ヘーゼルナッツのクロワッサンもいい。

クロワッサンは好きだろうか？クロワッサンと聞いて あなたはどんな味を思い浮かべるだろうか？サクサクで バターの風味がたっぷりな三日月型のパン。バターの溶け具合と生地のバランスが繊細で 作るのには意外に手のかかるやつである。

そんなクロワッサンが有名なパン屋へ行った。入店するために並ぶような小さなお店で 開店後すぐに行ったにもかかわらず お店の前には30分ほどの行列ができていた。そのお店の売りであるクロワッサンは、12時と15時 それから18時と 焼き上がりのおよその時間が決められているらしく、わたしが行った時間帯にその姿を見ることはできなかった。クロワッサンがダメならデニッシュでもいい。和栗やいちごののったデニッシュは クロワッサンの有名店ならばきっと それに匹敵するくらい美味しいはずだ。とそう考えながら店内を眺めていると、あるひとつのトレーを見つけた。

そこには ヘーゼルナッツのクロワッサンがあった。上にヘーゼルナッツの実がふりかかった少し小ぶりのそのクロワッサンは 誰の目にもとまることなく他の商品と同じように並べられていた。迷わずわたしはそれを購入した。正統派のクロワッサンではないけれど 間違いなくそれはクロワッサンだった。サクサクで バターの香りが芳潤な それはそれは美味しいクロワッサンだった。口に運ぶたびに感じるヘーゼルナッツの食感と香りが クロワッサンの良さをさらに引き立たせていた。

お店の看板メニューのクロワッサンを目当てにはるばる来たお客は クロワッサンが焼き上がるのを待つのだろう。開店直後には30分だった行列も 焼き上がりの時間には1時間2時間かそれ以上、もしかしたら並びきれないお客も出てくるのだろうか。そんなひとたちはきっと ヘーゼルナッツのクロワッサンの存在には気づかないのかもしれない。いや 目の前にあるのに気づけない。

旅行先の有名なお店、インスタ映えで大人気のお店。その地域限定のおいしい料理。世の中には数えきれないほどの料理や商品 お店があるけれど、ひとはみな こぞって「有名」「人気」「行列」という特別な言葉におどらされる。そりゃわたしだって できればおいしいものを食べたいし、なるべく良いものを買いたい。手っ取り早く効率的にそれらを得るには、「有名」どころに頼るのがいちばんだ。
けれど それだけじゃつまらない。たまにはそんな言葉を捨てて 自分の目と舌で見つけてみるのもいいんじゃない？「有名」「人気」「行列」店だけが良いわけじゃない。そんな特別な言葉だけに躍起になる必要なんてどこにもない。ふと立ち止まって あたりを見回せば おいしそうなにおいのするお店がきっと見つかる。遠くのものにばかり気を取られて 実は目の前にあった 素敵なチャンスを逃すなんてもったいないから。
だれも気づかない 「自分だけのヘーゼルナッツのクロワッサン」に出会えるかもしれないから。