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#233 『鈴木大抽の風韻』

本日は、大谷大学非常勤講師の岡村美穂子さんの「鈴木大抽の風韻」についてのお話です。今回のお話に出てくる、鈴木大拙さんは、日本の仏教学者で、禅についての著作を英語で著し、日本の禅文化を海外に広めた方です。そんな鈴木さんに15歳の時に出会い、鈴木さんがなくなるまで活動を支えてきた岡村さんが語る鈴木さんについてのお話です。

"鈴木大拙先生(当時81歳)は、ニューヨークの仏教会でも5回シリーズで講演されました。著名な学者の方に交じって、15歳の私も聴講しました。少しでも先生の関心を引きたい、と思った私は最後の講演の日、休息時間に先生が一人でおられるところを見計らって、英語でこう質問したのです。「先生。世の中にたくさんの宗教があるでしょう。だけど究極的には同じことを言っているんじゃないですか」"
"先生は、何とも言えない優しい顔をされて、遠いところを見るような眼差しで「ノー」、つまり「同じところには到達しないよ」とおっしゃったのです。...先生は続けて、「そうか。明日は土曜日だから学校は休みでしょう。よかったら3時のお茶に、わしのところにいらっしゃい。そうしたら説明してあげましょう」と言ってくださったのです。"
"とにかく恐れを知らない生意気盛りですから、先生と気軽にお話しするうちに、いつのまにか自分の日ごろの不満や悩みを率直に先生にぶつけていました。...私は先生に、「人が信じられないのです。生きていることが空しいです」と訴えました。すると先生は一言、「そうか」と頷かれ、私に「手を出してごらん」とおっしゃるのです。先生は私の手の広げながら、「きれいな手じゃないか、美穂子さん。仏の手だぞ」「仏の手じゃないか。何でそんなにブツブツ言うのか」...前日に「ノー」とおっしゃったことの答えは直接には説明してくださいませんでしたが、先生から発せられる空気に触れて、その意味が何となく感じ取れる気がしたのです。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/08/21『鈴木大抽の風韻』
岡村美穂子 大谷大学非常勤講師
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※Photo by Nishant Kulkarni on Unsplash