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投影ゲーム

「うわー!!」と言う叫び声が室内に響いて
汗だくで目を覚ました客の元へと慌てて駆け寄った

優しく手を握り落ち着かせた私は
「おかえりなさい、わかりますか?」と一言

辺りを見渡して我を取り戻したその客は
軽く照れ隠しの笑みを見せた

この革新的なゲームでは
アバターを自分で選択する事は出来なかった
初期の能力値もスキルも全てがランダムで
時間が進むことで磨かれて行く仕様だ

それぞれに伸びやすい才能はあるものの
何に秀でていて何が苦手分野なのかはわからず
自分でいろいろと探りながら試しながら
見つけて育てて行くのも醍醐味のひとつだ

ごくたまに天才型で始められる事もあって
それに当たれば全てにおいてが最初から
他の人より能力はずば抜けてはいるものの
その確率は恐ろしく低く設定されている

時間と共に体も心も環境も変化する擬似世界の中
それにうまく適応をしながら生まれてから死ぬまで
ひとつの人生を終えなければいけなくて

それぞれに定められた苦しみを乗り越えることで
真の楽しさを追求するこのゲームは
気軽に始めるにはなかなかハードルは高かった

その世界に入ると現実での記憶は封印され
ゲームの中が現実だと認識されるので
うまくいかないからと言って
途中でゲームを辞めることも出来ない

死んでゲームオーバーになって現実に戻り
体験した事を振り返って初めて
ゲームだと思い出し間違った選択肢に悔しがる

ちなみに付け足すと
どれだけ頑張ったかやり遂げたかは重要では無く
ゲームの最終的なポイントとして換算されるのは
他の人がやっていないことをどれだけやったか

悪い行いは引かれたり換算されなかったりもするが
それも珍しい体験なら高得点が貰える場合もある

ただゲーム中ではその目的さえもわからないし
そもそも自分がゲームの中にいることすら気づけない

虐待や暴力の絶えない家庭に生まれたり
紛争や満足に食べられない国で育ったりで
最初の段階で結構な差もあったりするので
運要素もかなり必要とされた

そんな、現実の生き写しのようなゲーム
それでも希望者が後を絶たないのは
今の日常に満足をしてないからなんだろう
別人になって違う人生を生きてみたいんだろう

ゲームの中にいる間の時間は簡略化されていて
中で八十年生きたとしても実際には八時間ほど
眠っている間に楽しめるから
目が覚めれば夢みたいな物に思えるそうだ

言い忘れていたが私はそのゲーム施設のスタッフで
脳に直接VRを埋め込まれた人たちを
広い部屋にずらりと並ぶベッド
そこに横たわる人たちを監視する仕事をしている

目の前の異様な光景を眺めながら思う
このゲームはただの現実のコピーにすぎないのにと
いやそんなことは皆わかった上でやっているのか

パソコンのアラームが鳴り
B159のベッドで眠っていた客が目を覚ました

おかしいな、さっき入ったばかりのはずなのに
と思いながら遠隔で接続を切り
その人が体験して来た情報や成績を整理して告げに行く

起き上がり、少しボーっとした後で
ベッド脇のモニターに映し出された
自分の獲得ポイントを見てその客は悔しがった

「せっかく高い金払って来たのに五歳で事故るとは」

何事も思い通りに行かないのは
ゲームも現実も変わらない

続けてN018のアラームが鳴りポイントを算出した
今までの最高点を記録していた

ゲーム内でも亡くなったのは三十代のはずなのに
一体何をすればこんな成績を?と気になって

「凄いですね、何をしたんですか?」
と聞いてみると

「独裁者になって戦争しまくったから、ですかね」
と答えた

「それって悪行扱いでのポイントは引かれなかったんですね」

すると客は少し考えて
「たぶん、信念をもっていたからかな」
と苦笑いをした

彼の世界ではそれが正義だったのかもしれない
それを成し遂げて確立させたのなら
皮肉ではあるがこの高得点も納得だ

ごく普通に見えるこの青年も
現実世界で同じ立場になれば同じ事をするんだろう
それを悪と捉えるかどうかは周りの考え方次第か

しばらくはこの記録を破る人は現れないだろう

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