「強みを消されて」~第29節ギラヴァンツ北九州VS松本山雅FC~


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 8試合勝利がないギラヴァンツ北九州が5試合勝利がない松本山雅FCをミクニワールドスタジアムに迎え撃つ一戦。
 長いトンネルを抜けた先の光を見るのはどちらなのか。


試合結果

明治安田生命J2リーグ第29節

2020.10.25

ギラヴァンツ北九州 0-1 松本山雅FC

[得点]

44分 塚川孝輝(松本)



ハイライト




スタメン


画像1


ギラヴァンツ北九州
・フォーメーションは4-4-2。
・松本山雅FCから期限付き移籍しているGK永井堅梧は出場できないため、GK高橋拓也がスタメン入り。
・この試合がJ2での200試合目となるMF加藤弘堅が5試合ぶりのスタメン復帰。


松本山雅FC
・フォーメーションは3-4-2-1。
・DF橋内優也が統率する3バック
・シーズン途中に加入したMF佐藤和弘&MF前貴之がチームを仕上げる。



ミスマッチを狙った松本山雅のポゼッション

 松本山雅FCは10試合ぶりのスタメンとなったMF塚川孝輝を起点にギラヴァンツ北九州のゴール前に迫った。184㎝77㎏のMF塚川は身体能力が高く、空中戦で強さを誇る。本職はボランチだが、高い位置を取るインサイドハーフ(ほとんどシャドー)で出場。169㎝DF福森健太や171㎝DF村松航太に対して高さのアドバンテージがあるMF塚川にロングボールを集めることで空中戦を支配。MF塚川が落とす、北九州の小さいクリアを高い位置で前向きで拾うによって相手陣内へ入っていく。

 また、MF塚川は前線で張ってロングボールを待つだけではなく、MF佐藤やMF前がボールを持った時にスッと下りることで北九州の選手の間で浮くようなポジショニングを取っていた。そこにパスが入るとターンやサイドに散らすなど空中・地上の両方で松本のビルドアップの起点になっていた。



徹底した松本山雅の國分伸太郎包囲網とギラヴァンツ北九州のプランB


 ギラヴァンツ北九州はこの試合もDFラインからボールを持ちながら、試合を進めることができた。センターバックがペナルティエリアの幅に広がって、サイドバックを押し上げる形を主に使いながら、ボールを前に進めようと試みた。

 松本はFW阪野豊史とFWセルジーニョが2トップのようになり、北九州のCBにプレスをかけてきた。北九州は横パスを繋いでプレスをいなして、ボールを前に運びたいが北九州のパスは松本のブロックの外回り。空いているSBに出すしかなく、前を塞がれたSBはアバウトなボールを蹴って、回収されるシーンが多く見られた。

 北九州の司令塔として中央に君臨するMF國分伸太郎は松本が作る包囲網によって、「繋ぎ」の部分において試合から消されてしまった。松本の包囲網は2トップで北九州のCBからの縦パスを塞ぎ、MF國分に出される横パスはMF塚川・MF前・佐藤で囲い込んで包囲網完成。MF國分を消されたことでパスを下げずにサイドチェンジをすることができなくなった北九州は、逆サイドの高い位置でフリーになっているSBを使いきれずに、一度下げてから各駅停車でサイドを変えるしかなく、松本はスライドして対応。

 44分のMF塚川の得点シーンは「國分伸太郎包囲網」でボールを奪ってからのショートカウンターだった。松本がWBがSBのボールを奪いに行くことでプレスの圧力を強め、北九州はルーズボールという緊急性から今までかわしてきた包囲網にパスを出しまい、ボールロスト。MF塚川のニアポストに当たって入ったシュートは素晴らしかったが、奪うタイミングを共有して強度を一気に上げた松本の意思統一の高さが表れた得点となった。



 中央を使えずに苦戦していた北九州だったが、DF福森健太で松本のウイングバックを釣り出して、WBの裏をMF椿直起の俊足で突いて左サイドの深い位置に侵入。マイナスのクロスが合わず得点こそ生まれなかったが、左サイドで優位に立った。中央を使えない北九州のプランBは松本のゴールを脅かす効果的なものだっただけに最後の質を上げていきたい。



ゴール前に停まった緑のバス

 

“park the bus in front of the goal”


 ゴールに前にバスを停める。前線を下げて、後ろに選手を集めて守備を固める戦術を揶揄する表現。”プレミアリーグの強豪”トッテナム・ホットスパーで監督を務めるジョゼ・モウリーニョによって日本に広まった。

 松本山雅FCの柴田峡監督は言葉通り、ゴール前にバスを停めてギラヴァンツ北九州の攻撃を食い止めて、リードを守り切った。

 前述した得点シーンのように前半の松本はWBが前にボールを奪いに行く機会も比較的見られた。なるべく5バックにならずに3バックのまま北九州の攻撃を長い時間受け止めていたのだ。しかし、後半は北九州がボール握ることをある程度程度許容し、5バックになる時間が長くなった。

 松本は5バックにしてゴール前を固めることで、前半使われていたWBの裏をケアし、北九州が使いたいエリアを埋めた。松本の5-3のブロックの前でパスを繋ぐ北九州はなかなか均衡を破れない。ペナルティエリアを横切るパスがどんどん増えて、縦パスがなかなか出せない。

 SBとSHのワンツーや、FW鈴木国友を投入して前線に高さと強さを加え、代わって入ったFW池元友樹が狭いスぺースで受けてMF髙橋とのコンビネーションなどで工夫を凝らしてゴールに迫ったが、ゴールネットを揺らせないまま時計の針が進む。ラストワンプレーの北九州のCKのこぼれ球をMF加藤がゴール前で拾ったところで試合終了のホイッスル。

 予期しないタイミングでの負けを告げる笛の音はスタジアムに駆けつけた北九州サポーターの頭の中に?が浮かばせた。小林伸二監督は試合終了のタイミングに猛抗議、共に抗議したコーチにイエローカードが出されるなど、後味の悪い敗戦となってしまった。




いつもとは違う角度から



 この試合ミクニワールドスタジアムに足を運んで観戦した。席はゴール裏の2階席。いつもはバックスタンド、DAZNで見るような横方向から見ることを選んでいるが、あえてゴール前の責を購入し、縦方向から戦況を見つめた。ピッチを縦に俯瞰的に見たことで、ボールを持った選手が出せるパスコースの空き方や縦パスをしっかり切ったフォワードのプレスなどを見ることができた。

 ピッチで戦う選手と同じように相手ゴールを前にした状態だからこそ、選手と同じ角度で見ることができ、自分がサッカーをやっていたことを少し思い出した。「選手はこんなに狭い間にパスを通しているのか」、「選手はこんな狭いスペースでボールを受けようとしているのか」。観客目線ではなく、選手目線に近づけることでこんなすごいことを高いレベルでこなしている選手へのリスペクトが強くなった。

 自分が目指すサッカーライターは選手がいなければ成り立たない仕事で、選手との良い関係を築けないと、内に秘める思いや熱い言葉を引き出すことはできない。サッカーライターを目指す上で基盤にしないといけない選手へのリスペクトの気持ちを再認識した貴重な時間になった。スタジアムでしか得られない体験を感じてもらうためにも、こんなご時世だが、より多くの人に足を運んでほしい。



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