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高橋照美
2017年6月30日 18:04
【もくろみ】一連の「成長小説(ビルドゥングス・ロマン)」のうち1作分。21世紀日本で成長小説をやろうと思う。ここでする仕事、しちゃいけない仕事。こんなストーリーで我々はこういう設定。<ラフメモ、備忘コピペ、下書き、没原稿、筆者のメモ(「こうしたい」「この後こうするつもり」等)、図解のupほか>素材と作業がnoteの中で仮脱稿まで完結するよう試みる。仮脱稿まで取材とインタビューなしでつ
2017年9月22日 17:26
☆四郎が軽めに夕食を終えると、宮垣は食事中の自分の膳を片付けてしまった。「そっちに腰かけてごらん」と壁際を指さし、「こいつに着替えちまえ」と、やわらかいコットンのハーフパンツとTシャツを投げてよこす。着替えた四郎が壁際へよると、宮垣は「よっこいしょっと」と片膝をついて、四郎の腰骨に右手をぐいっとかけた。(あっ……骨盤の内側か……)四郎は切なそうな表情で、目をつむった。「なんだ青年
2017年9月23日 18:00
☆「さあご先祖さんたちや。こいつは四部作を書ききるまでは、俺の弟子にしちまうんだ。どっちが強いかはお前さんがた、よくわかってるだろう。束でいたって、体もない、性根も下劣、心も弱いもんには負けやしねえ。くやしくてもかかってこれねえんだから、とっとと出やがれ。子孫を食い物にするような、腰抜けの未浄化霊のままぐずぐずしてねえで、成仏してから格調の高さで、俺をさとしにきやがれィ。体があろうがな
2017年9月24日 23:12
#20 希望 / 絶望「起きてみろ、四郎」宮垣がにやにや笑っている。四郎はねっとりした睡眠から、ねばりを払うように目覚めた。「……はぁあ……」全身が、もったりと重い。「……ぁいたぁ……」 重いだけではない、あちこちが痛い。しかも服が汗でぐっしょり濡れている。よろよろと四郎は立ちあがり、まるで生まれたての小鹿のように足元もおぼつかなく移動した。直立できていない。準四つ足、といってい
2017年9月25日 22:20
☆夜八時。どきどきしながら自室で電話を待っていた奈々瀬に、高橋から電話が入った。「こんばんは」自分の声が嬉しそうにひびきすぎて、奈々瀬はどぎまぎした。――四郎がうろたえてた。動転して時間も押してたんで、うっかり電話で「さようなら」って言ったらしいんだけど。本当?「さようならは、言葉づらはそうなんですけど、じゃあまたねの意味というのはわかっているので大丈夫なんです。それよりわ
2017年9月26日 19:04
☆「はいどうぞ」ドアから入ると、前の客を治療中の宮垣が、施術ベッドから高橋の方に来た。「はじめまして、高橋です」と、高橋は宮垣に頭を下げた。「書いてきがえといて」と、宮垣はカルテを高橋に渡し、施術ベッドへ戻っていった。高橋は「はい」とこたえたが、宮垣のそっけなさが気になった。前の客が帰り、きがえた高橋は宮垣に「嶺生(ねおい)四郎くんの様子を、教えていただけますか」と話しかけた。「
2017年10月2日 05:40
#21 この世の果て家族と夕食の時間がずれてもいいように、あたためるだけの作り置きのハンバーグを人数分と、大盛のポテトサラダと、味噌汁。奈々瀬は朝のうちに、弟にいろいろと指示をしておいた。学校では、不審者に注意するようにとの通達があった。帰宅途中の生徒が、なんと学校からわずか八分のところで襲われたらしい。いやな話をきいた、と奈々瀬は思った。昨冬自分が似たような目にあったあとと同じような注意
2017年10月4日 00:29
☆奈々瀬はじいっと聞いていた。聞きながら、いつか高橋がしたように、指であごと唇にふれてみた。それだけでは終わらさず、まるでその続きを体験してみようとするかのように……もう片方の手のひらでゆっくりと髪をなで、その手で首から背中をなでていった。奈々瀬が感じる自分の手は、高橋の分厚い大きな手と全く違って、小さくて頼りなくて指がほそくてうすっぺらかった。今ほしくてほしくてしかたがな
2017年10月5日 18:08
☆舞台は変わり楷由社(かいゆうしゃ)。社長室よこ、重役会議室。重厚すぎてひとごろしに使えそうなライターと灰皿の置いてある、あそこである。その楷由社の重役会議室。例によって逃げ出した社長、樫村譲(じょう)のかわりに、仕切るは雅峰(がほう)・高橋照美。さいぜんから高橋を間に、にらみ合う有馬青峰・宮垣耕造の両御大。腕組みのまま微動だにせぬ宮垣にむかい、有馬がいっしんに、担当嶺生(ねおい)
2017年10月6日 20:38
#22 男の土下座「なに、なんなの、今の話」有馬がぎょっとした顔で高橋を問いただす。「宮垣先生、有馬先生」高橋はうずくまりついでに、椅子から落ちるように床で土下座ポーズをしてみた。「お二人を男とみこんで、お願いします。 “峰の先祖がえり” の話を、この場限り、誰にも話さず墓場までお持ちください」さらに一段、平伏する。「お願いします」土下座の高橋に降ってくる、クラッシャー宮垣の嫌味なだ
2017年10月7日 15:37
☆クラッシャー宮垣、勝負あったとばかりにつづける仕方話(しかたばなし)。「最初の表面をとりのぞくだけで、おれもなかなか手こずった。血の濃い先祖返りも代々、癒着した圧縮ぶりで目のおくから身のうちにぐっしゃり、ぎゅうづめにされておるもんでナ。四郎の目は、有馬さんはひどく怖いだろう。おれでさえ怖い。絵描きの雅峰(がほう)だけだナ、いまあの目をまっすぐ見られるのは。あの目の奥は、先祖返り
2017年10月12日 09:48
☆四郎に炭酸水を買ってきてもらった。顔をざばざば洗って、高橋は、ふーーーっと息をつき、思い出したようにネクタイをゆるめた。そして会議室へ戻る。宮垣が明かした話を、手短に四郎に共有した。案の定、四郎は初耳だった。「宮垣先生も、奥の人んらどうしてええかわからへんのやな……。ほんでも、俺が衝動的に夜歩きはじめる日が、今二十一歳ごろまで伸びたで、いずれ二十五歳とか三十歳にものびるかもしれや
2017年10月13日 23:55
☆四郎は、自分のことにもかかわらず、案外けろりと言った。「そこはさ、宮垣先生、この情報が渡っとればこの人安心かなーとかいう感覚は、ない人やでさ」「なくてすむのか!? それでいいってのか」高橋は悔しそうに荒い息をつく。「お前ほど気はきかん人なんやろう。気をつけて内緒にしてくれとった有馬先生に、宮垣先生からバラされて、ぎょっとしたんか」「あ、ああ、それはある」それだ。まさにそれだ。
2017年10月15日 09:40
#23 くぎをさすそう言われながら、高橋は接待のことを四郎に黙ったままでいた。だって接待先には、ご先祖さまにとっての「エサ」がうじゃうじゃいるわけだから。とても四郎には打ち明けられない。シルバーのA4アバントの後部座席から、宮垣耕造が降り立った。運転席からは高橋照美。駐車場からエレベーターで上がり、クラブのドアをあけると「いらっしゃいませ」の声がかかった。理恵ママが女の子たちと出迎えて、席