師は幾つか同様の口を作った後、眼の代わりにはまっていた赤い玉をメスでえぐり出した。

 淡桃色のあんまんのようだったスラリーは、イボだらけのデコボコした赤黒い塊になってしまった。時折、口からギギギギ、ブブブブと不快な音を発している。これであと30年は生きられるようになったらしかった。

 応接室に戻ってお茶を飲んでいると受付に居た女性がやってきて「スライリー愛護協会が飼育を代行するサービスもやっていますよ、月1000円で多くの方がスラリー長寿命化手術の後にご利用されています」とチラシを一枚くれた。スライリーはスラリーと違ってエサも食べるし糞もする、おまけに神経が発達しているので触ると怒って体液を飛ばすらしい。なるほどこれで資金を集めているのか……と納得しつつ、預かりをお願いする事にした。

 預かりの書類を書いて、そのままスラリーは見ずに帰る事にした。電車の中で前に座った子供が大事そうに袋を抱えている。隣に座ったお父さんが袋の中からピンク色のスラリーを取り出し、子供はそれを大事そうに受け取って撫で始めた。

 やっぱり、愛護協会に預けるのはやめようと思った。チラシには飼うのが難しいような事が書いてあったけど、飼ってみてから改めて考えても良い。だいたい月1000円を30年も払い続けるのもバカらしい。

 スライリー愛護協会の施設に戻ってみると、受付の女性が居ないようだった。勝手に中に入ってウロウロしているうちに「スライリー飼育室」という部屋を見つけた。ドアを開けてみると小さめの部屋の四隅が全て棚になっていて、そこにぎっしりとスライリーが並んでいる。どれもデコボコで気持ちの悪い見た目をしていて、ギギギギギ…ブブブブブ…と不快な音を発している。壁も床も赤い体液だらけで、ちゃんと世話がされているのかどうかも怪しかった。
 こんな場所に置いては帰れない……と思ったけど、もうどれが自分の連れてきたスラリーだったのかわからなかった。せめて一番マシそうなスライリーを連れて帰ろうかと思って選ぼうとしたけど、どれも気持ちの悪い肉塊にしか見えず、結局そのまま家に帰る事にした。

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