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宿泊施設のデジタル化の重要性(2) 〜デジタルマーケティングとエクスペリエンスの重要性について

第一回では、宿泊施設におけるデジタル化とデジタルマーケティングについて述べたが、今回はその重要性について、詳しく説明していく。

3. デジタルマーケティングの重要性

デジタルマーケティングの重要性については言うまでもないが、オンライン売上の観点からその重要性を再確認してみる。

3.1 宿泊施設のデジタルタッチポイントからの売上

オンラインでの売上はどのような推移となっているのだろうか。
eMarketer (2018)では、2017年の世界全体の旅行市場を前年比12.4%増の6,288億米ドル(約140兆円)と分析しており、2018年は、10.4%増の6,944億米ドル(約147.7兆円)と市場の拡大が続くと予想した。

一方、日本の状況はどうであろうか。少し古いデータとはなるが牛場春夫,酒井正子,齋藤謙一郎,志方紀雄(2016)が行った日本国内のオンライン旅行市場を対象とした調査によると、2015年度の国内オンライン旅行の市場規模は9兆7,033億円。2013年度と比較すると15.6%の増加という結果であった。
さらに、オンライン販売比率においては、39.4%と2013年度の33.9%から約6ポイント上昇した。

世界においても日本においても、オンラインでの旅行商材の売上が増えており、宿泊施設もこのオンライン販売を最大化するための活動に力を入れていくべきなのは明白だ。

4. 宿泊施設におけるデジタルエクスペリエンスの重要性

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4.1 顧客にとってのデジタルエクスペリエンス**

オンライン旅行市場が世界的にも日本国内においても広がってきているというのは前述の通りである。さらに2020年の東京オリンピックをはじめとしたイベントを控え、JTB総合研究所 (2018)によればインバウンド市場が盛り上がっており、みずほ総合研究所 (2017)は宿泊施設の供給量が増える予測を立てている。オンラインにおけるチャネルの選択肢も増えていく中で、売上を最大化するために、宿泊施設はどのように対応していかなくてはならないのだろうか。

デジタルの世界で顧客にとっての最適な購買活動を提供していくには、良い製品を作り、然るべき接点で顧客へ伝えて、予約につなげ、顧客に最良の宿泊体験をしてもらい、さらにはリピーターとして戻ってきてもらえるよう戦略的に考えていくことが重要になってくる。
つまり、なるべく多くの顧客の購買から宿泊体験の物語を基にした消費者行動・属性分析「カスタマージャーニー」を使って戦略を考えていくということだ。

4.2 旅行におけるカスタマージャーニー

旅行におけるカスタマージャーニーには、アメリカのサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱したAIDMAや、電通が提唱したAISAS行動分析など、いろいろな説明がある。筆者が紹介したいのは2015年にGoogle (2016) が提唱した、スマートフォンを中心に据えたマイクロモーメントという考え方である。
スマートフォンの普及によって、顧客は「何かをしたい」と思ったとき、目の前にあるデバイスですぐに調べる、購入するという行動を起こすようになった。この行動を起こす瞬間をマイクロモーメントと呼んでいる。Google (2016) によれば、朝起きてから寝るまでの間に、生活者が1日にスマートフォンをチェックする回数は150回だと言われている。何かについて調べたいと思った時、60%の人が最初にモバイルを手に取っており、旅行者の69%はちょっとしたすきま時間にスマホを使って、旅行プランを検索。そしてその半分ほどのユーザーが、いくつかのチャネルを使って予約をしているというデータもある。

4.3 Googleが提唱するマイクロモーメント

Google (2016, 訳・注は引用者による) は、この旅行におけるマイクロモーメントを4つの切り口にして説明している。

1 どこかへ行きたい(夢)/ I-want-to-get-away moments (dreaming moments)
「夢」:どこに行くかやどこに行きたいと具体的には決めておらず、漠然とどこかへ旅行したいな、行きたいなと考えている段階。

2 旅行を計画する(検討)/ Time-to-make-a-plan moments (planning moments)
「検討」:すでにどこへ行くか決めており、いつ行くのが良いのか、目的地への交通手段や、宿泊施設、したいことの計画を立てている段階。

3 予約する(購入)/ Let’s-book-it-moments (booking moments)
「購入」:計画段階を終え、航空券や鉄道のチケット、宿泊施設の予約を行う段階。

4 旅行を満喫する(旅行中)/ Can’t-wait-to-explore moments (experiencing moments)
「旅行中」:まさに旅行をしている段階で、その体験をソーシャルメディアやブログなどのメディアを通して共有する段階。

Google (2016, 訳・注は引用者による) はこのマイクロモーメントの重要性を、「マイクロモーメントにこそ、ユーザーの“ニーズ”が潜んでおり、そのニーズに対して適切なタイミングで、適切なメッセージを届けることが非常に重要である」と述べている。すなわち、宿泊施設側は、どのタイミングで、どのようなメッセージを、どのチャネルにて、いかに適切に、そしてパーソナライズさせて伝えられるかを考えて、顧客と接点を持つことが必要な時代となっていることを忘れてはならない。

「どこかへ行きたい」モーメントを最適化した一つの例は、マリオットホテルだ。Marriott Travelerというオンライントラベルマガジンで、世界各地のデスティネーションのコンテンツを記事や動画で紹介し、予約へつなげていくという戦略をとった。

「予約する」モーメントの最適化をした一つの例は、ロンドンのRed Roof Inn。フライトが遅れる情報を利用して、「予約する」モーメントに特化したオンライン広告を打ったことで予約数を60%伸ばしたという。

このように、カスタマージャーニーを中心に顧客との接点をいかに最適化し、パーソナライズしていくかというのが、デジタル戦略におけるキーポイントであると言える。

次号へ続く

この記事は第11回 タップアワード  最優秀賞を受賞した論文を一部抜粋・再構成したものです。

参考文献
eMarketer (2018) ”Digital Travel Sales Worldwide, 2017-2022 (billions and % change)” 
Google (2016) “Think with Google How micro-moments are reshaping the travel customer journey”
Google (2016) 『Think with Google マイクロモーメント : 生活のさまざまなシーンで発生するマイクロモーメント』,
 • JTB総合研究所 (2018) 『インバウンド 訪日外国人動向 訪日外国人総数』, 1.2 年別訪日外国人数の推移(1964年以降)
みずほ総合研究所 (2017) 『みずほレポート2020年のホテル客室不足の試算』
• 牛場春夫,酒井正子,齋藤謙一郎,志方紀雄(2016)『日本のオンライン旅行市場調査第3版』, BookWay




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