残虐性に隠されたもの

■エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』


「国名シリーズ」の中でも特に人気があるらしい本作。

その殺人事件は、これまで読んだ推理小説とは比較にならないほど残虐的。首を切り落とされてT字型に磔にされる……というもの。小説の残酷な描写には比較的耐性があるほうだと思っていますが、それでもちょっと「ウッ」となりました(ちなみにホラー映画やスプラッターは無理です。小説だと読める 笑)。

ストーリー展開は『ローマ帽子の秘密』に比べてスリルがあって面白かった。全然目処が立たなくて落ち込むエラリー、東奔西走するエラリーもよい。

犯人がなぜT字に執着したのか?推理の手がかりになったごくごくシンプルなきっかけとは何か?徹底したミスリードに気づけるか?果たしてこのタイトルの意味は……!?


やっぱり一番面白かったのは、エラリーの推理。

正直、推理シーンが少なくて若干物足りなかったけど(中盤でももっと論理を爆発させてくれ〜!笑)、シンプルながら味わい深い推理でした。

何度も何度もイメージしながらできないこと。
「相手の立場と知性に憑依すること」
それができて、自分と照らし合わせてみれば、違和感に気づけるはずなのに……やっぱりできない!難しい。

デュパンの『盗まれた手紙』は、心理に焦点をあてて「手紙の隠し場所」を推理していた。あれは「知能レベルの高い犯人がどのような思考をするか?」という推理が見どころなのだけど、今回の場合はちょっと違う。

こちらも同様に計画性の高い犯人なのだけど、切羽詰まって取った行動……つまり無意識のうちにやってしまったことが「いかにありえないか」を推理する。ごくごくシンプルだからこそ面白いです(こういうの、読んで気づけちゃう人っているのかなぁ)。


やっぱりクリスティとクイーンの対比は面白い。

私は、全体的な面白さでいうとクリスティに軍配が上がると思います。ストーリーの強度。ミスリードの上手さ。犯人の意外性(犯人が意外じゃなかったことがない)。

あと、自分がクイーンの思考回路に似ているせいでやや尊敬しにくい……というのがあって。すごい人だ〜と思いつつ、なんとなく同族嫌悪というか、思考回路が読めるだけに色々とケチをつけたくなっちゃうというか。笑 クリスティは自分とは別種の人間なので素直に感服できます。

今までクイーンを4冊読んで、ドルリー・レーンのシリーズのほうが完成度は高い気がしている。でもキャラとしてはエラリーが圧倒的に好き。かっこいいし。ホームズから優しさと器用さを抜いたような感じで、なんだか放っておけない。笑


江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』を古本で買ったのですが(アマゾン)、中にびっしりラインマーカーひいてあって。笑 これは初めてだな〜。返品したいと言ったら無料にしてくれましたが……。

どうしよう。この大事なところ(?)がマークされている状態で読むべきか、買い直すべきか、迷っています。

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