【読書感想文】『サッカー指導者が現場で大切にしている伝え方』~サッカー指導者は伝え方で決まる-机上は緻密に、現場は柔軟に-~

サッカーファンの間で、戦術が存在感を強めている。

チームはどんなフォーメーションで戦っているのか。ビルドアップやプレスの仕方が話題の中心に立ち、可変式フォーメーションが脚光を浴びている。戦術的に試合を見ることを目指す人が増加し、戦術的な視点が1つのステータスになりつつあることも否定できない。戦術なしにはサッカーを語れないと感じることもあるくらいだ。

戦術はサッカーを楽しく見るときにとても有効なツールだと思う。なぜなら、試合のポイントを独自に設定することができるから。しかし、自分の戦術論を棚に上げて、チームや監督、選手を軽視するのは間違っている。根拠のない机上の空論を振りかざすのは、現場へのリスペクトを欠くから好きではない。

果たして、戦術は現場でどれくらい重要視されているのか。

2021年に大宮アルディージャを指揮し、現在は大分トリニータでヘッドコーチを務める岩瀬健氏は本書で「指導者はサッカーの理論を学ばなければいけない。だけど、それを欲しがる選手は、指導者が考えるよりも少ない」と述べている。

これを読んで“戦術は重要だが、すべてではない”と考えるようになった。

もちろん、それぞれの監督に目指すサッカーはある。ボールを握りたいのか、縦に早く攻めたいのか。前からボールを奪いに行きたいのか。理想の戦術は千差万別だ。

その中で岩瀬氏は、戦術を選手に押し付けてはいけないと言う。ロジック(論理)とフィーリング(感覚)のバランスは個人差がとても大きく、細かく戦術的な指示をした方が良い選手とそうではない選手がいるのだ。「説得ではなく納得してもらうように伝えることを心掛ける。ロジックは緻密に持って、伝え方はポップに」プレーのコツを掴んでもらう方が大事なようだ。具体例として、ハーフスペースという言葉ではなく、左斜め前などピッチに立つ選手の目線に近い言葉も用意していたと紹介されていた。

私たちが普段多用しているカタカナの戦術用語は現場ではそれほど飛び交っていない。そう思った。あくまでも戦術は複雑なサッカーを分かりやすく楽しむために有効なツールに過ぎないのかもしれない、と。

その他にも練習の組み立て方、ゲーム分析の方法などサッカー指導者の考え方が紹介されている。現場で戦う人が何を考えているのか、何を基準にしているのか。生の声を知ることで、自分の考えを見つめ直すきっかけになった。

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