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知的障害特別支援学校の「オンライン授業」や「動画配信」を考える

 初めてのnoteです。
 読みづらいところもあるかと思いますが、よろしくお願いします。

1.はじめに

 2020年5月14日現在も、新型コロナウイルス感染症により、世界中が大変なことになっています。歴史の教科書に載るような事態です。自分の子どもがその子どもに「昔こんなことがあってね」と昔話になるんだろうな、などと家族でも話をしています。早く収束することを願っています。

 子どもの教育をめぐって、文部科学省は、2020年5月11日(月)に、YouTubeによる「学校の情報環境整備に関する説明会」を行い、実に「2時間24分15秒」という長さにおよぶ担当官のお話されるその内容と語り口調から、「子どもの学びを止めるな、ICTを使いたいと考える現場の先生を止めるな」という、自治体や教員委員会、管理職に対する強い主張を感じました(本稿は、この説明会のことはメインではありませんので、下の動画はまたお時間のある時にご覧ください)。

2.コロナ禍における知的障害のある子どもの学び―「オンライン授業」と「動画配信」のあり方について考える

 先の文科省の説明会に先んじて、富山大学人間発達科学部附属特別支援学校(以下、富大附属特支)でも、休校下にある児童生徒に学びを保障したい、という先生方の熱い思いがあり、私を講師にZoomの研修会を依頼されました。

 それに対して、私から提案したのは、「研修はさせていただくけど、学校の先生たちであればZoomで会議やオンライン飲み会をするぐらいには独学でもすぐにZoomそのものを使うことができるようになりますよ。せっかく研修するなら、Zoomの使い方の研修ではなく、子どもや授業作りにとって、もっと意味のあることをしましょう」ということでした。

 具体的には、計2回、研修の時間を作り、1回目はZoomを用いた「オンライン授業」と「動画配信」のあり方について考える、2回目は1回目の研修の内容を踏まえて実際に模擬授業をやってみる、ということになりました。このnoteでは、その研修の1回目のスライドの一部とともに、少しだけ内容を紹介しつつ、コロナ禍における知的障害のある子どもの学び―「オンライン授業」と「動画配信」のあり方について考えてみます

2-1.「オンライン授業」を考える

 まず「オンライン授業」です。

附属特支zoom研修01

 知的障害特別支援学校では、十八番ともいうべき、子どもたちが自らわかって動けるための配慮や支援ツールが、教室内外に様々にあります。そうした環境に頼っておこなってきた授業の「方法」では、オンライン授業の形態ではまったく同じように再現することは難しいです。

 なぜならそれは、教師にとっては、クラス集団という学びあう仲間による学習への作用を活用しにくかったり、子どもと教師、子どもと子どもという関係において即時のフィードバックを与えたり得たりということがしにくいからです。また子どもにとっては、隣にクラスメートが座っているわけではないので参加や発言のタイミング分かりにくかったり、スケジュールが前に掲示されているわけではないので活動の順番が分かりにくいということもあります。

 またそれに伴い、教室での対面式の授業ではやりやすかった、具体物の提示による教育は、制限されてしまいます・・・・・。と、書くと、読者のみなさんも「そうだよね。」と首肯されるかと思いますが、私の考えは、実は違います

2-2.「オンライン授業」だからできること

 対面授業とオンライン授業とでは、子どもに届けられる「モノ」が異なるという理解をした方が良いでしょう。それは五感や雰囲気、ライブ感、温度感みたいなものがそれぞれの授業スタイルで違うということです。たとえば、「氷」について、奥行きを持ち替えながら視点を変えつつ見て理解することや、触って肌理(きめ)を確認すること、大きさや重さ、冷たさを感じることは、「オンライン授業」では難しくなります。

 逆に、「オンライン授業」を通してみる動画からは、たとえば「ライオン」の走り方や木の登り方(ライオンは木に登ります!)、泣き声などは、写真図鑑をみるよりもはるかに分かりやすいです。なので、「対面授業」の方式ではなくなって、できなくなったことを嘆くのではなく、むしろ「オンライン授業」だからこそできることをチャレンジするいいチャンスだと思えば良いかと思います。

 私はこの研修では、一つの例としてキャベツの千切りをする「AMSR」を動画映像なしで流し、「何を思い浮かべましたか?」と尋ね、チャットに回答してもらいました。「キャベツの千切り」という答えだけでなく「野菜」「何かを切っている」「調理音」「包丁の音」などなど、画一的な答えだけでないことがうれしいわけです。マインドマップに示したらさらに面白いかもしれませんね。ただし、ここで「これは何をしている音でしょうか?」と聞いたら興醒めだと思います。まさに教師の側のセンスが問われるところかもしれません

例:オンライン授業における「朝の会」の天気調べ

 たとえば、知的障害特別支援学校では、平常下の対面授業では、たいていはクラスの朝の会で、今日の天気調べがあります。富大附属特支の小学部のあるクラスでは、その日の日直が教室の外を見て「今日の天気は晴れです」と言い、クラスメートは「あっています」と返します。その上で日直は、スマートスピーカーに「アレクサ、今日の富山市の天気はなあに?」と尋ねて確認しています(この活動のねらいに照らせば、このようにICTはあくまで実体験の補助となります。富大附属特支はこんなふうに普段使いのICTをかなり導入しています。このことはまた機会があれば書きます)。

 私が、ある先生に提案した具体例をお話しします。富大附属特支の児童は全県区から通って来ています。したがってそれぞれの子どもの住居地の天気は違うこともあるわけです。そこで、オンラインで朝の会をするなら、子どもそれぞれの居住地の天気を言ってもらい、それを担任はホワイトボードにある富山県地図の上にお天気マークを貼ると、子どもたちは、富山県という地形や地理を意識したり、友達を気遣ったりすることにも繋がるんじゃない?というモノです。これを聞いた先生は「ぜひやってみます!」とのことでした。またこの成果は、別の機会に書くかもしれません(写真は、研修の際の模擬授業の様子)。

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2-3.富大附属特支のオンライン授業

 私の研修後、先生方は、各学部ごとに、何ができるか、どのようにしたらいいのか、とっても真剣に話し合いをされたそうです。そして富大附属特支さんは、5月11日(月)から以下のような内容でオンライン授業を開始しました。

スクリーンショット 2020-06-26 17.18.47

 2-4.「動画配信」を考える

 次にオンデマンドで視聴できる「動画配信」について考えてみましょう。

附属特支zoom研修02

 現在、全国に目を向けると、先進的な学校は、「学びを止めるな」ということの具現化として様々な取り組みをしています。その一つが、動画配信です。特に知的・発達障害のある子どもにとっては、知らない人が出演するものよりも、よく知っている先生が、踊ったり歌ったり、何か工作したりしている動画の方がはるかにうれしく、動機付けも高まるでしょう。何より子どもたちに安心感を与えます。

〈2020/05/22追記〉
 長野県の特別支援学校の先生方の作成された子どもたちが見て楽しくなるだろうなぁと思うステキな動画コンテンツです。普段からの先生方のつながりと、この期に「やろうぜ!」という団結力を感じてほっこりします。北陸新幹線開通以降、富山大学にも長野県から来ている学生が多いので、将来長野県に戻って教員を目指す学生たちにも、ぜひ見てほしいです。

 「コロナ禍の今、自宅にあって児童生徒がこの動画を見るニーズは、どれぐらいあるのかな?」と考えることは大切です。学校という舞台装置に限定される学びの内容や方法を、家庭にいる児童生徒に、動画だけでやってね、というのは無理があると思います。スライドにも書きましたが、こんな非常事態にあっては、なおのことできれば、子どもや家族のニーズに基づいてあるといいなと思います(ちなみに、「子どものニーズ」と「家族のニーズ」は異なります)。

 ところで、上記のスライドにある、「この状況下だからこそ必要なこと」とは、コロナそのものの理解やマスクやソーシャルディスタンスの必要性、そして人権にかかる教育のことです。たとえば以下のようなことを、知的障害のある子どもたちもわかりやすく、わかるかたちで教えることも大切だと考えます。

2-5.コロナ禍における子どもの実態・ニーズ

 そのようなわけで、私は、富大附属特支さんには、やみくもに動画作成して配信するんじゃなくて、まずはニーズ調査をしてもらうようにしました。調査は「Google フォーム」で作成されました。

 その結果、休校下における子どもの実態として生活リズムがおかしくなってしまったなどなど、保護者からは多くの困っている、ということが挙げられました。これについては、大変憂慮すべきことで、早急に家庭と協力して何かしら取り組みたいことです。

 また、いろいろなニーズが上がってきましたが、中でも多かったのは、「先生大好き、学校大好き」という子どもたちの気持ちと、それに基づく、「先生と話をしたい、先生に話を聞いて欲しい」というものでした。ですから、上記の富大附属特支のHPに示すような、オンライン授業のコンテンツとなったわけです。なぜそれをするのかということについての説明責任を果たした取り組みといえます。

 個々の子どもの実態に基づく適切な教育支援を提供することのプロ集団が特別支援学校ですから、ことオンライン授業や動画配信においても、まずは子どものニーズや実態把握を適切に行うことは、このコロナ禍においても大事かと思います。そして、ある期間がたてば、当然ながら、そのサービスについての満足度調査も行いましょう。PDCAですね。

 さて、動画配信から話が少しそれてしまいましたが、現在、富大附属特支では、上記のオンライン授業と並行して、YouTubeの限定公開による、楽しい内容の動画を配信しています。(これは、ここでは紹介できません)

 つまり、(1)定時に朝の会を行うことで生活リズムを整えたり、先生と子どもたちの健康確認や良好関係維持を目指し、そしてそのあとは、(2)子どもの実態や家族のニーズに応じて様々な内容の配信動画をみてもらう、という、先のニーズ調査に基づいたコンテンツを「オンライン授業」と「動画配信」という、ハイブリッドな活用スタイルで実現しているのです。

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2-6.「動画配信」だからできること

 動画に関わらず、子どもたちには、様々なメディアのメリット/デメリットを考えさせたり教えたりするチャンスです。郵便、FAX、電話、メール、SNS、face timeのようなテレビ電話など、各種のメディアの特性を子どもが知り、使えるようにしてあげることは、「新時代を生きる力を育む」ためにも重要なことです。

3.授業の経過

 本日、教頭先生から、オンライン授業を開始した、その後の経過についてメールをいただきました。

 『おかげさまで、どの学部も、児童生徒の実態に合ったグルーピングや内容を選択して授業配信することを心がけ、行っております。今週から、はじまったオンライン授業の様子をお知らせいたします。

 〈中略〉高等部については、一人でZoomにアクセスして入れるようになったのは9人です。高等部では、教師の画面共有で、手順表を見せたり神経衰弱のゲームをパワポの編集画面で行ったりとインタラクティブなやり取りができています。

 先生に教えていただいたことをきっかけにそれぞれの先生が生徒の実態に合わせてどんどん工夫をこらしていらっしゃいます。先生、本当にありがとうございました。今後とも、どうぞ、ご指導ください。』

 研修では、一見困難と考えられる、「双方向性」をどう作るかが、先生たちの腕の見せ所ですよ、とお伝えしていましたが、さすがプロの先生方で、この報告を読んで、私もうれしくなりました。

〈2020/05/21 追記〉
「北日本新聞」にて、富大附属特支の遠隔授業の様子が紹介されました。
https://webun.jp/item/7661005?fbclid=IwAR21iW411wDp2ZIBqazftSmPx-y6ox0NoVzgb4RUwiYVvMdn0ueNTWKOr44

4.おわりに

 数年前にみたソフトバンクのCMは、40歳台の私にはとてもパンチがありました。でも、スマホとともに大人になる世代の子どもたちは、ICTを使わないなんて未来は考えられないのです。特に、知的・発達障害のある子どもには、ICTの活用は、学習や生活の補助の側面はもちろんのこと、QOLの拡大にとってもとても大事です。

 私たちは、この状況において試されています。今の大人には、時代の流行を真摯に受け止める謙虚な姿勢が求められている、と、私は解釈しています。


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