見出し画像

#207 『仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ』

本日は、染色家・人間国宝の森口邦彦さんの「仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ」についてのお話です。森口さんは、京都市立美大(現在、京都市立芸大)日本画科を卒業後、パリ国立高等装飾美術学校でグラフィック・デザインを学びます。帰国後は、父である森口華弘さんに友禅を学び、昭和42年日本伝統工芸展初入選を果たします。

昭和44年には友禅訪問着「千花」で工芸展NHK会長賞、平成4年には芸術選奨文部大臣賞を受賞します。幾何学文様を用いるなど友禅に新生面を切り開いた人物で、平成19年には人間国宝となりました。以下のリンクは昨年、京都国立近代美術館で開催された展覧会のページです。

今回のお話は、父の森口華弘さんから学んだことが語られています。
「同じ山、美という山を登るのに、私はあなたと違ったルートを見つけたいものだ」

"真似をしてくれたということが父の唯一の褒め言葉だったんではないかなと思いますし、自分でも父の役に立てるんだと思えた瞬間でした。これは本当に嬉しかったですね。父に直接「自分の真似をしたな」と、そんな無礼なことは言えません。やっぱり、父と子はお互いにライバルだと思います。年に一度の大事な展覧会に出品する時にも、うちは小さな仕事場で一緒にやっていましたから、作品をつくり始めたのがお互いにすぐ分かるんです。"
"父の口癖は「仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ」ということで、要は、仕事は先に、先にしなさいと。それである年に早めに展覧会の準備に取り掛かったら、父に「もうつくり始めるのか?」と言われましてね、父は私をライバル心で見ているんだなと思いました。その頃ね、一度だけ「同じ山、美という山を登るのに、私はあなたと違ったルートを見つけたいものだ」という思いは父に伝えたことはあります。"
"父には勝てない、すごいなと思ったのは、内弟子さんの教育の仕方ですね。父は内弟子さんの筆の技術など、現場の今年か教えなかったので、私はデザインの基礎的な知識とか、もっと大局的なことも教えてあげたほうがいいじゃないかと思いましてね。廊下で父とすれ違った時に、何で教えないのか聞いてみたんです。そうしたら父は「言わないと分からん奴には、行っても分からんから言わん」って言うんです。それを聞いて自分はなんて厳しい人に育てられたんだと思いましたね。"


============
書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/07/26『仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ』
森口邦彦 染色家・人間国宝
============

※Photo by Marten Bjork on Unsplash