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バンドの遠隔同時演奏を生配信する方法

自己紹介

2003年結成のインストロックバンド「LITE」でギターを弾いている武田です。国内の主要フェスに出演したり年に平均5回ほど海外ツアーに行ったりしながら株式会社INQでスタートアップ向けのデットファイナンスのコンサルティングをしており、いわゆるパラレルな活動をしています。
本noteは音楽サイドの話です。

コロナ禍でライブができない!が始まり

コロナ禍において20年3月以降ライブハウスは自粛の一途を辿り、20年5月に入った今も緊急事態宣言が延長され少なくとも5月末までのライブ開催は絶望的です。LITEも例外でなく今年決まっていた海外公演含めた全ライブは一旦見合わせ及びキャンセルになっています。

ライブもできない、スタジオで練習もできない。
ライブ会場に集まってライブ配信をすることすらも阻まれる状況です。
ライブが出来る日はいつになることやら。

そんな環境の中、様々なアーティストが表現の場を求めて自宅にいながら一人で演奏を配信したり、誰かの撮った演奏動画に誰かが重ねたりという動画を上げています。しかしまだバンドのような「複数人」の演奏をそれぞれの家から「同時に」配信した動画はないように思いました。
そこで「家に居ながらバンドメンバーと演奏ができたら」めちゃくちゃいいなぁと思い、バンドの遠隔同時演奏+配信にチャレンジしてみることにしました。
結果、半ば無理矢理ですが実現させることができました。
これが実際にYou Tubeで公開配信も行った動画です。

映像にレイテンシーはありますが、演奏はしっかりと成り立っていると言えるのではないでしょうか。

恐らく前人未到(私調べ)の、バンドの遠隔同時演奏を動画で生配信した映像です。

実はこれができたことで、ものすごく配信の可能性が広がっていくと思っていて、その広がりのアイデアを共有するとともに少しでもアーティストやライブハウスのこれからの活動の参考になればと思い、このnoteを書くことにしました。
ちなみに、僕はいちアーティストですが機材オタクではないので、詳しい人が見たら「なんでそんなやり方してるの?」とか「こっちのほうがいいでしょ?」みたいな話もあると思います。むしろそれは大歓迎でもっと良いやり方を教えて欲しいし、よりクオリティの高い配信が広めていくための議論の元になれれば幸いです。

バンドの遠隔同時演奏+配信のためのツールの検討

さて本題ですが、まず検討した同時演奏のためのツールについてです。

■バンドの遠隔同時演奏
NETDUETTO(YAMAHA)
今回使用したサービスです。
2010年からリリースされていたようですね。
楽器のレイテンシーを最大限抑える技術によりしっかりと演奏ができますし、ソフトウェアの動きも比較的軽い印象です。
ただ動画カメラ機能はありませんのでこれだけではライブ動画を配信することはできません。

jamkazam(海外スタートアップ)
動画機能があるので、これでいいのではと試してみましたが、後述するギターなどをDAWで鳴らすためには「Sound Flower」などのPC内のルーティングが必須であり、若干面倒な設定が必要なことに加えてソフトがめちゃくちゃ重く、よくフリーズしたので個人的には今回の配信用途には不向きと判断しました。

■動画のためのツール
これはメンバーみんなが使い慣れているという理由で、迷わずZOOMを使いましたが、Hangoutなどでも問題なくできるはずです。

やってみたら様々な問題勃発!

「ZOOMだけを使って全員で演奏すればいいのでは?」と思った方もいるかも知れません。もちろん僕もまずそれを試しました。結果、たった2人だけでもレイテンシーがありすぎて全く演奏になりませんでした。試しに自身のPCとスマホで同時にZOOMに入ってもらうとわかりますが、しゃべった音声がかなり遅れて聞こえてきます。
演奏と映像はソフトを分ける必要があると考えました。

次はNETDUETTO+ZOOMを同時に動かして試してみました。するとmacのスペックが追いつかず、映像も平時より遅くなり演奏もとてつもないレイテンシーが発生してこれまた演奏ができませんでした。使用したMacは「Core i7,メモリ16GB」と決してスペックは低く無いにも関わらずです。それほど映像と楽器の共存は負荷が大きいようなのです。

上記実験から端末の負荷を分散する必要があると考え、結果、端末2台、オーディオインターフェース2台というパワープレイに行き着くことになりました。予め申し上げておきますが、もしmac proくらいスペックの高い端末をお持ちであれば1台で全てのソフトが動く可能性があります。ただ僕のようにmac bookはあれどもmac proはなかなか家に無い人がほとんどだと思うので、以下2台端末前提でお話します。(2台PCがある人も少ないかもしれませんが…。)

同時演奏・配信で使用したハード・ソフト・回線

今回使用した配信ホストの使用機材とツールです。

ハードウェア
・Mac Book Pro (Core i7,16GB)
・WindowsPC(Core-i7,8GB)(macでも全く問題ありません。)
・オーディオインターフェース2台(各端末に対して1台ずつの計2台)
・スマホ(ZOOMのマイクとして)
ソフトウェア
・NETDUETTO(演奏)
・ZOOM(カメラ映像)
・OBS(配信)
・You Tube(配信)
・Logic(必要に応じて)
※今回はLogic上で動くGuitarRigを使いました。
ネット環境
・メンバー全員が光回線。LANケーブル接続。

配信ホストの接続手順

配信ホストのつなぎ方を図解します。
図を見ると複雑に見えまずが単純に1台の端末の音を別の端末に送り配信するというものです。
(※各ツールの操作方法は割愛させて頂きます。)

ホスト (1)


① 前述の通り1台の端末では負荷がかかりすぎたため端末を2台に分けました。まず右からmacの設定ですが、macでは「NETDUETTO」と「Logic(GuitarRig)」だけ動かしました。楽器をオーディオインターフェースに接続。ここまではホスト以外も同じ設定なのでNETDUETTOに全員でログインし、まずばmacだけで楽器だけの同期は完結させます。

② 続いて2台の端末の接続部ですが、mac側に接続したオーディオインターフェースをWindowsPC側に接続したオーディオインターフェースにLINEで繋ぐというパワープレイを行います。

次にWindowsPC側の設定です。
WindowsPC側では「ZOOM」「OBS」「You Tube(ブラウザ)」を立ち上げます。

③ まずは「ZOOM」は普通に会話用として立ち上げます。実際の演奏時、全員がNETDUETTOの音を聞くことになりますのでZOOMはあくまで動画・会話用という位置づけとし演奏中は必ずマイクをOFFにします。(楽器の生音を拾ってしまい演奏できなくなるため)

④ 次にOBSを立ち上げ、映像の設定は「映像キャプチャ」としデスクトップの画面が配信されるようにします。音声はWindowsPCに接続しているオーディオインターフェースを選択し、macで鳴らしているNETDUETTOの音がちゃんと認識されているか確認してみます。

これだけですとZOOMでの会話の音声は配信されないため、OBS上でデスクトップマイクを「既定」に設定し、ZOOMの音声も認識させます。これでmacからのNETDUETTOの音とWindowsPC内のZOOMの音がどちらもOBSで認識されるはずです。

⑤ 最後にWindowsPCでYou Tubeを立ち上げ、OBSとYou Tubeで配信開始可能です!

ただ、これだと何故かWindowsPCのZOOMでホストである自分が話した声が何故かOBSで認識されず(PCのサウンドに自分の声が認識されていない状態でした)自分の声だけが入りませんでしたので、僕の場合は別途スマホでZOOMに入りマイク用として使いました。この方法でOBSも声を認識してくれました。
下図はPC内の詳細です。

PC内 (1)

⑥ 配信ホストはWindowsPCのオーディオインターフェースで音をモニターします。

配信ホスト以外のメンバーの接続手順

ハードウェア
・端末1台
・オーディオインターフェース 1台
・スマホ(ZOOM用)
ソフトウェア
・NETDUETTO
・ZOOM(会話用)
※DAW(必要に応じて)

配信ホスト以外のメンバーは端末でNETDUETTOを立ち上げ、スマホでZOOMに参加しました。(ZOOMはスマホでなくPC端末でも良いですが、WIFI回線と4G回線で動かすソフトを分けられると負荷も少なくなると思います)

ホスト以外のメンバーの接続です。

ホスト以外

まだ存在するいくつかのハードル

・演奏のレイテンシー
NETDUETTO上での演奏のレイテンシーは各自のネット回線状況に左右されます。住んでいるマンションの回線の込み具合など如何ともし難い問題が発生します。

・音と映像のシンクロレイテンシー
特に映像のレイテンシーはどうしても生じるので、NETDUETTOの音とZOOMの映像のタイミングはピッタリとは合いません。個人的には許せる範囲かと思っていますが、違和感を感じるか否かは本noteトップの実際の映像を参考にしてみてください。

・ハードウェアスペック
僕の場合、mac proのようはハイスペック端末は無く、たまたま家にmac bookとWindowsPCがありオーディオインターフェースも2台あったのですぐ実験できましたが、端末のスペックが足りなかったり単純にオーディオインターフェースが無いという方もいると思います。ただオーディオインターフェースは安いものもあるので試して見る価値はあると思います。

バンド遠隔同時演奏ができればこんなことも可能に!

上記の設定ができれば複数人のバンドが、遠距離から同時に演奏し、配信を行うことが出来るはずです。それが実現した暁にはライブ配信の他、下記が出来るようになると考えています。

・スタジオのリハ代わりに
この仕組みを整えてから、コロナ禍にも関わらず週5日くらいバンドメンバーとネット上で集まり配信本番のためのリハを行いました。実際ちょっとしたスタジオ代わりになります。

・DAWを画面共有した曲作り
楽器だけでなくZOOMで画面共有もできるため、LogicやPro Tools画面を共有して遠隔で曲作りも可能になると思います。

・他アーティストとのセッションの配信
物理的な距離がなくなるので、日本中やひいては海外のアーティストと演奏した動画を配信出来るかもしれません。

マネタイズも考える

配信が出来るようになったからといっても無料で演奏を披露することに抵抗のあるアーティストも多いと思いますので、この配信方法を使ったマネタイズについても考えてみます。

Zaikoのサービスを使ったチケッティング
言わずとしれたZaikoにより家にいながらのライブ配信でチケットを販売しても良いかもしれません。

・You TubeのSuper Chat を活用したライブストリーミング
もしSuper Chat ができるYou Tubeのバンドアカウントがあれば、家にいながらライブを公開しSuper Chatによるマネタイズが出来るかもしれません。Super Chatのアカウントをライブハウスが持っていればライブハウスのYou Tubeアカウントで配信して利益を分配することも出来るかもしれません。

・オンラインライブハウス
HIPLANDの柳井さんが初めているオンラインライブハウスの概念により、ZOOMのウェビナー機能を使い、ぴあやローソンなどでチケットを販売し、配信をライブハウスが主催すれば、家にいながらライブハウスへの出演が出来るかもしれません。

・サブスクファンコミュニティでのクローズドな配信
実は初めてこのバンドでの生演奏・生配信を行ったのはLITEのオフィシャルアプリ「The Room」内でした。このThe Roomとは、主なバンドの活動である「ライブ」「音源」の他にもファンにとって価値のある活動があるのでは無いかという疑問を原点として19年9月にローンチしたクローズドなLITEのファンコミュニティで、「リリース前のデモ音源」や「海外でのライブ配信」「アプリ内限定での配信ライブ」を定期的にリリース・実施しています。

このアプリを作っていなければこのバンド生配信をするに至ることは決してなかったでしょう。
このStay Homeでバンドの生演奏・生配信は、リアルな現場でのライブができないコロナ禍において、LITEのファンコミュニティに対して何ができるかと考えた末の一つの答えとも言えるかもしれません。
改めてファンの皆さんには全力で感謝するのみです。

最後に

ご覧頂いたようにNETDUETTOなど革新的な技術の使い方にさらに「ちょっとした工夫」をこらせば、割と単純な仕組みで配信ができることに気がつけました。それによって恐らく日本では初?のバンドの同時演奏生配信の実証実験ができました。

noteを書こうと思い立ったのは、バンドでライブ配信が気軽に出来るようになればコロナ禍でライブができないアーティストの新たな活動の一つになるかもしれないし、ライブハウスの活動を支援できるかもしれない。ひいてはライブを楽しみにしているお客さんが喜ぶかもしれないという思いからです。ちょっとした情報のシェアですが、これを皮切りにバンド同時演奏生配信が当たり前のによって少しでも喜んでくれる音楽ファンが増えると良いなと思っています。

このnoteが少しでも世の中のバンドマンの役に立つことを願って。

English Ver

(2020-05-16追記)英語の記事を作成しました。
海外のアーティストや友人とのセッションを実現するためのセッティング説明用としてご活用ください。