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ドイツ・博士研究員(いわゆるポスドク)のすゝめ

昔からそうであるが、ポスドクという言葉を聞くとあまり良い印象をお持ちになる方は少ないであろう。最近も、(読んではいないが)、下記のような

記事を目にし、ポスドク問題が未だに根強く残っているのだと感じている。


しかしながら、個人的にドイツでのポスドク経験*は自身(工学者)のキャリア形成において効果的に働いたと思う。そこで良かった点を簡単に纏めてみた。自分もそうであったが、ドイツでの研究滞在に現状全く魅力を感じていない人にとって、それがキャリアの選択肢の一つになれば幸いである。

*厳密には、博士学生とポスドクという明確な区分けはドイツにはない。なので、ここでいう独ポスドクとは、博士取得後ドイツにある研究機関に雇用された研究者を想定している。

1.  英語にそこまで自信がなくても海外での研究活動を経験できた。

まずこれ、語学の問題。日本で英語論文をまとめたり、国際会議で英語発表をいくら経験しても英語に自信があると思えなかった。そもそも研究室所属の留学生には自分の思ってることの10分の1程度の情報量しか伝えられないのに対し、帰国子女学生はその留学生とペラペラ喋っている。欧米で職につくことなど僕にとってはハードルが高く感じていた。

そんな中ドイツで研究滞在をスタートしてみると、意外となんとかなることがわかった。まず、ドイツの公用語は勿論ドイツ語なので、英語で議論する際は、やはりドイツ人といえ、議論のスピードが母国語より遅くなる。更に日本人にとってドイツ人の英語の発音は、他の欧米諸国と比べて聞きやすい気がする。そして、こっちが英語を喋れなかったとしても、ドイツ人も英語を100%正確に話せるわけではないので、伝わらない原因がどっちのせいなのか曖昧にすることもできる。そもそも研究遂行能力はある程度のドイツ人同僚より間違いなく上である。というのも、所詮同僚は博士取得を目指す博士学生であり、研究の仕方というものを今学んでいるという状態なのである。また、博士論文のテーマに近い内容の話なら、間違いなくこちらのほうが知識があるので、多少英語が話せなかろうが関係ない。議論はできた。

そして、数年経った現在の心境は、「英語は今でも自信がないが、まあなんとかなるだろう」くらいになっている。

2. 落ち着いて研究ができた。

つぎにこれ、研究スタイルについてである。基本的には、18時には大体の同僚は家に帰るし、土日に働くことなんてない。有給も年30日あってしっかり取る。研究所の雑務などのイベントもあるが、ドイツ語が話せないので特に重要な係を担当することはない。すなわち、結構ゆとりのある計画が立てられる。日本時代に曖昧だった知識も、時間のある状態で見直すことができるので理解できる。結果的に自身の研究内容も今後の展開を踏まえてより俯瞰してみることができるようになる。

また精神的に惨めにならずに済むこともでかい。給料はある程度もらえるし、周りの同僚はだいたい20代後半から30代前半で同年代である。人生を焦っている様子は彼らにはない。そして有給を使ってヨーロッパ旅行にいったりできる。結果的に日本の友達のつよつよSNS投稿が目に入っても、物応じしなくて済む。

3. 産業界との接点が増えた。

勿論日本の研究室でも企業との共同研究はあるため、ドイツだから産業界との接点が増えるというわけではない。が、肌感的にドイツの研究所と共同研究を行う際、その費用は一桁多いと思う。すなわち、大きな予算を費やせるくらいの研究開発に理解のある企業との接点をもつことができる。

また、共同研究の実働部隊や担当者は、教授やチーフエンジニアといった管理職ではなく、僕たち雇われ研究者である。よって、企業と直接やり取りできる点もキャリア形成においては大きいと感じる。そのまま、共同研究先の企業を次のキャリアとして選択する同僚も一定層いる。

そして、日本企業がドイツの大学や研究所と共同研究を行っている場合も多い。共研理由として、ドイツの研究内容が進んでいるからというよりかは、ヨーロッパの市場動向の把握や社員教育の一環という面のほうが強いと感じるが、いずれにせよ、僕たち日本人研究者にとって日本企業の存在は大変貴重である。


以上メリットとして大きく3点記載したが、デメリットもある。

1. 語学留学ではないので、英語がペラペラになるわけではない。ドイツ語も混ざってぐちゃぐちゃになる。そして日本語も下手になる。
2. 研究力が上がるわけではない。ゆとりはあるが、その分時間もかかる。実験するのも結構先になる。
3. ドイツ博士研究員の9割以上が産業界にいくため、学術界でポストを見つけたい場合は、別の努力をする必要がある。また産業界への門戸が開かれているように感じるが、企業にとって博士研究員の採用コスト(人件費)はかなり高くなるため、その点うまくやる必要はある。


などなど、良い面悪い面あるのは当たり前のことなので、それを踏まえてドイツでの研究滞在が皆様の選択肢のひとつになれば幸いです。また上記は個人的な経験をもとにしたものなので、一般性に欠けるかもしれないが、工学者としてTU9*のどこかの研究所であればまあだいたい当てはまると思う。

*TU9: Alliance of leading Universities of Technology in Germany (https://www.tu9.de/en/)

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