ホームズとワトスン

■アーサー・コナン・ドイル『緋色の研究』


いったい不思議と神秘とを混同するのはまちがっている。もっとも平凡な犯罪が最も神秘的に見えるものです。つまり、推理を引き出すべき斬新な、または特殊な材料が見あたらないがためです。(P.99)

初めてのコナン・ドイル。順番通りに読むとよいそうなので、ちゃんと調べて買いました。

新潮文庫と光文社文庫で迷ったけど、昔から新潮文庫推し(笑)なのと、表紙のデザインがかっこいい……という不純な動機で、新潮文庫に(常日頃からジャケ買いをします)。

新潮文庫は古い訳で、光文社文庫のほうが新しい訳らしいのですが、個人的には問題なかった。新訳にも興味があったけれど、時代が古い作品(1800年代)なので文体も古いほうがしっくりくるかも?というか、そこまで古くさくも読みにくくもない。好みでしょうか。


シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンの「探偵と盟友」のキャラクターが、これまで読んだミステリー(ポアロとヘイスティングス、デュパンと???)に比べてもっとも魅力的だった。

特にホームズの性格、人間味があって好き。

ホームズは私の言葉と、それをいう私の熱心さとを喜んで、顔を赤くした。私はすでに気づいていたことだが、彼は自分の探偵術について褒められると、まるで美貌を讃えられた女性のように、敏感に反応するのである。(P.56)


あれ、急に話が終わった!?……と思ったらまだまだストーリーは続いた。その二部の内容がとても面白い。理解しづらい時代的背景も多いのだけど、それも含めて興味深くてどんどん読めた。

第二部にこれだけ力を入れて書いているところに好感が持てる。政治や宗教のからむ話にリアリティがある。


アガサ・クリスティーやレイモンド・チャンドラーのミステリーには、たくさんの登場人物が出てきて、名前を覚えるのが大変だった。特にアガサは一気に登場人物を出すので、何度も登場人物一覧を見返すハメになる。

一方で、この物語に登場人物は少ないし、覚えようと思わなくても覚えられる。まだうまく説明できないけれど、ミステリーのゲーム性の違いのようなものを感じた(そういえばポーも登場人物が少ない)。

あと、ワトスンがデュパンのことを引き合いに出して褒めるのに、ホームズがデュパンをけなす描写に笑ってしまった。

「もちろん君は褒めたつもりで、僕をデュパンに比べてくれたのだろうが、僕にいわせればデュパンはずっと人物が落ちる」(P.32)

ミステリー界って楽しそうだなぁ…


「人生という無色の糸かせには、殺人というまっ赤な糸がまざって巻きこまれている。それを解きほぐして分離し、端から端まで一インチきざみに明るみへさらけだして見せるのが、僕らの任務なんだ」(P.63)
「日の下に新しきものなし、ですよ。すべてかならず前にあったことの繰りかえしにすぎないんだからな」(P.45)

シャーロック・ホームズについて語る言葉は、喉元につっかえてまだうまく出てこない。不思議な人なのだ。もちろん続いて『四つの署名』も注文した。

ミステリーの海は広くて嬉しい。安心して溺れられる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?