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雨女は快適な旅とラーメンを楽しみたい

自他ともに認める雨女である。

雨女なんて科学的根拠ないじゃん、と思われるかもしれない。
そう、科学的根拠などないのだ。
なのに、わたしが引率した修学旅行で雨が降らなかったことはない。
わたしが主担当となった遠足で雨が降らなかったことはない。
わたしが高学年を担任していると、運動会で高学年の出番のときだけ何故か雨が降る。
義妹の結婚式のために宮島へ向かう途中、広島駅に着いた途端土砂降り。
出雲・松江旅行のため、松江駅に降り立った瞬間土砂降り。
そんな経験を積んできていたため、「わたし雨女なんですよね」と林間学校での山歩きの最中、チェックポイントにいた同僚相手に何の気なしに喋ったことがある。次の瞬間、それまで晴れていた空が急に陰り雨が降り出した。

職場内でもいろいろやらかしているため、現在の勤務先で「めぐみ本人による雨女発言禁止令」が出されて久しい。
外での行事の度に「言うなよ!  絶対言うなよ!」と言われるので、かえって「わたし雨女なんですよね」と言いたくなる衝動と戦う日々を過ごしている。


今回の旅もやはり雨と共にあった。
まず旅の1週間前、iPhoneのお天気アプリでは全日程雨予報だった。
Yahoo!天気やウェザーニュースでは曇り、降水確率は50~60%という予報だったので、そちらを信じることにした。
出発当日、iPhoneのお天気アプリも曇り、降水確率50%となり、今回は雨に当たらないで済むかも、とちょっとほっとした。
新千歳空港は少しだけ霧雨がパラついていた。
この時点で既に雨女パワー(弱)が発動していることには気付かないふりをした。

羽田行きの便、機内アナウンスでは「羽田、天気は晴れ、気温34℃」と知らされていた。
やった、晴れたんだ。
気温自体は蝦夷地も30度を超えることがあるので、さほど心配していない。
問題は湿度だった。
雨の日の蝦夷地は気温もぐっと低くなる。
30度超えの雨天に耐えられる自信がない。
どうせなら晴れてくれと願っていた。
羽田空港に降り立った時、空は一面の真っ白な雲に覆われていた。
晴れのアナウンスは幻聴だったのかもしれない。

到着ロビーに出て、夫に無事着陸したことを連絡する。
一緒に過ごす年月が長くなるにつれ、彼もわたしが雨女であることを嫌というほど思い知らされている。
当然のようにわたしのことより天気のことを心配していた。

「天気どう?  暑い?  降ってる?」
「まだ外出てないけど、タラップはサウナみたいだったよ。降ってはいないけど、わたし雨女だからこれからどうなるかはわかんない」

今思えば、これがすべての始まりだった。
プライベート旅行だと言うこともあり、忘れていたのだ。
自分には「めぐみ本人による雨女発言禁止令」が出されていることを。


どうしても行きたいところがあった。
意識低い系スタバ大好き女であるわたしが行きたいところといえば、そう、STARBUCKS RESERVE ROASTERY  TOKYO。
世界に5軒しかないRESERVEの店舗。
そこでしか楽しめないドリンク、フードがあるなら行くしかない。
そんな思いで、東京メトロ中目黒駅に降り立った。
風がない。曇天でもこんなに暑い。重苦しい暑さから逃れる術がない。
お腹も空いている。時計を見ると、12時を過ぎたところだった。
空腹状態でSTARBUCKS RESERVE ROASTERYまでの十数分を歩くのは、自殺行為のように思われた。熱中症で倒れるかもしれない。
駅向かいの高架下に蔦屋書店とスタバが見えたので、ひとまずそこで何か食べてから向かうことにした。

今考えると実にばかばかしい行動である。
これからレアなスタバに行こうとしているのに、その前にノーマルなスタバに入って蝦夷地のスタバにもある白桃&アールグレイケーキを食べた。
暑さに頭がイカれていたとしか思えない。
夏の東京は蝦夷地の民には非常に過酷な環境である、ということの証明でもある。

しかしその甲斐あって熱中症にならず、無事にたどり着けたSTARBUCKS RESERVE ROASTERY。
ここでしか飲めないノンアルコールカクテルを片手に、アウトプットとインプットに勤しんだ。
ここでしか食べられないケーキやペストリーは指を咥えて見送った。すでにケーキを一つ食べているのだ。アラフォーの胃袋はそんなに寛容ではない。
2時間半ほど心地よい時間を過ごし、そろそろ出ようかと窓の外を見ると結構強めの雨が降っていた。
歩いて駅まで戻るには厳しい。結局タクシーに乗る羽目になった。


翌日は青空も見え、より厳しい夏の東京の洗礼を浴びることとなった。
とはいえ、雨に降られるよりマシ。今日の目的は文具と本を買うことなのだから。
銀座の伊東屋、月光荘、日本橋のティーサロン、そして神保町と汗だくになりながらも順調に予定をこなしていく。
あとは羽田空港から飛行機に乗るだけ、だと思われた。
実際、羽田空港までは何の問題もなかった。18時のフライトにも十分に余裕をもって到着し、空港で買い食いなんかを楽しんでいた。
良い時間になり、保安検査場に入る。
使用機材の到着遅れによって搭乗口が変更になり、かなり遠くの方へ飛ばされたけれど、気にしない。よくあることだ。
早めに入ったので、ゆったりと余裕をもってベンチに座り、スタバ(またか)でコーヒーを買って読書に没頭することができた。

「羽田空港上空に雷雲が発生しているため、出発時刻が遅れます」

ふと、そんなアナウンスがわたしの耳に入ってきた。
読んでいた本から顔を上げて窓の外を見ると、真っ黒な雲が立ち込め、時おり閃光を放った。地面も空と同様、真っ黒に濡れている。
結局約1時間遅れのフライトとなった。


道外へお出かけをしたあとには、いつも新千歳空港で夕食(大抵は一幻のラーメン)を済ませて帰路につくことにしている。
蝦夷地のご飯はやっぱり美味しいなぁと思うあの瞬間が好きで、あちこち旅に出ているのかもしれない。
だから、帰りの飛行機は19時台には新千歳空港に着くものに乗るようにしている。
今回もそのつもりだった。
だけど、今回新千歳空港に帰り着いたときには、空港のご飯やさんはどこも開いていなかった。
仕方なく家の近くのセイコーマートでフライドチキンを買って食べた。
蝦夷地のご飯はコンビニでもやっぱり美味しい。
でも、ラーメン……食べたかったなぁ。

今月は神戸へ行く。
神戸の天気はいかばかりか。
快適な旅と一幻のラーメンのため、「わたし雨女なんですよね」はしっかり封印しておこうと思う。




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