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女の恋愛観ってどんなの?『てのひらに秘密をひとつ』があるある過ぎて、たまらなく辛い

先日、とある男子から「少女漫画は男のAVだろ?」って言われました。

「こういう漫画の男や仕草をかっこいいと思ってるんだろ?」

「ああいう男や仕草に萌えるんだろ?」

「だからモテたい男は少女漫画を読めって言うんだろ?」みたいな。

あのなー、思いっきり否定したけど、なんか頭が凝り固まってるみたいで耳に入らなかったみたいです。もちろん、中にはそういう物語もあります。「ハーレクイン・ロマンス」シリーズ(世界的に有名な、女性向け大衆恋愛小説の火付け役と言われる会社の恋愛物語シリーズ)とか。だけど月間500冊ほど新刊が発売される少女漫画・女性向け漫画(以下、双方を少女漫画として表記します)のうち、そんな萌えだけで成り立っている作品は一部です

少女漫画は少年漫画に比べてゴールや目標が見えにくいのが特徴で、出来事よりも心の機微に着目しているため、大事件が起こらないことも多いです。 前述の超萌え萌えかっこいい俺様系男子が出てくる少女漫画の対極にあるのが、「ご近所の悪い噂」とか「嫁姑バトル」みたいな、実話系ワイドショー少女漫画だとしたら、実際はその中間地点にある作品が多そうです。リアルにありそうな事柄を述べながら心の機微を描いていって、読者の共感を呼んだり、主人公の成長を描いたりします。

数多くの少女漫画の中から、読み手が楽しめるものは、その人の精神的成長度合いが重要になってきます。

成長度合いを主に分けると「①恋に恋するイケメン憧れ期」、「②現実の男に超ガッカリなんだけど期」、「③怒り期」、「④どうでもいいから楽しむか期」です。

①恋に恋するイケメン憧れ期

小中高生くらいで、現実の男性を知らず(男性にケモノのような性欲があることや、自分の肉体だけを目当てにされる場合を知らない)、アイドルや二次元に真剣にドキドキしちゃうころです。「もちろん付き合うならイケメンがいい!」と思ってます。このころに読む少女漫画は、やっぱりイケメンや王子様ものが多いです。「男性はこんなにステキなんだわ」なんて夢見てます。俺様とかツンデレものとかが楽しい時期です。

②現実の男に超ガッカリなんだけど期

実際に男性と付き合うようになったりして経験値が増えてくると「あれ? なんか思ってた男性像と違くね?」とわかってくるころ。警戒心が薄いので自分の誠意を利用されてヤリステ(性的な関係を結んでも、その後交際などに発展させる気がなく、理不尽に関係を途絶えさせること)されたり浮気されたりとかで、死んじゃいそうなくらい嫌な目に遭ったりします。

③怒り期

そういう男性経験を経たり、社会に出て仕事をするようになると、社会の男性偏重なところや、周囲の男性からのセクハラに気づくようになったりして、男性に対する怒りがボンボン湧いてきます。「②現実の男に超ガッカリ期」や「③怒り期」に入って現実を知ると、恋に恋する系の漫画に戻ることも。イケメンや王子様ものの中でも、癒やし系、年下系が楽しくなってきます。「ああ、現実を忘れさせてくれる少女漫画って楽しい……」みたいな。同時に、女の業や息苦しさを描いた作品に共感し、ジンジンくるようになってきます。

④どうでもいいから楽しむか期

そういう怒りを乗り越えて「男はそういうものか」みたいに達観したり、自分に合う相手を選べるようになってくると、自分の性を楽しめるようになってきます。少女漫画でも、俺様やツンデレ萌えには戻れません。過去に読んできた作品を振り返って、自分の性癖を自覚したりします。

ちなみにどの段階でも、ボーイズラブの沼に落ちる可能性があるので注意です。

という感じで、単にイケメンが登場する少女漫画でも、人の成長具合によって楽しみ方が異なると思われます。なかでも②期以降の女性たちに絶大なる支持を得たのが『深夜のダメ恋図鑑』でした。

作者の尾崎衣良さんは、女が抱える男性への鬱屈した思いをガンガン描いてくれる作家さんです。

そんな彼女の新作で、今回紹介する『てのひらに秘密をひとつ』は、一転して男性へではなく女へのダメ出しに変わっていました

女の生きづらさを描きつつ、しかしそれをまるっと集合体としての男のせいにはせず、救いがある公平な物語になっています。

1巻は3つの短編からなっていて、それぞれ主人公が異なりますが、微妙に全員リンクしていて連続した物語になっています。そして、どの話も「あー、わかるわぁ!」と叫びたくなります。

1話目は人との距離感がわからなくて、単なるお人好しになってしまった沙季(さき)のお話。彼女は過去の恋愛に罪悪感を抱いています。一方その相手の男はのうのうと暮らしてるってのが本当にもう腹立たしいですね。

2話目の主人公は夫とのセックスレスに悩む一絵。最近、セックスレスを描く女性向け漫画が多い気がしますが、男性たちから「女が性を語るな」「嫁は清楚な女がいい」という呪いをかけられた女たちの叫びですね。きちんと性について話し合えないから、鬱々と悩むことになってしまうんです。一絵の夫のように無神経で差別的なことを言ったり、振る舞ったりする男性はめちゃくちゃ多そうだなというか「こういう人いそうだよね」って容易に想像がつきます。

3話目の主人公・帖佐(ちょうさ)は、一見嫌な女だったけど、彼女の行動の原因を知ると「なるほど仕方ない」って気持ちになります。

どれも「①恋に恋するイケメン憧れ期」にはわからない、もしくは読みたくない物語です。「②現実の男に超ガッカリなんだけど期」にはちょっと生々しくて痛いかも。「③怒り期」以降は「あーわかる!」「いるよいる、こういう男!」「私も反省してたわ!」って共感の嵐になりそうです。

それにしても、一絵の物語は特に重苦しい。「結婚しなきゃ」というプレッシャーと周囲の空気に流されて結婚した男女って、多いと思うんですよ。私たちは、「誰が自分のベストパートナーか」とか、「自分の人生をどう生きたいか」ということより先に、ひたすら「就職したら結婚、就職したら結婚」と呪文をかけられてる気がします。

そして男性たちの女の気持ちへの不理解ったら宇宙人かと思うレベルですよね。一絵も、夫が述べた反省にこう言い返します。「違うよ。そんなことはどうでもよかった」って。

あー、なんか今思い出したけど、和久井も離婚するときに夫からものすごくどうでもいいこと言われたな。「俺が土曜日に働いてるのが嫌だったの?」って。私そんなことひと言も言ってないのにな……。結局、なんにも通じてなかったのかって悲しくなりました。

和久井は「モテたければ少女漫画を読め」運動をしていますが、それは「壁ドンテクニックを磨け」なんてことじゃありません。少女漫画には女の思考回路がギュッと詰まっているからです。女はどういうときにどんなことを思うのか、恐らく男性には想像もつかないことばかりでしょう。

男も女も、相手に勝手な理想を押しつけると不幸の元ですよね。だけどどうしたって男女はすれ違うもの。だからこそ誠実になって、正直に素直に言葉を尽くしていきたいものです。そういう人と、私は知り合いたい!!

しかし一絵の夫への復讐は、ちょっと恐かったです。根が深い……!

WRITTEN by 和久井 香菜子
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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