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『停電の夜に』(ジュンパ・ラヒリ / 小川高義訳)を読む

インド系作家ジュンパ・ラヒリ(Jhumpa Lahiri, 1967 - )のデビュー短篇集『停電の夜に』(1999)。原題は「病気の通訳(Interpreter of Maladies)」でどちらの作品も収録されている。ラヒリはこの一冊で60万部を売り上げ、2000年のピュリッツァー賞ノンフィクション部門を受賞した。

インドとアメリカの差を浮かび上がらせる巧い設定といい、移民2世の感覚と経験といい、プロットをうごかす小道具の配置といい、テクニカルなところが秀逸で、鮮やか。文体は短く、現在進行形で、テンポよく場面が切り替わる。

女性らしい視点から世界を見ることを意識している。若々しい気負いと、才能を誇示しているところも、このデビュー短篇集の見所のひとつ。「結婚」「男女間のズレ」「子供時代の終わり」「寂しさ」「切なさ」などを丁寧に描いてる。

《彼は首を振って、「ぼくは孤独の何たるかを知ってる人間だ」と、急にまじめな顔になった。
この瞬間、この人はわかってくれている、とミランダは思った。一人で映画を見たあと、本屋へ行って雑誌の拾い読みでもしたあと、ラクシュミと飲んだあと--といってもラクシュミは一時間か二時間もすればエールワイフ駅で夫と待ちあわせに決まっているのだが--そんな夜に地下鉄で帰る気持ちをわかってくれるのだ。》(「sexy」より)

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