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『朝焼けに踊る』

『朝焼けに踊る』 No.059 

俺が帰宅したのは明け方近くだった
二年前に妻を病気で亡くし、刑事としての情熱が更に増した
6歳になる娘は俺の母親がいつも面倒を見てくれている
家の向かいにある駐車場に車を止め、ポケットからスマホを取りだす
妻と娘が浜辺ではしゃぎながら遊ぶ動画を再生する
懐かしさに浸りながら、夕方に飲みかけたコーヒーを流し込む
車から降りようとした瞬間、家の方から出てくる人影が見えた
急いで追いかけようとしたが、スマホを落としてしまった
素早く拾い上げ、向き直るとそこに人影はもうない
イヤな予感がし、家の方へ駆けた
リビング辺りからぼんやりと朝焼けのように輝く光
ゆっくりと燃え広がりながら、炎が踊りだす
俺は一階で眠る母親を急いで起こし、外へ出ろと叫ぶ
そして二階へ駆けのぼり、娘の部屋に入った
夢から覚め切らない娘を抱きかかえ、外に飛び出す
娘はわんわんとむせび泣く
俺は火が怖くて泣いていると思ったが、そうではなかった
妻が病床で作った手編みのぬいぐるみ
いつも一緒に寝ていた想い出の人形
それを置いてきてしまったことへの悲しみ
母は孫を諭すが、なんとも言えない表情で息子を見る
俺は二階の部屋を見上げた
まだ辛うじて間に合うか…
スマホを取り出し、少しひび割れた画面に映し出す
さっき見ていた動画を再生し、娘に手渡した
少しだけ、笑顔が戻る
君がこの子に残してくれたもの
俺は見捨てることなんて出来ない
庭の蛇口を捻り、頭から全身へ水をかける
君が紡いだ思い出の人形を救うため、再び炎の中へと突き進んだ…



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