【レビュー】『遠い1点と勝利』~第15節ファジアーノ岡山 VS V・ファーレン長崎~
岡山県に緊急事態宣言が発令。県からの要請により、無観客で行われた。ホームの後押しがない状況になってしまったが、スタジアムに集まった170枚の応援メッセージがキックオフ前の選手の背中を押す。ファン・サポーターの姿は見えないものの、期待に応えるべく、2試合ぶりのホームゲームに臨んだ。
スタメン
サイドに追い込むプレス
岡山は、最終ラインの形を変えない長崎のビルドアップに対して、2トップとボールサイドのSHで規制をかけていく。中央を使わせたくないため、FW山本貴とFW川本梨誉がボランチへのコースを背中で消しながら、CBに寄せていく。
プレスを受ける長崎はSBを出口に。岡山のブロックの外から第一ラインの突破を図る。
岡山はCBからSBへのパスが出た瞬間に、MF木村太哉やMF上門知樹が素早い出足でプレスをかけて、斜めのパスを遮断。さらに、縦に誘導して、SBで奪う。または、SBが強く寄せて、下げさせる。サイドに追い込むプレスが効果的に働いていた。
ショートパスで岡山を動かすことが難しいと感じたのか、長崎は起点になれる2トップへのロングボールを選択。マークを引き連れながらサイドに流れる。中央で背負いながらのキープ。機動力のあるFWエジガル・ジュニオと高さのあるFW都倉賢、2トップの特徴を生かすボールを出して、岡山のブロックをひっくり返そうと試みる。戦い方の幅を広げてきた。
抜け目ない澤田崇に許した失点
36分、長崎はゴールキックの競り合いでファウルを獲得。マイボールにすると、左サイドに展開。少し内側でパスを受けたDF米田がMF上門の寄せよりも早く、大外のMF澤田崇へ縦パス。DF河野諒祐を背負いながらキープしたMF澤田は、サポートに来たMF加藤大に預ける。MF加藤はこれをワンタッチで、サイドに流れるFWエジガルへ。
展開を読んでいたDF阿部海大がキープを許さず、身体を入れてボール奪取。と思いきや、タッチが大きくなった瞬間を狙われて、押し上げてきたMF澤田に奪われる。体勢を崩しながらも、キープしたMF澤田のパスを受けたFW都倉が相手をかわしてシュート。
ゴール前で打たれたシュートを防ごうとしたMF疋田優人のスライディングがこぼれ、DF徳元悠平の左足にぶつかったボールが、MF澤田の前に転がり、冷静に沈めた。
岡山としては悔しい失点。SBを引っ張り出されて空いたスペースにDF阿部が釣り出されたが、対応できていた。FW都倉のシュートにも身体を投げ出して防ごうした。
しかし、MF澤田の抜け目なさが全てを上回った。FWエジガルが奪われると判断すると、すぐに矢印を斜めに変えて、中央に切れ込んだ。それが、DF阿部からのボール奪取に繋がる。そして、ラストパスを送ると止まることなく、ゴール方向に走っている。シュートのこぼれ球を狙ったポジション取りが、ゴールを呼び込んだ。
監督が代わっても、重宝され続けた背番号19。先制点をもたらした抜け目なさが、使われ続けた理由であり、彼の真骨頂なのかもしれない。
長崎のゾーンディフェンスを崩すために
長崎はボールを回す最終ラインに激しいプレスをかけずに、2トップとボランチで四角の防波堤を形成。リトリートしながら、岡山のボール回しを伺う。そんな長崎の守備は、ボールを中心に個人が守らないといけないエリアを明確にするゾーンディフェンスがベース。
岡山のような前から奪いに行く、プレッシングをベースとした相手ならば、奪いに来たことで空いたスペースを使うことができる。相手が自発的に動くため、自分たちで相手を動かしやすい。
対する長崎は、4-4-2の陣形を自分たちから崩すことはほとんどない。サイドからの攻撃は、SHとSBがスライドして守る。中央からの攻撃には、奪う力が突出したMFカイオ・セザールを中心にどしり構える。
そんな長崎の守備ブロックを崩すためには、サイドチェンジと速い攻撃が有効。スライドを間に合わせないようなパス回し、ロングボールで局面を変える大きな展開。奪った後、長崎が陣形を整える前に攻め切る速いカウンター。これらは、あまり刺さらなかった。
サイドチェンジ後は、ボールホルダーが孤立することが多く、1対2を作られて攻め込めない。長崎のカバーリングよりも岡山のサポートが遅かった。そんな中でも、DF河野はFW川本とワンツーを仕掛けたり、アーリークロスを送るなど奮闘。しかし、パスがずれたり、クロスを跳ね返されてしまう。
完全に押し込んでしまえば、得点に繋がるようなチャンスはサイドから作れそうではあった。最後の質を高めながら、クロスを上げる前の工夫が必要。理想的なのは、ホーム北九州戦のMF木村のゴールを演出したDF河野のインナーラップのような形だ。
カウンターも同じ。FWを走らせるも、後ろからの押し上げが遅い。深い位置まで攻め込まれてからのカウンターは、パワーを出すことが難しい。長い距離を走って、ボールホルダーをサポート、追い越さないといけない。やはり、前から制限をかけているため、規制に留まらずに高い位置で奪いたい。高い位置からのショートカウンターなら、よりパワーを出せる。
相手のプレーを制限することに関しては、高いレベルにある岡山のプレッシング。奪うプレスへと進化できれば、カウンターの威力も高まるはず。
後半は攻勢を強めるも、遠い1点
57分に、MF宮崎幾笑を投入。右サイドに宮崎(幾)、トップにMF上門を配置。SHが中に入り、SBを外に押し上げる。ゴール前に人数を集めて、厚みのある攻撃を試みるも、中央をさらに固める長崎の堅い守備を崩せない。
69分には、MF喜山康平、DF宮崎智彦をピッチに送り出し、DF徳元のポジションを1つ前に。DF宮崎(智)やDF徳元が上げるクロスは、長崎の高さに跳ね返されてしまう。
ボールを保持する時間を増やし、MF宮崎(幾)が今までで一番良い攻撃への関与を見せる岡山だったが、長崎は61分にDF鍬先祐弥を投入し、SBを務めていたDF毎熊を1列上げ、76分には187㎝のDFフレイレも投入。守備の強度を上げる。
81分、岡山のFK。MF白井が蹴ったパスを、DF井上黎生人が倒れ込みながらヘディングシュートを放つが、GK富澤雅也がファインセーブ。このまま長崎が反撃を許さず、0-1で試合終了。
ホームで勝点を得られなかった岡山は順位を17位に落とした。一方の長崎は、監督交代から3試合で2勝1分と勝ち点を積み重ね、順位を7位に上げた。
無観客の寂しさ
「スタンドに人がいない」、昨シーズンに無観客試合を経験していたが、キックオフ前から大きな寂しさを感じた。昨シーズンの無観客試合は、全試合で実施されたいたもの。多くの試合が観客を入れて行われてた中での無観客試合は、非常につらい。
Cスタで行われるホームゲームは、ファンやサポーターの手拍子と拍手が鳴りやまない。声は出さなくても、相手チームに与える圧力はJ2屈指だと思う。だけど、スタジアムに行くことができず、追いかけるチームと選手を直接的に後押しできない。
昨シーズンのアウェイ長崎では、大敗したチームに対して何も声をかけられないもどかしさを感じ、リベンジを誓ったホームでは、ファン・サポーターがスタジアムに行くことさえ許されなかった。
いち早くCスタに行ける日が来ることを願って。
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