それは君が思っているよりもずっと
「まぁた、彼女にフラれたよ。大事にしてたつもりなんだけどなぁ。なんでいつも俺は長く続かないんだろう…」
「うーん…、鈍感だからじゃない?それより呑みすぎだってば…明日も仕事でしょう?」
「やっぱり、友達は裏切らないよなぁ…」
「あ!こら!寝るな!」
3ヶ月前できた歳下の可愛い彼女に振られて、酔い潰れている目の前のやつこそ、ぼくの好きな人。
「友達」
その言葉は鎖みたいに簡単にぼくの身動きを取れなくしてしまう。
こうやってこいつが恋に落ちていくのを、叶うのを、破れていくのを何度見送っただろう。
「俺さ〜、なんかみた瞬間にビビッと来ちゃうんだよね。電気が走るってわけ。運命を感じれちゃうんだよなぁ〜」
いつもそんなこと言ってる。
今回だって多分あと1ヶ月後には別の女の子を追いかけているんだろうから仕方がない。
「お前さぁ、もっとよく考えて付き合えよ。ビビッときた運命だけじゃなくてもっと相手を知ってからにしろよ。そうしたら傷付くことも少ないんじゃあないのか?要は、付き合ってみたけど思ってたのと違ったなぁって長続きしないんだろうよ。」
どうせ酔っ払ってぼくの言葉なんか頭に入っちゃいないだろうけど、一応アドバイスしてみる。
「まぁ、俺にはな、お前がいるからいいんだよ」
そういってあいつはケラケラ笑う。
心が痛い、苦しい、ズキズキする。
ぼくの気持ちになんて気づきもしないで。
いや、違う。
気付いてくれたところで、引かれてしまうくらいなら、気づかれない方がいいんだ、わかってる。
そんなのずっと前に分かっているんだよ。
なんだか涙が出そうになった。
どうしたって僕らは男と男だ。同じ性。
そんなことを気にせずに生きていける、愛していける世界ならよかった。
昔よりはよくなったんだろうけど、中々自分でその殻を越えていくのは怖いんだ。
何よりも、君のそばに居られなくなるのがとても辛い。
そう思いながら飲みかけのレモンサワーを飲み干す。
苦い苦い。
♦︎
また彼女に振られた。
振られた後はいつものようにアイツを誘って近所の居酒屋に誘う。
大事にしているつもりだ。
好きだと思って付き合ったんだ、当然さ。
いつも大抵おんなじ台詞で振られるんだ。
「あなたが一番好きなのは、私じゃあないでしょう?」
そんなことない、そんなことないんだよ。どうして揃いも揃っておんなじこと言うんだ。
好きだよ、彼女が好きだ。
俺が好きを伝えられる相手の中で一番好きさ。
ビビッときて運命を感じるんだ。
「あぁ、この子なら大丈夫かもしれない」
なんて思うんだ。
俺はずっと2番目に好きになれる人を探してる。
1番好きになれる女の子を探してる。
一番好きな人は他にいるから。
こんなことってあるか?って自分でも思ってる。
俺は昔から根っからの女好きだけれども、大学一年の春、お前にあってから心が苦しい。
6年もひた隠しにしている。
絶対にバレてはいけない。
「よく考えて付き合ったりしたら、気付いちまうんだよなぁ…」
お前が好きだって気づいてしまうから。
何度だって違う人に恋するんだ、自分が認めてしまう前に。
じゃないと、こうして一緒に居れなくなるだろう。
振られるよりも、その何倍拒絶が怖い。
ぬるくなったビールを飲み干す。
苦い。
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