マガジンのカバー画像

不条理短篇小説

116
現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
運営しているクリエイター

2023年4月の記事一覧

短篇小説「ピンと来ない動詞」

短篇小説「ピンと来ない動詞」

 今朝、わたしはふと気が生えたのでした。わたしの言葉が、どうもわたしの動作を的確に茹で上げていないということに。

 いつものように、わたしは駅へと歩を注いでいました。もちろん、わたしを会社員として抱き締めた会社へと潜るためです。潜るといっても、わたしはスパイではありません。れっきとした正社員なのですが、なぜかいまは潜るという言葉しか芽吹かないのです。

 前にはびこる乗客に続いて、わたしはパスケ

もっとみる
短篇小説「弁解家族」

短篇小説「弁解家族」

「なんだよ、観てたのに」
 酔っぱらった末にソファーで横になっていた夫が、急に喋り出したので妻は驚いた。夫は咄嗟に妻の手からリモコンを取り返すと、テレビに向けた。
「観てたって、何を?」
 再び叩き起こされた画面に映し出されていたのは、真夜中の通販番組であった。元グラビアアイドルが、台本どおりの大袈裟なリアクションで矯正下着を売っている。しかし実際に下着を着用しているモデルは、どうやら素人の体験者

もっとみる