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宇宙はキュウリで出来ている

西暦2053年
宇宙の謎が解明され
世界はその答えに驚愕をした

ある科学者グループが導き出した
宇宙の本質、その正体は
とても単純で一見難解だった

テレビや新聞、ネットや街頭掲示板には
発表されたその短い一文が
でかでかと表示されては埋め尽くされ
世界はその話題で持ち切りになる

「世紀の大発見!宇宙はキュウリだった!」

頭の悪い僕はすぐにはピンと来なかった
何かの例えか引用か言い回しかと思った

でも言葉そのままの意味だった
この宇宙はキュウリらしい

とてつもなく大きなキュウリがあって
その中の小さな空洞のひとつが僕らがいる宇宙で
目に見えないほどの細かな粒子のひとつひとつが
銀河で、星で、地球のカケラなのだと

「空洞ごとに別の宇宙があって
沢山の宇宙が隣り合わせに存在しているのです」

ざっくりと言えばそんな感じだと
若い女性アナウンサーが臨時ニュースの中で
興奮しながらキュウリを握ってそう解説をした

頭の良い人たちが
これほど大々的に発表したのだから
間違いなく宇宙はキュウリなのだろう

僕たちはキュウリの中に閉じ込められて生きている

それは今世紀最大の、いや人類最大の発見なのだが
ただそれがわかったからと言って
僕ら一般人の日常には特に影響なんて無く

夜空の果て、遠くキュウリの外側に想いを馳せ
安い日本酒をちびちびと飲みながら
昨晩作ったキュウリの塩漬けを口にした
一日寝かせたことで味が染み、深みが増していた

ポリポリと嚙みながら思う
今食べたキュウリも宇宙の塊のひとつなら
僕は宇宙を破壊したことになるのだろうと

口の中に、胃の中に消えた
小さな宇宙や銀河や名も知らぬ生物たちは
何の変哲もない平凡な人間の酒のあてとして
一瞬にして消えてしまったんだ

罪悪感は感じないし実感さえ湧かない
歯ごたえの良い美味しい宇宙だった
そんな感情しか持てなかった

そしてきっと同じように、僕たちの宇宙も
その宇宙よりもさらに大きな何者かによって
パクっと悪気無く腹の足しにされるんだろう

緊急速報が追加で入り
科学者が新たな発表と訂正をした

「キュウリではなくレンコンかもしれない」と

正直どちらでもいい気もするが
頭の良い人たちにとっては重要なことなのだろう

この宇宙が最後を迎える時
瞬きのように消える前には
合図として大きなお腹の音が聴こえるかもしれない

さすがにそれを阻止出来る事は不可能だろう
だからせめて美味しく召し上がって頂きたいと願う

もしくは良い音を出して破壊してくれればいい

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