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リンチ、拷問、レイプ……記憶喪失した自分の罪とどう向き合う?『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』

私は昔から本屋めぐりが好きで、まったく名前を知らない作家さんの本を「表紙買い」することも多かったのですが、最近では電子書籍のストア欄で同じような事をしています。本作に関しても、まず最初に目を引いたのは表紙の絵からでした。

「自分」が女の子の首を絞めている光景。しかも彼女はなぜか笑みを浮かべている……?

この異常な「光景」が気になって、読んでみる事にしました。どこにでもいそうな能天気な高校生、斉藤悠介。最近はついにガールフレンドとの初キスに成功し、まさに幸福の毎日。しかしそんな彼には、過去15年間の記憶がありません。一年前の春、突如行方が分からなくなった彼は、半年後に発見された時、それまでの記憶を失っていたのです。それからの半年間、失った記憶を取り戻すようにクラスメートや家族との絆を積み上げてきた彼の日常は、ある日、粉々に崩壊します。

きっかけはバイト先の友人の一言でした。彼の背中には醜い火傷のあとがあり、理由を聞くと中学の時に「いじめ」にあったからだと言う。クラスのボス的な奴に目を付けられ、煮えたぎるヤカンの熱湯を背中にかけられたのです。

……あーゆーの
実際やってみると想像以上にエグくて
周りはドン引いたりするわけ
けどソイツ よっぽどツボったんだろーな
腹抱えて笑ってたよ ずっと

……まさにサイコパス!人の痛みをわからない悪魔の所業!そして友人は、その人物が目の前に現れた事を告白します。

お前だよ 斉藤悠介
……え、オレ????

あまりの事に、事態が飲み込めない主人公。そりゃそうです。普通の日常を送っていた人間が、残酷な犯罪の記事を見せられて「この犯人はお前だ!」と責められるようなものです。しかしその友人(の振りをしていた被害者)は憎悪の目で主人公を殴りながら続けます。

全部っ!! 全部テメエのしわざだろうォが!!
この火傷も
宮田の骨折も
一之瀬強姦したのも
アイツを殺したのも!!

うわー、なんか……とんでもない余罪が次々と……
ここに至って主人公も、過去の自分がとんでもない人物であった事を理解します。

今まで彼が、多くの人を傷つけ、恐れさせてきた事を。

彼らの憎悪は一年経った今も全く収まっていない事を。

今更「忘れました、ごめん」では済まされない事を。

たとえお前が忘れても 俺達は絶対に忘れない
これからオマエは未来永劫 過去に復讐され続けるんだ

こうして主人公は、否応なく過去の自分の記憶と向き合わされる事になります。

自分は半年間の失踪中何をしていたのか?なぜ記憶が失われたのか?自分は本当に人を殺したのか?アイツって誰なのか?

真実が分かったところで罪が償われるわけではない。だってもう「終わってる」んだから。幸福な結末なんかないことは分かっているのに、先に進まずにはいられない。そんなどす黒い魅力に満ちた作品です。

まったく救いのない「自分探し」の物語を読んでみて下さい。

WRITTEN by 新里 裕人
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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