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ロボティクス・センス

 肉体の枷から解き放たれたと思えば、待っていたのは機械の制約と無感覚の世界だった。冷え冷えとしたサーバールームで後頭部に取り付けられたプラグからケーブルを伸ばし、I-10型二足歩行ドロイド「コウキシン」はそう考えた。ケーブルはサーバーへと接続され、コウキシンの頭脳がデータの吸い上げを開始する。コンピューターの画面がダイアログに表示されるようなわかりやすさは「それ」にはない。ただ感覚的に、あらゆる情報が文字となって脳内を通過する。
「おい、早くしろよ。サツが来るぞ」
 隣にいたジャージ姿の金髪男がコウキシンを急かす。彼はこの手の犯罪は初めてである。手汗が滲んでいることをコウキシンは認識した。
「プログレスバーでも出したほうがいいのか?もっと焦るだけだと思うが」
「何も分からないよりマシだろうが!」
「仕方ないな、今は45%。あと……ん、これは」
「何なんだよ」
 金髪男の声が震える。聞こえもしない警察車両のサイレンに怯え、今にも銃を抜きかねない。新人のお守りなのにコンビの任務とはツイていない。あとでケルビンに文句をつけなくてはとコウキシンは吸い出しで余った思考領域で考えた。
「実に……重い。だが面白そうなデータだ。ありとあらゆる不正の証拠がザックザクだぞ、喜べ」
「早くしろ、とっとと出たいんだ、寒いし」
「根性なしだなお前。ん……」
「ブリキ人形野郎に言われたくはねえよ」
 軽口を叩き合いながらも、作業は進んでいく。だが、コウキシンの五感センサーに何らかの危機を知らせる予兆を感じ取った。視界の端が揺らいでいる。夏のアスファルトの陽炎の如く……即ち敵性存在の証だ。
「伏せろ大型犬!」
 金髪男――コードネーム「ゴールデン・レトリバー」――はびくつきながらも指示に従った。同時にコウキシンは三本の指から成る手で拳銃を掴み、腰だめで薙ぐようにして「揺らぎ」を撃った。

【続く】

Photo by Taylor Vick on Unsplash

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