普通原理主義者

高校入学を間近に控えた三月。
ここで通常一般の同年代の人たちは新たに始まるめくるめく学生生活に心躍らせ、制服を採寸し、スクールバックや学習用具を新調する。
もちろん高校から別れる友人たちとの思いで作りに花咲かせていることだと思う。
普通はそうなのだろう。普通は。
さらに言うなら先行してこれから三年お世話になる学び舎を訪れるも良し。あわよくば部活動の練習にフライングして参加して、先輩と交流を図るなんてこともやってたりするのだろう。
普通はそうなのだ。普通は。
『新しい環境に不安だが、同級生と先輩という知り合いがいるから心強いです!』
(N県 男子生徒)
普通はそうだ。普通は! ああ……普通がうらやましい。
僕は「普通」にあこがれている。普通な日常を渇望している。どこにでもいない特異な男子である。
――しかし、声を大にしていいたい。それは世間様からの相対的な評価によるものであって、僕自身はどこにでもいる普通の男子生徒なのだと。
人並みの男子のような悩みを持ち、人並みの趣味をもつ。流行にだって敏感なのだ。
毎日有名人のブログのチェックもかかさないし、人並みにつぶやいたりもしている。もちろんフォローもかかさない。
テレビゲームも大好きだ。
どこぞのアーティストが書いた比喩も深さのカケラもない単純な歌詞に感動するし、インスタも無論嗜んでいる。
どうだろう、どこからどうみても僕は世間一般で照らし合わせると十分に平凡な人間ではないだろうか。
だが、僕は一度としてそのくくりに入ることが出来なかった。
いつも特別な目で見られていた。
僕を特異たらしめているもの――それは単に環境のせいなのである。
たとえば今、つまり入学式前日に見知らぬ山奥に拉致され放置されている。そんな環境のせいであると。

僕の父は詳しくはなにをやっているかわからないが、しいていうなら冒険家だった。
かといって様々な辺境の地に赴いて未知なるものの発見に尽力しているといったら、そういうわけではない。
僕の父の冒険の範囲はあくまで人のすむ場所に限定されるのだ。――厳密にいうなら冒険ではない。
様々な機関、施設に雇われて、父は西へ東へ動きまわる。
仕事はなにやら特別に専門な仕事で日本でも父以外に他に出来る人がいないらしい。
その希少性も相成って東奔西走な日々なのである。
僕が生まれてまもなく、僕が物心つく前に母はこの世を去った。駆け落ちの末に結ばれた両親には頼れる身よりもなく、僕を安心して預けるところがなかったのだと父はいう。
僕は父につれてかれ、その都度転校を繰り返した。
多いときで一年に4回も転校したことがある。
もっとも長く続いたときは、小学4年から6年の約2年ちょっとである。
あとはもって1年なんてザラであった。
もっとも長いこと過ごした小4から小6の時期も突然の闖入者である僕を歓迎してくれるにはちょっとやそっとではない時間を要した。
仲良くなれたと実感したときにはもう明日には転校という残酷な結末。中学校なんてひどいもので、多くの転校を生徒は不審がり、さまざまな噂や憶測が飛び交った。
「前の学校で暴力問題を起こした」「いじめられた末の転校」など多種多様であった。この中に僕を好意的に表しているものはなかった。
いじめられこそしなかったが、いつも僕は一人だった。
一人にはなれていたがやはり、友達の輪に入れないのは心辛いものがあった。
一時期、学校がいやになって不登校なんてものになりかけたこともあった。しかしこれは未遂に終わった。

父が僕を説得したのだった。
帰来、能天気で楽天主義で破天荒な父だが、このときは真剣な顔で涙ながらに僕に熱く語ったのであった。
そのなかで父は「由宇。学校は楽しい。仲間との絆、ひとつのものに一致団結して全力で取り組むことはかけがえのないものなのだと、それをお前に味あわせてやれないのは非常に心苦しいが……」といって、父は自分の学校生活での思い出を夜通し語った。
父と母の出会いも学校だったそうだ。僕はそんな話を聞いていくうち、序盤こそ斜に構え、話半分に聞いていた僕だが、気づいたときにはすでに見事に説得されてしまったのであった。
さらに、父の話に感化され、夢の学校生活に強いあこがれを抱くことになった。
ついぞ僕に心を開いてくれる友達を作ることは叶わなかったのだが。――それはどういうことかというとトドのつまり最初の頃に出回った噂の数々のせいなのであった。
父の説得により、微力ながら努力というものをしてみた僕であるが。つまりは内向的にならずにポジティブ精神満載で過ごしてみたところ、みんな話しかけてくれるようになったし、話の輪にも加わることができた。
――でもなにか僕とみんなの間には壁がいつだってあったのだ。
色々な学校を渡り歩いてきた僕だから気づいてしまうことなのであろう。
しかし僕はくじけなかった。むしろ夢の学園生活、親友、恋人そういったものへの思いは顕著になっていった。

中学卒業をひかえ煩悶としていた僕に朗報が舞い込んだ。
朗報は父からだった。内容は僕の進学先についてだった。
今住んでいる町での父の仕事がいつ終わるか目途がたっていなかったので、地元のそこそこなレベルの高校への進学を決めていたのだったが、父は開口一番僕に「入学手続きしてきたぞ」といってきたのだった。
どうやら僕の進学先は父の知り合いの高校に決まったらしい。
どこまでも勝手な親だと呆れてものも言えないほどだったが、その後の説明で僕は前言撤回することとなった。それは高校三年間その学校で過ごせるということだった。なんと親元を離れ学生寮で一人暮らしをさせてくれるのだという。
「もう高校生なのだから、これからは思う存分楽しんで来い」それが父の言葉だった。
僕は嬉しかった。あまりの喜びに三日三晩寝ずに騒ぎ続けるほどだった。
夢にまでみたごく普通の青春を謳歌できることは僕にとってはなによりの幸福なのだ。
それからというもの、僕は毎日学校に思いをはせ、恋焦がれた。寝ても覚めても考えるは新しき学園生活。考えるはバラ色の学園生活。
僕の学び舎となる高校はハイテクノロジーの叡智を結集した超近未来的な高校なのだそうだ。少し普通じゃない気がするが……この際そんなこと全く気にならない。
――つまりはただ興奮していた。
僕は毎日パンフレットとにらめっこをして過ごし、自分はどこのクラスになるのか想像し、昼飯の学食への最短経路を模索した。僕はこの学校に入学する前から誰よりもこの学校を知っている自信がある。

そんな時が過ぎていき、ついに来たる入学式にそなえて学校があるという町へ向かっていた。広大な山林地帯を開拓してつくった新興都市にその学校はある。今住んでいるところからはだいぶ遠く、父が車を出してくれることになった。
先に下宿先に荷物を送っているため、簡単に身の回りのものをつめたバックを車に乗せていくだけとなった。父の仕事場まで行くために使っているワゴン車に乗り込み出発した。旅路は万事良好だった。――僕の記憶の中では。
前日からの興奮状態でほぼ0に等しい睡眠時間だった僕は運転中の父には悪いと思いつつも襲いくる睡魔には抗えず、ついに眠ってしまった。次に目を開けたとき、そこに広がるのはきっとユートピアであると万感の期待を胸に秘め深い眠りについた。
そして、今の状況に至るのであった。

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学生のときに書いた駄文小説適当に公開します。身バレしないから恥ずかしくないっ!笑なろう系とか流行る前だったんだよなぁ…懐かしい。試しにどの話も最初だけ載せてみます。見たいって言う酔狂な人がいたら続きも貼る勇気が出ます笑
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