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「巨人軍よ、紳士たれ」に学ぶ正しい体育会系のあり方

野球ファンの間でも有名なフレーズだが…真の意味を理解している人が少ないフレーズ「巨人軍よ、紳士たれ」の真の意味を語ってみたい。

オリファンからみれば、そもそも巨人の選手は荒くれ者

そもそもですね…巨人に自信を持って入ってくる選手ってみんな荒れくれ者で強気な人たちなんです。

対極なのがオリックス・阪急。
名選手揃い揃いだが、巨人のような肉食な感じとは全然違う。

山田久志「西鉄に指名された時は嬉しかったけど、家族の反対があって入団拒否。その後阪急から指名されたけど、腰が痛くてやっていけるか心配だったから一度契約を保留して、リハビリでうまく行ったから契約したよ」
イチロー「最初は一軍に上がりたくなかった。プロでやっていく体力・大学に行った同世代に勝てる実力をつけるまで一軍に上がりたくなかった。」

とりあえず、プロの世界に飛び込んでいく巨人の選手に比べてると臆病だったり、弱点を克服して自信をつけるまで時間がかかる選手がオリックス・阪急はにけっこういる。

一方で、巨人の選手は違う。

・V9の主力達が寮を頻繁に飛び出す悪童
・松井秀喜も驚くほどのマイペース(遅刻魔・先輩に物怖じしない・AVオタク・優勝旅行中でもトレーニングなど)
・松井秀喜の面倒を見ていた中畑清も特訓の最中に長嶋監督を罵りながらボールを投げつけたり…けっこう荒れくれてるんです。

今は多少マイルドになってるとは言え、やっぱり血は争えない。
巨人内でもマイペースな岡本和真、怖いもの知らずに怖い先輩にも積極的に教えを請う坂本勇人。プロ入りは当たり前で、「巨人じゃないと嫌だ」と卓球団に対して指名拒否した選手はここ30年ぐらいでもちらほら。
そんな感じで巨人で大成する選手は、環境に振り回されない図太さや、荒れくれっぷり、強気な姿勢がどこかにあるし、ないと勝ち上がれないです。

これはFAや補強される選手も一緒で、お金にがめつい銭闘民族な選手や、弱小球団でブイブイいわせて天狗鼻のエースや強打者など、本質的な人格はともかく、イケイケドンドンになってから巨人に入団してくる人は多いです

そういう選手たちをうまく束ねないといけない。
圧倒的な大戦力を持っていても、巨人には巨人の悩みがあるのです。

「巨人軍よ紳士たれ」は、体育会系の正しい形

「巨人は中田翔のような荒れくれ者に手を出すのは、紳士じゃない」
「巨人軍よ紳士たれというからには、巨人の選手は紳士が多いに違いない」
と錯覚してる人がいますが、これは因果関係が反対です。

「巨人軍は紳士だから気高い」
ではなく、
巨人に来たら、規律に従って紳士に振る舞ってもらうぞ
が、【巨人軍よ紳士たれ】の正体です。

主なルールとしては
・ネクタイ、ヒゲ・染髪・長髪の禁止。
・入れ墨は非推奨。外国人でも見えないようにする
・移動やテレビ出演はスーツが基本で、私服はダメ(最近は一部緩和)
といったモノがある。

巨人ほど【勝てばよかろう】【選手にじゃぶじゃぶ投資します】という球団もないが、同時に【服装や態度について周りからうるさく言われる】という球団もないわけです。

「これじゃ、まるで体育会系だ」
「野球場も寮も作る特別待遇だけど、ルールと練習は厳しい強豪校の野球部みたいだ」
そうですよ?巨人軍はすごーく体育会系なチームです。

プロ野球界は出身校や先輩後輩に厳しい体育会系の世界なのは間違いないのです。

しかし、巨人は経営や采配、選手を取り巻くルールまで体育会系です。
逆に体育会系のルールがないと統制できないほど荒くれ者・図太い人が多く集まる球団なんです。

体育会系が野蛮なのではなく、実はヤバイのは日本的組織が言う「エセ体育会系」

「体育会系は野蛮だ」
「体育会系は前時代的で理屈が通用しない」
と言う人がいるのですが…アレは嘘です。

学校なんて場所は大人になってみると野蛮で理屈が通じない前時代的な場所です。
体育会系が悪いんじゃなくて、学校のダメなところを煮詰めたのが学校の運動部によくあるダメな体育会系(エセ体育会系)です。

よく考えてみて欲しいのですが…体育会系が強い強豪野球部ほど、逆に1年生からレギュラー入りするような選手が出てきてるのも事実です。
例えば、イチローなんかは1年生からいきなりレギュラーである反面、投手として先輩(イチロー曰く、ゴミが神様に向かって)ボールを投げて結果も出さないといけないのが精神的に辛くてイップスになったそうな…

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体育会系はその厳しさが批判されがちですが…厳しい体育会系を敷いているところほど実力で覆せる部分や、頑張ってきたご褒美もしっかり用意されてるところがあり、意外と実力社会なところがあります

しかし、日本的な組織…エセ体育会系を敷いているところほど
「年令を問わない実力主義」
「大きな結果を出せば、大きなご褒美がもらえる」
といった、体育会系を超越するご褒美はなく、ただただ儒教的でかつ年齢を理由に判断される側面のほうが大きくなります。
あんまり強くない部活に限って上級生を優遇したり、それでも試合に出られない人にも思い出や人間教育などといって体育会系そのものを正当化しようとしてきます。

実力主義な体育会系と、日本的年功序列なだけのエセ体育会系…この2つは全くの別物なので、そろそろ分けていただきたいです。

体育会系な西武・巨人vs計画育成のオリックス・日ハム

ちなみに、いい体育会系を敷くチームとして西武ライオンズがあります。
西武はルーキーもベテランも勝ち上がってきた人を積極起用
若いからファームでじっくりだとか、ベテランだから出場できずリーダーとして後輩のフォローを重視させられるみたいな年令で区切ることの少ないチームです。

ただ、西武も西武で弱点はあって、
「若手が突き上げて来るか、監督コーチにキツイ人がいないと世代交代やコンバートが進まず、実力主義なのに新陳代謝が悪くて煮詰まってしまうことがある」
という弱点を持ってます

巨人も原則は強豪校のような体育会系です。
しかし、西武と違って「球団が、大型補強もするし、報酬も他球団より大きく払う」という、体育会系どころか外資系エリート企業みたいな争わせ方をしてたりします。
特に原辰徳監督が巨人の監督をすると、他球団の選手を多く獲得しつつ、成功した選手にはお金ジャブジャブ、ただしルールにもうるさいという体育会系を突き詰めたようなスタイルでチームをまとめることが多いです。
お金がかかるし、生え抜き選手が厳しすぎる体育会系のせいで伸びきれないという弱点もある一方で、高いレベルでの実力主義をキープできるし、他球団で扱いきれない荒くれ者やおじさんが巨人では大活躍…というのが強みでもあります。


これと全く思想が違うのが私が応援するオリックスや、中田翔を放出した日ハムは日ハム。
この2つは年齢に応じて育成する傾向の強い組織です。

事実、オリックスは新人で実力がある選手も二軍でじっくり育て、実力が伴わなくても20代前半の選手はえこひいき気味に1軍で試されることがあります。
ベテランに対する処遇は監督によってマチマチですが、若手は年令を理由にチャンスが与えられたり、ステップアップを止められることがありがちです。

日ハムはもっと過激に年齢で役割が区切られてます。
どこから突っ込めばいいのかわかんないほど年齢で区切られがちで、無理やり起用された若手選手達はほとんど伸びていません。
清宮幸太郎選手なんか素人目に見てもスイング時に目線がブレブレですし、王柏融選手は素人目に見てもドアスイングでよく指摘されているほどです。

他にも、ベテラン選手はサポートに回されがちです。
鶴岡慎也選手兼任コーチという優秀なキャッチャーがいるのに、コーチ就任をきっかけに起用されなくなっています。
その代わりに出場してる、清水優心選手は元々パンチ力のある選手で札幌ドームでホームラン7本打てるほどでしたが…正捕手定着を急ぎすぎたために打撃もボロボロ、守備も上達しない(だからずっと捕逸が多く、彼の余計なリードで投手が崩れる試合多数)といった悪循環に入っています。

鶴岡慎也ほどではないのですが…中島卓也や中田翔といったかつての日ハムのレギュラーたちも、些細なことで降ろされたり、本来得意じゃないことまで求められるようになりました。
もちろん、圧倒的なレギュラーで居続けられない当人達も悪いのですが…その代わりに使われる選手は彼らと比較するのも失礼なぐらいにヘタで「年齢で起用するかどうか決めてるのでは?」と思われても仕方ないほどです。

そりゃ、オリックスだって宗佑磨や若月健矢を若くしてひいき気味に使ってきた過去はあります。
しかしながら、宗はセンターもサードも固定メンバーがいなかったし、若月は伊藤光がリード面で不安視されている中で起用に応えて盗塁阻止率やチーム防御率でリーグナンバーワンの成績を収めて、熱心なファンを納得させるだけの結果も残してます。

でも、ハムの年齢采配には、空白地帯も起用に応える若手もいないんです。
そして、そういう采配は、一般企業や、公務員組織ならありかもしれないけど…1年制でもレギュラーが取れる強烈な体育会系で育ってきた野球選手には苦痛極まりないんですよね…。

選手でも困惑するんだ。
ましてや、日ハムファンと、巨人ファンと意見が合うはずもない。
企業や一般組織のように選手や人間関係を考える日ハムと、勝てばよかろうであり「巨人軍よ紳士たれ」さえも体育会系文化の一部だと肌感覚でわかってる巨人ファン…これは全く違うものだから、わかりあえないだろうなぁ。

中田翔問題で、一番ダメなのは「いい先輩になれるかどうか」を考えて日ハムが選手を獲得してこなかったところ

もちろん、オリックスも中田翔の獲得を狙って指名したので「中田翔を指名したハムが悪い」なんて言う気はありません。

むしろ、中田翔を獲得するぐらいまでは…ハムもオリックスも下位指名や社会人ドラフトで掘り出し物を引き当てるタイプの球団でした。

北海道移転後のハムは「今年一番いい選手を取る」とか言ってますが…実は00年代までの日ハムは下位指名こそ優秀で、大学生社会人や育つのに時間がかかった苦労人こそ面白い選手がいっぱいいるチームで、オリックスと近かったんです。

ところが…ハムは調子に乗ったのか、スカウト力が落ちたのか、
「今年一番いい選手」
の基準が年々ミーハーになって、下位指名で素晴らしい選手を獲得することも減りました。

オリックスの文化を作ってきたのは、社会人や下位指名の苦労人だから実力が伴わない時期でもいい先輩・コーチになっても残って欲しい精神的支柱はけっこういました。

しかし、ハムの場合は、ここ10年ぐらいでそういう人がめっきり減り、じっくり育てるサポートをしてくれる選手がいない時に限って、中田翔が先輩で親分をしないといけない…という向いてないことをやらされる状態になりました。

もし、オリックスが中田翔を取ってたとしたら、日ハムほど中田翔を伸ばせなかったかもしれないし、そもそも優勝だって経験させてあげられなかったかもしれない。
あれだけの大打者に育てたのはハムの功績もあっただろう。

だけど、チームとして空中分解させた挙げ句、窮地に陥った選手を半ば押し付けるような形で中田翔を渡すことだけはオリックスならしなかったと思う。
オリックスが中田翔を獲得してオリックス的な企業的な役割分担が合わなかったとしても…そこでキチッとFAさせるか、長期契約終了後に自由契約にするとかもうちょっとどうにかしたと思うんです。

私に言わせると、中田翔に憤ってるパ・リーグファンの怒りってむしろ巨人や中田翔に対してではなく、日ハムに対してだと思うんです。
単に事件に対して…ということではなくて、中田翔を含めたチーム全体の空気の悪さが身内の恥として爆発。そこに対して、未だにやり場のない怒りと本質的な問題が改善してないことだと思うんです

確かに、中田翔個人の問題で言えば、彼が体育会系で厳しい規律、実力で周りを認めさせる環境、彼の闘争心をもり立てる戦いの場が必要という話。
彼を西武か巨人か阪神か…おじさんになっても実力さえあれば試合に出られて、おじさんも若い子とバチバチに切磋琢磨するチームに行けばいいだけのことなんだと思います。

しかし、日ハムという球団は、今どういう位置づけで編成をしてるか、なにを考えて選手を起用してるかを示していかないとファンは納得しません。

日ハムファンではなく、パ・リーグファンも欲求不満なんですよ!
体育会系でも、お金ジャブジャブでもない形で優勝まで持ってきた成功例だと思って好感をもってた球団が、育成も編成もグダグダで空気も悪く、最下位の中にろくな希望もない。
そういうのを見せつけられることにうんざりしてます。

企業のように年齢に応じて計画的にチームを編成したり、選手も役割を理解して試合に出てなくても周りを支えるように育つのは難しいことです。
しかし、元から才能も闘争心も備わっているゴリゴリの体育会系チーム以外にも勝てるほどのチームを、苦労人や社会人中心のチームを作れるのだとしたら、それってかなり面白いことだと期待もしてます。

巨人や西武が正しく体育会系であるように、オリックスや日ハムが正しく日本的、正しく企業っぽい組織として化けることを期待したいものです。





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