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#275 『本当の商人の謙虚さ』

本日は、大創産業創業者の矢野博丈さんの「本当の商人の謙虚さ」についてのお話です。100円ショップで有名なダイソーの創業者である矢野さんが「お会いした際の印象は強烈だった」と感じたのが、イトーヨーカ堂の創業者である伊藤雅俊さんでした。伊藤さんとの出会いやそこで学んだことが今回のお話で語られています。

"店の数が増えるということはとても怖いです。私は増やすな、増やすな、
と言い続けていたんですが、百円均一という商売が珍しかったので結果的にここまで増えてしまいました。食料品と違って、うちの扱う家庭用品は、例えばカップ一つ取ってみても、普通の一般家庭では六個あれば十分ですよね。十個も必要ない。ティーセットにしても、家庭用とお客さん用で二セットあれば十分です。ですから、店が増え続けた先には断崖絶壁というか、売れなくなる時が待っているわけで、そうなると兎のように早く増やすより、
亀のようにゆっくり増やしたほうがいい。かつて夜逃げした時に、東京に着いたらどうすればいいんだ、とゴールに近づけば近づくほど怖くなりましたが、あの心理と全く同じなんです。"
"もし倒産したら、女房とどこか山奥に逃げて温泉宿に雇われて、女房が賄いをして、俺が風呂たきをしよう。でも女房は別れると言うだろうから、俺は自殺するんだろうなとか、そういうシーンがよく頭をよぎるんですよ。でも自殺をするのは怖いですから、常日頃努力するとか、質素にするとか、頑張るとかいうことは何ともない。逆にとても楽しいんです。"
"そういう意味では、イトーヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊名誉会長とお会いした時の印象は強烈でした。従来の経営者というのは泰然自若として、見るからに大物というイメージがありましたね。トップがあまり細かいことに口を出すと、人が育たないから駄目だという観念がありました。ところが伊藤会長は、社員のやることに対して一から十まで、いや一から百までああだ、こうだと叱っておられる。当時売り上げが1兆3,000億円だったと思いますが、イメージ的にはそこらの酒屋のおやじとほとんど変わらない。あの姿を見て、日本の経営者理論は間違っているなと私は思いましたね。"
"日本人は謙虚というものを、お坊さんの謙虚と勘違いしている。本当の商人の謙虚というものは、生きるために必死になっている姿。それこそが商人の謙虚だと思いました。だから、私はそれまで社員を怒ったことはなかったんですが、伊藤会長にお会いした日を境に怒れるようになりました。それも必死に。"
"伊藤会長のお話の中で、いまでも忘れられないのは、「いいですね、潰れる心配のない会社のオーナーは」と言いましたら、「馬鹿やろう、俺だって月に1回は潰れる夢を見るよ!」と。もしいま全社員が100万円くれと要求してきたら、あっという間に380億円ふっ飛ぶんだと。もしいま台湾と中国が戦争を始めたら、もし天変地異が起きたら、もしうちが何か事故を起こして新聞で叩かれたら、客単価はすぐに100円下がって赤字になるんだと。だから、うちは決して安定の中にいるんじゃない。いつ潰れるか分からないんだと怒られました。やはりこれは、売れるプロセスを重視する伊藤会長の、人生観からくる強さですね。"

矢野さんと鈴木さんの対話はweb版でアップされています。


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/10/02 『本当の商人の謙虚さ』
矢野博丈 大創産業創業者
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※Photo by Krisztina Papp on Unsplash