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どうすればいいかを、しらないから……!【物語・先の一打(せんのとうち)】45

返事が来ないとき……どうすればいいのか。

十六分かかって一心に推敲していたとき、それをまったく考えていなかった。今やっと、「当事者」になった気分に直面してしまった四郎だった。

……「当事者」であることは、四郎にとって、苦痛と緊張に面と向かい合う感覚しかない。だから、だからこそ、高橋に奈々瀬をゆずって、自分は姿をくらましてしまおうとさえ思ったのだ。


電話をするほうがいいのか。

電話はしないで、そのまま帰ってみたほうがいいのか。

もうその時点で、どうすればいいのかがわからない。メールを送ったこと自体が失敗だとしか感じられなくなっていく。

電話をかけた。奈々瀬ではなく、高橋に。


−−どしたの?

いつもの、楽しげな深い声。そうだ、電話を奈々瀬にではなく高橋にかけることさえも、四郎は「どうしようもない」と思った。「どうしようもない」と。

その事を話すと、高橋は言った。

−−何百回もやり取りの訓練をしてなお、どうしていいのかわからない、なら、どうしようもない。自分に対して、「うまくできて当たり前」「できない自分は恥ずかしい」なんて厳しすぎる仕打ちをしてること、わかる?

「えっ」

−−自分に対して、厳しすぎる基準を無理強いすると、メンタルを病んだり、自殺に至ったり、大変なことになりかねないよ。初めての異性で初恋で、初めてのコミュニケーション訓練、という状況だろ?自滅的な基準感は全部とっぱらって、「当然うまくできないから、じゃあどうする?」という観点で動いてもらいたいんだが……


「あっ、じゃあ、奈々瀬に電話して、花いるかいらんか、他のことがええか、聞いてみる」


四郎は茫然とした面持ちで答えた。

自滅。そうか、自滅か!!!!


「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!