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高齢処女・百合ちゃんこそ真の主人公!『逃げるは恥だが役に立つ』最高のエンディングに感涙が止まらない!

この記事は、以前「マンガ新聞」に掲載されていたレビューの転載記事です。(編集部)

終わった…終わってしまった……。

『逃げるは恥だが役に立つ』の最終巻が先日発売されましたね! 大好きすぎて楽しすぎて新しすぎて何度も読み直してきた作品がついに終わってしまいました…! その終わり方が本当に最高で、余韻に浸りまくっております。まずは叫びたい。

百合ちゃーーーーーーん!!!!!

うるさくてすみません! でも、すでに最終巻を読まれた方、特に女性の方は、この叫びたい気持ち分かって頂けるに違いありません。

この作品、ドラマ化されて社会現象にもなった作品ですから皆さんも何となくあらすじはご存知とは思いますが、一応ザックリこの名作のストーリーをご説明いたしましょう。

森山みくりは、大学院卒の高学歴女子。しかし正社員として採用されたことは一度も無く、ついには派遣切りで無職に。 見かねた父親の勧めで、父の元部下で独身の平匡(ひらまさ)さん(高齢童貞)の家で、家事代行として働き始めました。それはお互いにとって、かなりメリットが大きな生活。この関係を維持するために、ふたりは契約結婚をすることに。みくりと平匡さんの、ぎこちなくも愛情を少しずつたぐり寄せるような暮らし、そして現代社会に新しい形の結婚や仕事のあり方を提案する内容に、全読者が身悶えながら、かつ頷きながら読みふけってきた作品なのです!

みくりも平匡さんも超魅力的なキャタクターで、ふたりが距離を縮めていく過程を、そりゃあもうドギーマギーしながら見守ったものですよ! しかしながら、私の中では主人公はみくりでは無かった。私は完全に、みくりの伯母さんの百合ちゃんを主人公として読み進めてきました。(以下、ネタバレあります)

美人で仕事もバリバリできる百合ちゃんは50代で独身。そして、実は処女。さらには処女のまま閉経したというメガトン・インパクトなキャラクターなのです。1巻でそれを知った時、かつてない凄いキャラクターがやってきたと震えながらレビューを書かせて頂いたものです。

そんな百合ちゃんですが、私が特に「もうたまらん!」となったのは7巻です。

「あたしは独身で子供もいないけど楽しく暮らしてるし それで安心する人もいるんじゃないかと思ったりね なら 年を取って一人なのが怖いっていう人に あの人がいるじゃないって安心するような存在になれたらなって(略)結婚しないと子供がいないと不幸っていう強迫観念から若い女の子たちを救ってあげたいなって」
※『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ/講談社)7巻 第34話『時は金なり』より引用

こんな台詞を笑顔で言い切ったりするんですよ百合ちゃんは!で、その後泣いたりするんです、好きだ!

あああ百合ちゃん! 私も独身で子供もいないけど楽しく暮らしている。けど、将来おばあちゃんになって、正月に独りポツンと過ごしてる時に、子持ちの友達の「孫たちが家に大集合! 張り切ってお節作ったら腰が痛いヨボヨボ」なんていうFacebook投稿を見たりするわけでしょ!? そんな時、何で若い時に必死こいてアッチ側に行く努力しなかったのかって死ぬほど後悔しないかな…。と不安に思ったりするわけじゃないですか!! でも、そんな未来の自分妄想に震えている時に、超生き生きと暮らしている独身の先輩が、楽しそうにモロッコ旅行に行っている投稿してくれたら絶対安心する!

これは完全に想像なんですけど、百合ちゃんは最終巻では54歳。54歳で一流企業の管理職ってことは、百合ちゃんは仕事をする上でも、常に上記引用のようなことを考え、女性の社会進出のお手本として、先陣切ってあらゆる呪縛と戦って来てくれた人なのではないでしょうか。だってほら、男女雇用機会均等法は1986年施行でしょ? 当時23歳の百合ちゃん、ほぼ一期生じゃないですか! 総合職と一般職に分けられた女の戦いも、男性からの「女は引っ込んでろ」「これだから女は」とかも、上の世代からの「結婚して家庭におさまるのが女の幸せ」というプレッシャーも、全て跳ね返してきた世代なんですよ!

(私の想像の中で)社会的に戦いまくってきた百合ちゃんが、プライベートの生き方ですらも女性のロールモデルたらんとしている姿はもう、たまりませんでした。

そんな百合ちゃんが、8巻でついに25歳年下のイケメンから告白される…!!

1巻の第1話で、

「誰からも一度も選ばれないってつらいじゃない?」
※『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ/講談社)1巻 第1話『秋の日はつるべ落とし』より引用

って言っていた百合ちゃんが、殿方から「選ばれ」、迷いの後に彼とお付き合いすることを「選ぶ」。そんな過程で年齢や周りの目という呪いを解消していく様子が描かれた最終巻は、本当に最高すぎるエンディングでした! 選ばれるじゃなく、選ぶ。結婚じゃなく、お付き合い。自分を貫きつつ、新しく拡がった世界を味わい尽くすという選択をする百合ちゃん、最高かよ!!

今まで、こんなに手放しでキャラクターの幸福を喜んだこと無かったかもしれないなあ…。私も、百合ちゃんからもらった感情を大切に丸い結晶に閉じ込めて、棺桶に入れて天国まで持って行きたいと思いました! 海野つなみ先生、素晴らしい作品ありがとうございました!

WRITTEN by 上原 梓
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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