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#24 『人ではなく、時計と競争する』 -人間国宝の仕事術-

"我われの仕事には、朝も夜も昼も夜中もないんです。朝から晩までずっと漆から離れられない。仕事するにあたっては、人間なんてもの、相手にしていたってしょうがない。皆、疲れてくると決まって能率が下がる。それですぐ、負ぁけた、やめたと言って投げ出しちゃう。人間のように頼りないものはないですよ。だから、私は時計と競争する。"

本日は、漆芸家である大場松魚さんの「仕事術」についてのお話です。今回のお話を読むまで、大場さんを知らなかったですが、蒔絵の重要無形文化財保持者として過去に200名程度の人しか認定されていない「人間国宝」であります。

※「蒔絵」とは、漆器の表面に漆で絵や文様、文字などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる技法、もしくはその技法を用いて作られた漆器のこと(wikipediaより参照)


2012年にこの世を去った大場さんですが、NHKの「人×物×録」に貴重な映像がありました。その中でこんなことをおっしゃっていました。

"ひとつひとつをきちっと積み重ねてあせらず仕事をやっていけば立派な仕事ができる。一生どれだけやれるかわからないがこれは一生の課題。どこまでやれるかと。"



今回のお話を読んで率直に感じたことは、「どれだけストイックな人なんだ...」「こんな人世の中に本当にいるんだ...」です(笑)。塗師の家柄で、生まれる前から漆をやることは決まっていた。職人として休みもなく朝から晩まで働くことが当たり前。そのような環境で仕事をする人が...

「人間なんてもの、相手にしていたってしょうがない」

人間は頼りない存在である。だから、決められた通り動く「時計」と勝負をする。今の私には到底発想できない領域だなと思いました。人間は頼りないという考え方はその通りだなと思うからこそ、そこを少しでも良くしようとか自分に負けないとか、そんな戦い方をしている気がします。

"忙しい時はたとえ十秒でも五秒でも無駄にはできん。時計と競争してこいつを負かすことはなかなかできませんけどね、時々は勝つようなことがありますよ。何時までにこの仕事をするんだと決めて、それよりも早くできることがあるから。"

大場さんは、人間の頼りない部分である「感情」に意識がとられることを嫌ったのだと思います。どうしようもないものを向き合っても意味はない。であれば、余計な感情もない、不調好調の波もない、一定のリズムを刻む時計と勝負すればいいと。

"なぜ負けないか。人間には「頭」があるからです。時計は、チッ、チッ、チッ、チッ、と一定のリズムで時を刻む。しかし人間は、この仕事をこの時間までに仕上げるんだと腹を決めれば、グッと時間を短縮することができる。だから仕事を早くしようと思えば、目標時間を決め、それに対して集中攻撃を掛けることです。"

人間には「頭」がある。つまり、人間は考えたり、工夫したり、閃いたり、技術を磨いたり、改善したりすることができる。一定のリズムを刻む時計にはない人間が持つ価値と向き合いながら、毎日、漆と向き合ってきたのだと思います。

国の重要人物として認定される人は、私も含めて人とは違う考え方を持っていることは共通していると思います。ただ、その違い=難しい領域に達しているというより、むしろそういう人の考え方ほど、本質的であり、より原点的なところにあるのではないかと思いました。

感情というよくわからないものだったり、余計な雑念だったり、目に見えないものに囚われるのではなく、目標を決めることだったり、決めた目標をやり抜くことだったり、自分ができることだけに意識を集中させているのだと思います。過去のお話の中でも感じましたが、一流の人は独特のゾーンみたいなものに入っている感覚があります。

私は「考える」ことがメインの仕事で、時間ではなく、それまでのインプットやアウトプットの繰り返しや振り返りがすべてみたいなところがあります。そのため、どこか時間を意識することをあえて避けている傾向があります。

一方で、上記の感情や雑念に対しては時間を意識している自分がいます。自分がなんとなくうまくいっている時は時間は意識しないけど、うまくいかない時は時間をものすごく気にしてしまっている。ここに自分の甘さがあり、仕事への考え方や物事への捉え方をアップデートする要素があると思いました。

"ひとつひとつをきちっと積み重ねてあせらず仕事やっていけば立派な仕事ができる。"

一喜一憂なんてしている暇はない。やっていることが良い悪い、できたできなかったで振り回されるのではなく、やると決めたことを、今やっていることをやり続けるのだ。そういう教えなのだと思いました。


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/01/24 『人ではなく、時計と競争する』 -人間国宝の仕事術-
大場松魚 漆芸家
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※Image by Free-Photos from Pixabay