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水神の悪戯

水神の悪戯 伽婢子
 河内の国でのこと。男が商いの帰り道、疲れはてて歩いていた。川沿いの道で、同じ里の方に向かって馬で進む一団があった。空いている馬もあったので、もしよかったら乗せてもらえないかと頼んだ。快く乗せてもらうことになり「川の向こうまで」といわれた。

 男は里につき、一団とわかれると、家に戻った。家では人々が集まって宴の最中だった。話しかけるが誰も答えてくれない。思わず妻に手をあげて打ったがこれも気にされない。これはいったいどういうことだと思ってるうちにむなしくなり、外に出た。

 歩いていると人を多く引く連れた馬に乗った気品ある人に出会った。中のひとりが男を指さし、「このものは未だ業の定まらないものであるけど、水神に馬を借りたので、悪戯けで魂を抜かれてしまったのです」。貴人は「水神道理もなきことに、人の命を誑かして、己が戯れとするこそ安らからぬ。明日必ず刑罰すべし」というと、供のものたちが恐れるのが分かった。男に向かい中の一人が「この方こそ聖徳太子。科長の陵より出て国中を巡り悪神を治め悪鬼を戒め、人民を守っておられるのです。さあ、あなたの魂を戻しましょう」
 男は目が覚めると馬に乗せてもらった川沿いの道であった。

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