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世界はこんなにきらきらしていたか(入院25、26日目)

入院25日目(生後8日)

 助産師さんから「退院してからどうするか考える意味でも搾乳器を試してみたらいいですよ」と言われたので、初めて搾乳器を使ってみた。でももともと乳が小さいせいか(?)、あまり密着する感じがなく、スコスコしてあまり搾乳できない。面倒だけど、手で搾った方がきちんと搾れる気がする。

 入院費の見積もりが来た。希望していた個室は入れずじまいなので、結果的に安くあがった。内診でも「子宮の状態は退院して大丈夫」とのことだったので、予定通り退院まで行くのだろう。退院したらその足で哺乳瓶を買わなくては。まずそこから始めないといけないくらい、何も準備ができていない。

 夕方、面会時間のおむつ替えで大惨事。足をバタバタさせておむつ替えが難航しているところに、前からも後ろからもぴゃーっと噴射。保育器の中が大変なことになったけど、奇跡的に壁には付かず、全部タオルが受け止めたのでタオルを取り換えるだけでよかった。しかし…。

入院26日目(生後9日)

 退院日の朝。計測をしたら、体重がほぼ元通りの51kgに戻ってしまった。あっという間だ。でも筋肉が容赦なく落ちきっているので、皮がだるだる状態。

 退院前に、最後の搾乳。最初、ぽちっとしたしずくしか出てなかったことを思うと、今は15mlくらい出ていて感慨深い。しかしやはりどことなく乳にしこりが残ってしまう。たまたまおられた助産師さんに乳房マッサージしてもらっていると、「今日退院でしたよね。診ておきましょうか~」と別の助産師さんがこられた。その方がびっくりするほどのおっぱいカリスマ(勝手に称号)。「乳首をつまんでしこりがあったら、そこにつながる乳腺も詰まってるので、まずは乳首をよくほぐしてね」「乳首の延長線上に乳房の中心をイメージして、そこに向かってぐっと押し込むような感覚で揉んでみて」などなど。実演しているうちに、「ウソ…私の胸、こんなに柔らかかった…??」と思うほど、羽二重餅のようなふんわりほよほよの感触になる。それまで揉んでくれていた若い助産師さんもそのまま横について、しげしげと見入っている。カリスマベテラン助産師さん、なぜこれまで巡り会えなかったの、いや最後に滑り込みで出会えてよかったと言うべきか。感嘆した。

 荷物をまとめて、先生たちや看護師さんたちに挨拶。でも、赤子が退院するときにまた連れてきて挨拶するつもりだ。「いろいろご心配おかけしました」と言うと、師長さんが目を細めていた。なんだか気恥ずかしい。

 夫が迎えに来てくれて、助手席に乗って自宅へと向かう。バイパスを避けてショートカットした裏道、田んぼの中を突っ切っていく。田植えをして満々と水をたたえた水田に、薄日の差した空が映る。外の世界はこんなにきらきらしていたんだろうか。ばかみたいに夢中になって、助手席から写真を撮った。ずっと白い壁やクリーム色のカーテンばかりを見つめて、私の目に映るものの見え方がすっかり変わってしまったみたいだ。これも全て、ホルモンのしわざなのかもしれないけれど。

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