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10代向け小説が3ヶ月間売れ続けたきっかけはTikTok。従来のプロモーション手法と異なるTikTokで本が売れるメカニズムとは<集英社さんインタビュー>

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2020年、あるインディーズアーティストが1年前にリリースした楽曲が突如TikTok上で話題となり、先日そのアーティストは2020年NHK紅白歌合戦への出場が決まりました。

そのアーティストと楽曲とは、瑛人さんの「香水」。

瑛人さんの「香水」の事例のように、TikTokで急速に話題となり、その後各ランキングやチャートの上位にランクインするなど大きな反響を呼ぶような楽曲は少なくありません。

実はこうした現象、音楽に限ったものではなく、いま、出版物もTikTokがきっかけで大きく売上が伸びている現象が起きているのです。

なぜTikTokで話題になると、コンテンツは爆発的にヒットするのでしょうか?TikTokで話題になるコンテンツにはどのような特徴があるのでしょうか?

今回は、TikTokがきっかけで、3ヶ月以上増刷が続くある小説に関するお話をご紹介します。

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刊行する小説が次々とTikTokで話題に

集英社本棚2

(TSUTAYA五井店での展開)

本記事で取り上げるのは、TikTokで投稿された動画がきっかけで話題となり、現在では発行部数が43万部を突破し、ベストセラーとなった『桜のような僕の恋人(集英社文庫)』

実はこの小説を刊行する集英社では、ほかにも『どこよりも遠い場所にいる君へ(集英社オレンジ文庫)』『また君と出会う未来のために(集英社オレンジ文庫)』など多くの書籍がTikTokで話題となっています。

なぜここまで大きな話題となったのでしょうか?

その裏側について、集英社の書籍販売部で書籍プロモーションを手掛ける島田さん、喜田さんに話を伺いました。

違和感を覚えた海の日のPOSデータ。3ヶ月以上売れ続けた

上に挙げた集英社の書籍は、どれも主に10代から20代前半の若者をターゲットにした作品です。集英社ではそれまでも若者に合わせた書籍のプロモーションを展開していたといいますが、なぜTikTokで話題になったことがここまで大きな反響を呼んだのでしょうか。

これまで、どんなプロモーション施策を打ってきましたか?

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▲(株)集英社 書籍販売部 書籍販売第1課 島田さん

「これまで、若者が使っている主なSNSについては、アカウントを開設し、作家さん個人のアカウントを開設でも、積極的に書籍の内容について発信をしていただきました。さらに、動画投稿サイトにも書籍を紹介するためのプロモーションビデオのようなものを流すなどして認知拡大を図ってきました。SNSでできることはすべて展開していましたが、TikTokだけは取り組んでこなかったんです」(島田さん)

そのため、集英社では当初、『桜のような僕の恋人』がTikTokで話題になったことに気づかなかったそうです。

「7月23〜26日の四連休にPOSデータが大きく動いていることに気づきました。が、この時期は毎年『ナツイチ(夏の一冊)』というキャンペーンを展開していたので、当初はその影響だろうと思ったんです。書店に集英社の小説が目立って並んでいることが多いので伸びやすいのです」(島田さん)

しかし、よくよくデータを見てみると、四連休の中でも初日の7月23日の海の日だけが急激に売れていることが判明。

この現象を、単なるキャンペーン効果と説明するのも不自然です。

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▲(株)集英社 書籍販売部 書籍販売第1課 喜田さん

「それで色々とエゴサーチをして調べたところ、TikTokの投稿で話題となっていたことがわかったんです」(喜田さん)

「TikTokの投稿を見ると、音楽に合わせて『桜のような僕の恋人』の書影と短い感想の動画でしたが、これが何万ものいいねがついてており、コメントも数千件ついていたんです。これには驚きました」(喜田さん)

その投稿が話題となって依頼、集英社には書店からの注文が殺到したといいます。

「書店員の方から『TikTok見て買いに来ましたが、本はどこにありますか?』というお客様が多いという声を伺いました。その後も3ヶ月以上反響は続き、現在では書籍の取次会社からTikTokで話題になった書籍フェアを開催する運びになっています」(島田さん)

同社ではTikTokでの反響を受け、夏以降はTikTokのロゴを使った書籍の帯と拡材を作成。さらに売上が伸びたそうです。

何より驚きなのは、売上が大きく上がったのは7月ということでしたが、3ヶ月以上経ったいまでも注文は止まらず、増刷に次ぐ増刷となっているということです。

集英社が気づいたTikTokとほかのプラットフォームとの違い

では島田さん、なぜここまで大きな反響になったのでしょうか。

「正直、我々もそれを聞きたいです(笑)。 本当にTikTokは我々が仕掛けずにバズっているんです。それでもあえて分析するならば、音楽との組み合わせがよかったからではないでしょうか。たしかに、従来から“泣ける”という口コミは昔から10代にヒットする要因の一つでした。ただ、その伝わり方がこれまで学校の教室などでの口コミからTikTokに変わったのでしょう」(喜田さん)

喜田さんは、TikTokは現代の口コミのような役割を果たしているのではないかと分析します。

「“泣けた”という事実を、単にLINEで伝えたり教室で伝えるよりも、書影と一緒に“泣ける音楽”を重ねて投稿したほうが、その作品のエモさを感じてもらいやすく、かつ拡散しやすかったのだと思います。もちろん、リアルな口コミは今でも有効ですが」(喜田さん)

さらに、島田さんはTikTokを見ていて、他のSNSとの大きな違いに気づいたそうです。

「他のSNSの場合、フォロワーが何万人もいる、いわゆるインフルエンサーが投稿することで作品が売れるケースが多いです。しかし、TikTokの場合、フォロワーが数千人にも満たない人でも、投稿一つで“おすすめ”に乗れば一気にその動画が拡散するんです。それは書籍に関する投稿も例外ではありません」(島田さん)

インフルエンサーではない人に、ある日急にスポットライトが浴びせられるのがTikTokなのです。

「つまり、TikTokはインフルエンサーですらない人の投稿でも平等にバズる可能性を持つんです。それが結果的に商業的な匂いを一切感じさせない理由になっているのだと思います。若者は商業的な匂いにはとても敏感です。そのため、TikTokというプラットフォームが商業的ではない中立的な“素の感想”が投稿されている場として認知されているのも支持されている理由なのだと思います」(喜田さん)

さらに、この現象では思わぬ副産物もありました。

「書店に普段訪れない人が書店に足を運んでくれたんです。レジでスマホの画面を見せて『この本、売ってますか?』と聞く人が多かったそうです。普段書店で本を買う人なら、文庫コーナーに行けば置いてあるだろうと想像つくでしょうが、TikTokきっかけで興味を持った方のほとんどが文庫を買うのが初めて。文庫コーナーに足を運んで頂ける人が増えたという意味で、これは業界にとってすごく大きな意味を持ちました」(島田さん)

そのため、今後はTikTokで話題となっていたことをより大きく伝える施策を考えているそうです。

「表紙を変えるわけにはいかないため、これまでも帯を表紙サイズまで大きくした“帯カバー”にして、そこにオリジナルのイラストを入れたり、季節ごとに異なるカバーを展開していましたが、そこへさらにTikTokのロゴを入れるなどして、より書店で手にとっていただきやすい施策を考えています」(島田さん)

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現在、発行部数が43万部を突破したという同書。

ちなみに、若者向けの書籍ということもあり電子書籍の売上も伸びているのでしょうか?

「それは違うんです。一般的に、電子書籍の売上割合は紙の3〜5%といわれています。現在、紙の本の売上が42.7万部なのに対し、電子書籍は3000DLです。デジタルシフトと言われていますが、10代向けの書籍マーケティングはまだまだ大型書店でのプロモーションが重要なのです」(島田さん)

「事実、書店での購買分析すると40代と10代が多いんです。40代はあきらかに親世代ですよね。今後、年末年始に向けて親御さんが書店を訪れて買っていく可能性が高い。さらに売上が伸びるのではないかと予想しています」(喜田さん)

集英社本棚

(ジュンク堂書店 池袋本店での展開)

TikTokを本のプロモーションにどう活かす?

では、今後TikTokを集英社として本格的に始めていく予定はありますか?

「11月より人気バンドNovelbright『夢花火』をBGMに使用した期間限定の動画を公開中です。ただ、先ほどお話ししたように、TikTokは商業的なコンテンツを嫌うので、媒体としてこれからどうやって活用していくかを今回の施策の反響も見つつ話し合っていきます」(島田さん)

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人気バンド「Novelbright」の楽曲を使用したCM動画公開中!

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書籍がバズったのが自然な現象なだけに、版元としてもその自然な流れを阻まないようにプロモーションを打つ必要があるようです。

では、もし自社の書籍が集英社さんのようにTikTokでバズったら版元はどのように対応すればよいでしょうか。

「TikTokの特性を理解しておくとよいですね。テレビ番組に取り上げられたり、他のSNSで話題となるケースとの一番の違いを把握しておくのがよいかもしれません。TikTokの場合、継続的に、時間をかけてじわじわと反響が大きくなっていくんですよ」(喜田さん)

どういうことでしょうか。

「他のSNSだと『今週だけバズった』ということが多いです。一方、TikTokの場合はどんどん話題になっていくと思ってください。今回も3ヶ月以上もずっと発注が止まっていません。TikTokで話題になるというのは、売れ続けるということ。我々がいくら宣伝費をかけてもここまで売れ続けることはなかなか起きません。できればずっと続いてほしいです(笑)」(島田さん)

TikTokで話題になった場合、長期的なプロモーションを考えたほうがよい。

出版社にとっては、参考になるアドバイスではないでしょうか。

今後は、店頭に設置するPOPなどにもTikTokのロゴを目立たせるなどして書店をあまり訪れない人にも認知されやすい施策を考えていくのだとか。

“バズる”と聞くと、たった数日の一時的なお祭りのような現象というイメージがありますが、TikTokの場合、じわじわと広がっていく口コミに近い。

そんな経験者の言葉が今後は書籍はもちろん、書籍以外のプロモーションにも参考になりそうです。

トリミング済

(有隣堂 横浜駅西口店での展開)

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