不在者たち

まず初めに言葉が消えた。
次に視線が合わなくなり、
最後にあなたはそこに存在しない者となった。

会うとあら探しがとまらなくなり、
貶めることばかりを考えてしまう。
やがて諍いが絶えなくなった。

はじめは期待した仲なのに。
わたしを幸せにしてくれる人だから
裏切られても愛せたはずだったのに。

ただ嬉しかったのだ。
あの日、
わたしを見つけてくれたことが。

いじわるをして気持ちを試した晩春。
ひとり寝のさみしさを思い出した夏の盛り。
ふたりで落ち葉を踏み歩いた秋の夕暮れ。

それがいつの頃からか
視線を避けるようになっていた。
連絡を遅らせることが駆け引きでなくなり、
同じ場所にいることに堪えられなくなっていた。
わたしはわたしを消してしまった。

恋をすることが不安だったのではない。
あなたに触れられる予感が怖かったのではない。

ただ言って欲しかったのだ。
あの夜、
わたしが傍にいるだけよかったのだと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?