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緊急事態宣言解除後のバーのあり方を考えてみる

はじめに

今週になって一部の県で緊急事態宣言が解除された。東京でももし緊急事態宣言が解除されたら「自粛」をする必要はなく大手を振って営業することが可能になる。

だが必ずしもいいことばかりではない。「自粛をお願いされていた」という状況が終わるわけなので、東京都からの感染拡大防止協力金の50万円国からの持続化給付金の個人事業主100万円、中小企業200万円のような公的な支援・給付の追加は目先は期待しにくくなる。

国民一人一人への10万円の給付に必要な金額は約13兆円。国全体の税収が一年で60兆円、消費税の1年分の税収が20兆円であることを考えると近い将来国から再び大盤振る舞いで金が配られると考えるのは楽観的に過ぎるかもしれない。

そうなると今までの給付と、金融機関からの低利もしくは実質無利子のしばらく返さなくてもいいお金を頼りにバーの経営者は「自己責任で生き延びろ」ということになる。「本当の地獄はここから始まる」という人もいる。

では「自己責任で生き延びなければならないコロナ後の世界」というのはバーにとってどういうものなのか。

ワクチンが多くの人に行き渡り、6-7割の人たちが抗体を得て集団免疫を獲得しないとコロナウイルスの感染リスクが残る。それまでには恐らく最低でも1年ほどかかるだろう。

そのリスクがある中では人々の行動様式は緊急事態宣言が出ていたころと解除された後で大きく変わるとはあまり思えない。引き続き「三密」を避けるような行動をとると考えるほうが普通だ。

そしてそれがバーにとってどういうことを意味するのか、5席のカウンターのある小さめのバーを例に「コロナ前」と「コロナ後」でどう変わるか考えてみる。


コロナ前(BC、Before Corona)

金曜日の20時過ぎ。稼ぎ時だ。馴染みの良客AさんとBさんが来店ずみ。二人はカウンターに以下のような形で座り、どちらも一杯目を飲んでいる。

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そこに2人連れの新規客が入ってきた。
AさんとBさんは新しい客のために席を詰める。例えば次のように。

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そしてまた別の常連客Cさんが来た。めでたく満席。

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Aさん、Bさんはそれぞれ2杯ずつさらに注文して3杯飲んで帰っていく。
Cさんもいつも通り3杯で帰る。3人で合計9ショット、売上は13,500円ぐらいのイメージ。

そして若い二人連れの客はそれぞれビール一杯飲んで750円払って次の店に行った。

結局5人で15,000円の売上。


コロナ後(AD、After Disaster)

だがアフターコロナではこうなる。

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Aさん、Bさんがそれぞれ飲んでいるところに二人連れのお客さんが来た。5席のカウンターの店で4人が隣り合わせにならずに座るのは不可能だ。
結果Aさんは気を使って1杯飲んだだけでお勘定貰って帰ってしまう。

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そして残されたBさんも、新たにCさんが来店したらAさん同様に席を譲っていつもより早く帰ってしまうのだ。上客の2人が早く切り上げて買ってしまう、というのは売り上げを考えると痛すぎる。

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AさんもBさんも早く帰ってしまうのは「三密」を避け自分の感染リスクを減らすという意味もあるが、どちらかというと他の客に対するエチケットとして。

まとめてみよう。

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Aさんは1杯で帰り、Bさんは2杯飲んでCさんに席を譲り、新規客はビール一杯で帰る。AさんBさんCさんの飲む量はそれぞれ1、2、3杯で合計6杯、売上9,000円、新規客は1,500円で合計10,500円。

コロナ前の売上が15,000円だったから、4,500円の売上減。
書き入れ時の売上が3割減ったことになる。

二人連れの客が2組入れば4席埋まる可能性もあるが、基本は5人掛けのカウンターの店では3人までしか客をいれられない。

緊急事態宣言が撤回されたとしてもしばらくこれが今後のスタンダードでありつづけるだろう。

ずっと満席だというわけではない店が大半だと思うので、総売上が3割下がるという訳ではない。念のため。

釈迦に説法だが以下の式は飲食店経営のイロハのイだ。

客席数 × 客単価 × 回転数 =  売上合計額

今見たように客席数はソーシャルディスタンスのせいで減り、他の二つの要素である客単価と回転数も景気の悪化で下がってしまう可能性がある。

外国人観光客が戻ってくるのにはさらに時間がかかるので(個人的には2年はかかると考える)、インバウンドで客単価上げて回転稼いでいたかつての大型の繁忙店は内装も金掛けて家賃も高いので一層厳しいだろう。

やはり売上が下がる中では固定費が高いと辛い。前回も検討したように固定費削減はできるだけのことをすべきだ。


考えられる対策その1 席を増やす

ではこの状況を少しでも改善するためにできることを考えてみる。

ゆったりした大きな椅子を使ってカウンターに5席、という店は、少し椅子のサイズを小さくするなどしてカウンター6席の店にしてみたらどうなるか。先ほどの例だと、売上2割減で済むことになる。詳細は以下の通り。

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5席だと売上3割減の10,500円だったところから1席増やすと2割減の12,000円で済む。意外と馬鹿にならない。

カウンターの幅が広くなるわけではないので1席増やすと客同士の間隔はもちろん近くなるが、「隣の席が空いている」ことが「三密」回避に重要だと考える客は多いはずで、そんな客にとっては空席があるだけで心理的に大きく違うだろう。

あるいはカウンター7席にして二人連れの客と他の客の間に(ラーメン一蘭みたいに)間仕切りを置くということも考えられる。それであればAさん、Bさん、Cさんが同時に店にいることが可能になる。そうすれば売上は当初と変わらない。

店のしつらえによって一人当たりの幅を縮めるには限度があるうえ、間仕切りを置くのに抵抗があるとは思うが、ここまでやれば売上は守れる、という意味でご参考まで。

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考えられる対策その2 積極的に予約を受ける

先ほどの例だと客単価が低い二人連れの新規客が来たせいで上客のAさん、Bさんが早く帰ってしまい、売上が下がってしまった。

もしCさんが来ることが事前にわかっていたら、ビール1杯だけ飲んで帰った新規の二人連れの客に「実は感染対策であまりお客さんを入れないようにしていまして」とか「予約でいっぱいで」と言って断れたかもしれない。そうすれば10,500円の売上はA、B、Cさんとも4,500円ずつ使って13,500円になっていた。従前の1割減で済んでいた、ということだ。

馴染みの客にはなぜそうしようとしているのかをちゃんと説明して、できれば来店前に連絡をくれるようにお願いするのがいいかもしれない。そしてこれまでよりももう一歩踏み込んで、「今日は何時ごろまで飲みそうですか?」や「今晩はしっかり飲まれますか?」と聞いても、「わかっている」客にとっては失礼には当たらないと私は思う。

そうすれば店にとっていい客の席を事前に用意でき、いくら使うかわからない客を入れることでいい客が帰ってしまって総売上が下がることを回避できる。

ソーシャルディスタンスによって実質的に席数が大きく減るため、席の通し方、予約の受け方などの上手下手で店の売上が大きく変わってくる。予約の電話にどう対応するか、急にフリー客が入ってきたらどうするか、常にしっかり考えられるバーテンダーとそうでない人では売上に大きな差がついてしまうかもしれない。

好きな店が無くなってしまったら困るのはわれわれ客側も同様なので、客も席数が実質的に減ったことの意味を理解して、これまでと考え方を改める必要がある。

これまでは「一人でバーに行くのにわざわざ電話するなんて」、「カクテル作っていたりしたら申し訳ないし」と思いがちだったけれど、コロナ後の世界では店にとっても自分にとってもWin-Winになるので来店前に積極的に電話を入れた方がいいかもしれない。

またこれまで予約入れてどれぐらい飲むかを伝えることはあまりなかったと思うが、先ほど述べた理由から「さっと飲んでさっと帰ります」とか「今晩はいろいろしっかり飲みたい気分です」とか事前に伝えられるのであれば伝えた方がいいのではないかと思う。

またバーが混んできて席が無いときは常連は席を譲って帰るもの、というのがこれまで常識とされてきたが、店の経営をサポートするという意味ではその常識はもう通用しないかもしれない。自分ができる限りお金を使って帰るほうが、フリーの客に新たに店を知ってもらうよりも優先するかもしれない。


終わりに

店が狭くて席数を増やせない、あるいは狭小店だがアクセスがいいので家賃が高くて固定費を下げるのにも限度がある、インバウンド客含め客単価が高かったが客数、客単価ともに激減してしまい借入金の返済負担がきつい、など様々厳しい状況のバーもたくさんあると思う。

だがあと1年はアフターコロナの環境が常態化すると考えると売上は最大でもこれまでの8割程度になると思った方がいい。それでやっていかれるのであればいいけれど、無理して続けていてどこかで行き詰ってしまう可能性が高いのであれば、名誉ある撤退を選ぶのも一つの手だと思う。

行き詰ってしまって銀行取引停止になったり自己破産してしまったりするとしばらくは新たにお金を借りることが出来なくなってしまい、復活して店を開くのが極めて難しくなる。

判断は難しいものの、再起できない深手を負う前に損切りしてコロナの最悪期に体力を消耗することなく、景気が戻ってきてからまたこれまでの経験を活かしてバーを経営するというのも一つの考え方だと思う。

バーを愛する私としては店がなくなるのは悲しいが、バーテンダーの方が再起不能な傷を負うよりは一旦撤退しても景気が良くなったときに復活してくれたほうが嬉しい。

バーの在庫にあるすぐに使わないボトルを買わせていただいたり、「逆つけ」してまとまった飲み代をお店に先払いしたり、お店のボトルを小分けにして販売しているのを買ったり、お店のプライベートボトルを買わせていただいたり様々バーを愛する客としては協力しているつもりでいる。少々店で客同士の間隔が詰まったぐらいで文句を言うつもりはまったくない。

バーの経営者の方々が様々に工夫をこらしてこの難局を乗り切ってくださることを一人のバー好きとして心から祈っている。






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