11/4 高所恐怖症はリフトで強張る

 昨日の続き(高尾山登山、初日はこちら)。高尾山に登りたい旦那さんと、運動嫌いで山登りもしたくなかったけど頑張って登頂することにしたわたし。リフトに乗りたいわたしと、高所恐怖症だけど頑張ってリフトに乗ることにした旦那さん。

 券売機のすぐ横にケーブルカー乗り場があるのに対して、リフト乗り場までは少しだけ距離があった。ちょっとだけ歩いたその先にあったのは、リフト乗り場までの、見上げる階段。これを上がればリフトだ、と思って階段を昇りはじめたのだけれど、踊り場的なところをいくつか越えたところで、既に脚が疲れてきた。運動不足の極み。まだ山のふもともふもと。即、旦那さんに泣き言を言う。「もう脚がつかれた」「マジで?」とは言え、階段は細いし、前も後ろも人がいっぱいいるし、こんなところで止まっていられない。灰色の階段の段差を見つめながら一生懸命脚を動かしていたら、どうにかリフト乗り場に辿り着いた。

 (記憶をすっとばしていなければ)人生初のリフト。係の方に説明を受ける。乗り場足元のゴムベルトの上に立ったらその場に止まって歩かない。立っていたら後ろからリフトがやってくるので座る。なるほどわかった、とゴムベルトへと足を踏み出した1歩目でつまずく。我ながらどんくさい。慌てて態勢を立て直し、どきどきしながらリフトを待つ。リフトが来た。座る。揺れる。驚く。おおぉ、と思っているうちに足と地面の距離がひらく。空中散歩のはじまり。

 リフトって、ベルトやセーフティーバー的なのが、何もない。単なる空中を行くベンチだ。最初は驚いたけれど、すぐに慣れた。わたしの右側に座った高所恐怖症の旦那さんは、右手でしっかり手すりを握り、左手で前抱きにしたリュックをしっかり抱え込んでいた。

 スマホでリフトからの景色を動画に撮ろうと、スマホを持った手を前に伸ばしたら、旦那さんから「落とさないでよ!」と厳しめの注意がとんできた。落とす真似をしたら、本気で怒られた。高所恐怖症な上に心配性な旦那さんに対してやってはいけないおふざけだったと反省して、スマホはバッグにしまった。左手に広がる山の景色を堪能した。根元が見えないほど下の方から、少し見上げるくらいの上の方までまっすぐ伸びている杉の木の林。

 昇りのリフトの右側を、降りのリフトが通っていた。満席のリフトの中、ときどき硬直しているおじさんたちがいた。リフトの真ん中に座って、左右の手すりをしっかりと握っているおじさん、背板の後ろに両腕をまわして自分の体を固定しているおじさん。「男の人の方が怖そうだね」と旦那さんに言うと、自分も余裕もない旦那さんは少し乱暴な声で「女の人が無神経すぎる」と返してきた。たしかに、女の人は脚をぶらぶらさせていたりスマホを触っていたり、余裕そうな人が多い。自分たちにも照らし合わせてもその分析はあながち間違っていなくて、それがなんだかおかしくって、ちょっと笑ってしまった。

 腕を組むようにして、旦那さんの脇下に手を通してみると、旦那さんの体が緊張して強張っているのが伝わってきた。悪いことしたなぁ、わたしが楽しむと思ってがんばってくれたんだなぁ、ありがとう、ごめんね。全部の気持ちがいっぺんにきた。

 途中で写真撮影ポイントがあって、スタッフさんが山の中でカメラを構えていた。撮って欲しかったら合図してお願いする仕組み。買わなくても大丈夫、とのことだったので、旦那さんといっしょにカメラに向かってピースした。

 いよいよ降り場が近くなってきて、リフトの降り方の説明看板が立っている。降りたらすぐに左に歩いてゴムベルトを降りる。乗るときに躓いたのでちょっと心配したけれど、降りるときは問題なくスムーズに降りられた。10分ちょっとの空中散歩。たのしかった。なんだかんだで、旦那さんも降りたあとは「すごかったね~」なんて、リフト体験に満足しているように見えた。

 降り場を出てすぐ、さっき撮った写真売り場に出た。あまり写真を撮る人はいないのか、係のお姉さんがわたしたちの姿を見つけてすぐに写真を手渡してくれた。ひさしぶりに人に撮ってもらったツーショット写真。緑の木々をバックに、ピースしておすまし笑顔(約1名、余裕がない、ともとれる)のわたしたち。悪くない。1枚1000円。記念に買うことにした。登山記念。初リフト記念。旦那さんの(最後かもしれない)高所恐怖症だけれどがんばってリフトに乗った記念。買ってから受け取った写真をまじまじと見て、『わたし、ファンデーション、肌の色と合ってないかも……』と思った(そこ!?)。

 まだまだ、明日に続く。

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