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ロボ・アドバイザーが日本で普及しないと思う3つの理由

まず背景の説明から入ります。
2016年の4月下旬に、三井住友アセットマネジメント社が全国の20代〜60代の計1,200名を対象にした「老後生活資金と退職金」に関する意識調査結果を発表しました。

その調査結果によると、50代までの現役世代で約8割が「老後生活に不安を感じる」と回答し、老後の生活について最も不安を感じるものの約8割が「金銭面について」とのことです。

一方、その不安に対して自分でできる対策として約3割超が「対策は分からない」という結果が出ていることから、資産運用という選択がまだまだ定着していないと言えます。

2016年以降、資産運用を助言(投資における顧客プロファイルや運用商品のアセットアロケーションと自動リバランスを行う)する『ロボアドバイザー』というサービスが一部の銀行や証券会社、フィンテック企業から出ています。主なターゲット顧客は、投資や資産運用に目覚めていない(金融リテラシーの低い)潜在顧客層である無関心層でしょう。

米国でも投資助言サービスである『ロボ・アドバイザー』の利用が増加*1してきました。

その背景には、米国労働省が公表した投資商品販売に係る『フィデューシャリー・デューティー』の適用が関係しているようです。

この読み難い『フィデューシャリー・デューティー』とは「受託者責任による投資家保護=顧客利益を第一に考え、善管注意義務をもって行動する」です。

従来の大口だけではなく小口投資家層を含む投資家全般にリスク許容度の考慮や商品提案の適正性、継続的なレビューや助言を提供するという概念であり、商品の開発、販売、資産管理の局面で金融機関が担うべき役割と責任を果たしていくことが課せられています。

日本でも三井住友アセットマネジメント社を歯切りに、ニッセイアセットマネジメント社やその他大手の運用会社が宣言をしています。 

米国では更に政府が踏み込み、2017年6月には長く金融機関の反発もありながらも401kやIRA*2の退職金制度も対象にフィデューシャリー・デューティー適用の規則が適用されました(発表は2016年4月)。

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反対していた金融機関がこの規則に軟化し受け入れる姿勢を示した背景に『ロボ・アドバイザー』の存在があります。

この点が前提として日本と米国で大きく異なる点です。つまり、法規制という制約により必然的にロボ・アドバイザーの普及につながっているのが米国の現状のようです。

一方、日本国内で登場しているロボ・アドバイザーは貯蓄から投資への橋渡(解決手段)としての側面が強い印象です。

以上を踏まえ、日本でのロボ・アドバイザーの普及が難しいと思う3つの理由を説明します。

1.米国ロボ・アドバイザーの2つのビジネスモデル

上図のようにフィデューシャリー・デューティーの適用によって、金融機関は小口投資家向けにも大口顧客と同様の対応と責任が求められることになりました。

しかし、マンパワー的にも小口投資家向けに手厚くすることは現実的ではない、そこに規制に触れないリスクヘッジの手段としてロボ・アドバイザーを使ったビジネスモデルが登場したというわけです。

つまり、リソースや機会コスト等の関係でカバーできない小口中心の個人向けの市場と、従来の営業員による対面向けの市場との棲み分けモデルです。

前者はロボ・アドバイザーを活用し、後者は 対面とロボ・アドバイザーを組み合わせたモデルです。

前述の通り、日本ではフィデューシャリー・デューティーのような思想は出ているものの法規制のような制約はないことから、まだ金融機関主導の手数料ブラックボックス対面チャネルが聖域 として機能し続けると思われます。*3

2.国内の資産運用業は系列子会社も資本関係でガチガチ

銀証連携とも言われているように、日本の場合は銀行や証券会社を親会社とし、資産運用業は系列会社となっているケースが多いです。(2016年の改正銀行法では金融機関からの新興のフィンティックIT企業への出資比率も緩和されました。)

言い換えれば、独立性がないように見える金融機関が本当に顧客とWin-Winとなるような適正な手数料の商品を提供しているかという点で疑問を持つため、仮にロボ・アドバザーが提供されても 公平性の点で「その助言は適正か???」と勘繰りたくなってしまいます。

監視する金融庁目線では「利益相反ではないか?」と勘繰るのではないでしょうか。

顧客も老後の資産対策をどうしていいか分からないからと言って、金融機関が提供するよく分からないロボットに任せるという発想にはならないと思います。

3.本当に使えるものなら無料では提供しないが有料では顧客に響かない

ロボ・アドバイザーによる投資助言の精度が高く公平性が担保できれば無料提供はしないはずです。

一定規模の資産を預かり、顧客プロファイルやアセットアロケーションと自動リバランスを組み込んだラップサービスとしてしかるべき手数料を取るのが正しいと考えます。

但し、ターゲットとする顧客セグメントの大多数が金融リテラシーが低い場合、不信感を持ち手数料が取られることに納得感が得られない可能性があります。

かといって不信感を解消するために信頼構築のためのコストを投じても、それを手数料に転嫁せざるを得なくなればマネタイズとして成り立たないと想像します。

よって、現実的にはロボ・アドバイザーを介した金融商品販売によるフィーで収益をカバーする必要がありそのための仕掛けが施されると思います。

結局は、金融商品は信頼で成り立っているため、顧客利益や顧客のための価値提案を目指すことで将来的にフィーが入るビジネスモデルが望ましく、そのためには無関心層が自ら気付き、金融リテラシーを身に付けてもらう価値提案が必要であると感じています。しかし、金融リテラシーが身に付けばロボ・アドバイザーを使うという選択は低くなるようにも思われます。


【NOTE】

*1 ロボ・アドバイザーは2015年末時点で運用残高は約600億ドル(約6兆円)。A.T.Kearney社は2020年には残高が約2.2兆ドルに達するとの見通し。

*2 個人退職勘定のことでアメリカの年金プラン。401(k)は雇用主によって提供されるプログラムであるのに対し、IRAは雇用主とは関係なく、銀行口座のように個人が自分で開くもの。日本の個人型DCに近い制度で、拠出時に非課税のものと受給時に非課税のものなどバリエーションがある。

*3 金融庁も資産運用業の課題性を注視しており規制等が検討されているとも言われている。


【参考文献】

『国内金融市場の改革で注目される論点』2015年6月24日 東洋経済ONLINE

・『金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 前編後編』The finance 2016年3月23日、3月30日

・『大和証券、ロボ助言のラップ口座 手数料下げ若年層開拓』日本経済新聞 2016年5月18日朝刊

・『米国のロボ・アドバイザーによるヒトとの競争と共生』NRI 金融ITフォーカス(2015年3月号)

『米国のフィデューシャリー・デューティー論議とロボ・アドバイザー』NRI 金融ITフォーカス(2016年3月号)

『米国IRA− 適合性原則からフィデューシャリー・デューティーへ』アライアンス・バーンスタイン株式会社

『老後生活資金と退職金調査レポート』三井住友アセットマネジメント 2016年4月27日

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金融系SIerと外資SIerを経て今はとある大手SIerのインハウスデザインスタジオでデザイナーをやってます|福島県郡山市出身|東京都在住|保険・年金|サービスデザイン|デザインシンキング|UX|仕事を通じて得た知見や生活の役に立つコンテンツを紹介していきます。
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