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海辺で何時間も話す夜

1週間ほど前 高校時代からずっと、畏敬の念を抱く先輩と1年ぶりにラインをした。そうしたら、2日後に飲みに誘われた。大学時代に何度か飲みに誘われたのを幾度となく断り続けているわたしは、何故か 今日飲みにいくことにした。結局 江ノ島の海辺に座り込み4、5時間 海風に当たり近況報告をした。お茶を片手にひたすら話し込んだ。



毎日睨みつけては怒鳴ってくる先輩が心底嫌いだった。虫の居所が悪いときには 八つ当たりに走る。ただ、とんでもないくらいスーパープレイヤーだったし、正義感の塊でもあった。コートの中でひとり年下の私が どうにか先輩方への苛立ちを隠しているのを察し、代わりに怒鳴りつけてくれる時もあった。サンキュー、心の中で深々とお礼する。先輩からのシュートラインに沿った見事なパスを悠々とミスする私に向かって「ごめん!」とパスミスを謝ってくる姿が 申し訳ない気持ちを倍増させる。すんません!声にならない声で手を挙げる。

ミニマムサイズの身体で無限の体力と意地の強さで戦う先輩が大好きだった。空中の格闘技という異名を持つスポーツに、このサイズ感で挑むには相当な根性が必要だし、左右から相手に挟み撃ちにされながらも、「ぉらぁ''〜」という打響に似た声と共に放たれるシュートが好きだった。真隣でみて足がすくむ。そして、「おいおめー、戻れ!」という角刈り監督の罵声で我に帰る、あのルーティン、笑ってしまうくらい好きだったな。

相反する先輩の態度に、一体どっちが本物の顔なのか分からなかったが、答えは卒業して間もなく直ぐに分かった。

この世で最難関の再婚、そう 死別再婚をしたのである。重すぎる。その現実を受け止めるには21歳、あまりに若すぎる。お付き合いしているときに、先輩から相談された。「まだ分かんないけど 再婚なんじゃないかな?いつか話してくれるのを待っているけど どう思う?」そう問われた私は 、どうなんでしょうね と苦笑いしながら曖昧な答えで返した。

それから間もなく その事実を知り、私にだけこっそり教えてくれた。式当日、先輩の手紙には「底無しの悲しみの中私を受け入れてくれてありがとうございます。」と語られていた。泣いたね。情けないほど泣いた。その姿が美しくて あまりに強くて 泣いた。初めて参列した結婚式が 先輩のもので良かった、と心から思う。

当時の先輩の強さや怖さは、まるっと愛情そのものだと確信した。

先輩は、変わっていた。

あんだけ遊びを教えてくれたのに、もう一切遊んでいないし、結婚してから泥酔することもなくなったらしい。早く結婚したいってあんなに嘆いていた先輩に、「結婚してみてどうですか?」って聞いたら「なーにも変わらない 楽しい」って言われた。私のドタイプな旦那さんを「顔好きじゃないからなー」って言ってくる。ケッ。羨ましい限りです。

その後、合わずじまいだったこの1年間の恋愛について詰問されて さらさらーっと話していたら 毒舌で返された。爆笑しながら浴びせてくる罵倒に懐かしさを感じた。先に結婚した先輩からのあらゆるアドバイスは 的を射ているし、今の私には痛すぎるくらいのご指摘に、「間違いないです」とケタケタ笑っちゃう。

近頃のあれやこれやについて話していたら、「は??なにそれ?」ってキレ出した。笑   この人は昔から変わらない。全然関係ない第三者なのに、当の本人よりめちゃくちゃキレてくれるんだもん。好きも嫌いもハッキリしている先輩は、ご健全だった。清々しいや。

「やっぱそうですよね」とヘラヘラする。「当たり前だから、何言ってんの?ぜっっったい辞めたほうがいい!まじくそだよ。他にも居るから!全然いるから!」

大切な人を目の前でディスられても、私には なんだか嬉しかった。ヘラヘラが止まらなかった。

時折、こういう人がいる。全然関係ないくせ、思い切り ディスってくれる人がいる。私が怒れない代わりに、思い切り「クソだね!」って満面の笑みで言ってくれる人がいる。

ありがたいや。そういう人のおかげで心の中のモヤモヤは何処かに行ってくれる。腹が立つことも、笑わせてくれる。ありがたいや。ずっと変わらない好きや嫌いを貫く先輩が、やつぱり好きだな。

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