まある

夏場の三途の川は普段より塩分濃度が高く、いろんなものが浮いているらしい。後悔の色なく陽気に流れている体が一つ。背で飛んでいる。川の向こうから仲間の声。たちまちの休息から覚めるだろうか。夏は私たちを逃さないようにあらゆる所に潜んでこちらを伺っている。時には誰の許可も得ず、内まで侵入する。夏に寄生されてしまったら最後、あらゆる衝動が吸い取られ乾涸びてしまう。暑さ。道端で乾涸びたミミズが完全な円を描いていた。円はやがてアスファルトに収束していく。では夏が貪っていった私の衝動はどこへ失われていくのだろう。この灼熱のアスファルトの上で虫達の死骸と並んでいるのか。蒸発していった衝動が世を循環し、大きな円を描いているところを想像する。雨の日には、略奪された私の一部が降る。冷たくない雨が纏わりつき、汗を拭うように伝い、流れていく。私の元へは還らず素知らぬ顔をして通り過ぎてゆく。夏場の三途の川は、夏が奪っていったものが流れている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?