見出し画像

カラオケはむずかしい

先週末の土曜日のおひる。なんだかふと「カラオケに行こう」と思い立った。
いや「なんだかふと」と言ったけど、本当は「違うキャラクターを演じてみる」ということがやってみたくて、手っ取り早い方法は何かと考えた時にカラオケだと思ったの本音だ。

3年間に1度、二次会で嫌々行くようなカラオケ素人の僕は、とりあえず安いからという理由で近くの「まねきねこ」というお店を選んだ。確かに安くて1時間あたり数百円とかだった。

お店に入ると、やる気のなさそうな2人の店員さんが待っていた。
自分がカラオケ素人であることを気付かれないように、開口一番「1時間半で」と伝え、ちょっと分かってる風を吹かせてみた。

そうしたら、ちょっとやる気のない店員Aさんが、あまり店にお客が少なかったからか
「JOYSOUNDとLIVEDAMどっちがいいですか?」
と質問が飛んできた。

カラオケ素人のぼくは面食らった。
ホントはどっちでもいいし、違いも全く分からないけど、玄人感を出したい自分は「あ、じゃあJOYSOUND で」と即答しておいた。

そのまま終わるかと思いきや「会員登録してますか」と次の矢が飛んできた。

「おわった...」

JOYSOUNDとLIVEDAMの2択ならどっちかを答えればイイ。
だけど会員登録に関しては、会員登録は義務なのか任意なのか、任意だとしても何円ぐらい変わるのか、登録の手間はどれくらいなのか...etc
検討事項が色々ありすぎる。
僕の脳みそはそこでパニックを起こしてしまい、僕のカラオケ玄人感は5分も待たずして、消え去った。

手取り足取り教えてもらいながら会員登録が終わった後、13番の部屋を案内された。
案内される途中の通路で、30代ぐらいの男性が黙々と作業をしてるのが見えた。またその隣では女子高校生らしき人が韓国の曲を歌っていた。
隙間から見える姿に、何か見てはいけないものを見ているような、妙な気持ちになった。

13番の部屋に入る。
先ほども言った通り、僕は歌いたくて来てるわけじゃない。
違う自分を演じたくてカラオケに来ている。
だから、僕は事前になりたいキャラクターに合った歌詞の曲を入念にリサーチして、今の自分に対するもどかしさや抑圧してくる社会に対する怒りが歌詞に書かれた曲をちゃんと調べ「この曲を感情を込めて何度も何度も歌えば、自分のなりたいキャラクターになれる」という曲を選んだ。

馬鹿でかいリモコンでお目当ての曲を予約し、何度も歌う予定だったから連続で5曲分ぐらい予約した。
何年ぶりマイクだろうと思いながら、いざ歌い出した。

1フレーズ、いや1言目、いや1音目を歌い出した瞬間...

恥ずかしい。恥ずかしくて仕方ない。
なんだろう誰にも見られてるわけではないのに、ものすごく恥ずかしい。

全然小さい声量。
音程に合ってない声。
歌詞が出てこない自分。
棒読みになる歌詞。

全てをとって恥ずかしかった。
隙間から覗かれるんじゃないか(いや覗かれないけど)
めちゃめちゃ恥ずかしかった。

一回目は10秒も待たずして中断してしまった。
誰が見てるわけでもないけれど、自分が見てる。
自分の理想の歌っている姿と現実の自分の差分が大きすぎて、目も耳も当てられない。
「これが自意識過剰というやつか」と、その言葉の如く"骨身に染みた"。

だけど、ここで帰ることもできない。
ここで帰ってしまったら二度とまねかれないだろう。

だから何度も何度も自意識と戦いながら、同じ曲を歌った。
「感情を込める」と言っていた自分が恥ずかしい。
感情なんか込められるはずもなく、歌詞通りに歌うのに精一杯。声を出すのに精一杯だった。

カラオケはむずかしい

いただいたサポートは、書籍代に消え、そして雨となって次のnoteになっていきます。