『トイボックスが待ちきれない』

『トイボックスが待ちきれない』　No.041

“ここ”では男が望むもの、全てが手に入る
若者たちが踊り狂うダンスホール
リズムに合わせて頭を振り、歓喜の叫びをあげる
美女の口移しで極上のワインを流し込む
カシミヤのスーツで身を包み、髪を後ろに撫でつける
リムジンに乗り込み、葉巻とブランデー
高層ビルの上からスカイダイビング
紺碧の海でスキューバダイビング
クルーザーに揺られながらサンオイルを塗る
釣った魚はその場でさばく
カジノでは大金を失うが、笑いが止まらない
名馬にまたがり、荒野を走り抜ける
広大な自然に抱かれ、生命の尊さを感じた
子供たちの笑顔と無邪気な笑い声
心地よく流れるジャズが気分を盛り上げる
巨大な温泉が身も心も洗い流す
草原から香る甘い花の蜜にうずくまる
時を忘れ、ただただ湧き出る欲望に従う…

頭の奥でブザーがなり、グラフィックの赤いスイッチが浮かび上がる
悲嘆に暮れながら渋々オフに切り替えた
全身がプリズム化し、光と共に消え去る…

カプセルが開き、澱んだ空気が肺を満たす
また空虚なディストピアが待ち受ける
いつもの様に施設を出て、淡々と宿舎へと歩く
全ての人は国が決めた白い衣服を与えられる
毎日小部屋に押し込まれ、そこで監視されながら生きるだけ
人々唯一の生き甲斐は、理想の自分になれる“トイボックス”
ハァ、一週間後が待ち遠しい…