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【1年越し】なぜ今バズったんだろう【ズワイガニ100億匹死滅/まとめ・日記】

先週の日記を読み返し、「guess who(?). 」さんのアカウントおよび動画が削除されていることに気が付いた。通報されたのかもしれない。インターネットを流れる情報は川の水のように尽きることなく、常に新たな流れを作り出すが、過ぎ去るものは二度と同じ姿では戻らない。ソーシャルメディアに投稿される意見や動画は、川の淀みに浮かぶ泡のように、一瞬の存在感を放ったあと、すぐに忘れ去られ、新しい波に飲み込まれていく。共有される知識や感情もまた、永遠ではなく、瞬時に移り変わっていく。私はある瞬間を切り取ったのだった。そのことを思い、今週はこれを書くことにした。


2024年10月15日(火)のトレンド
カニ100億匹」「死滅・ベーリング海


2024年10月15日、とあるニュースがXでバズっていた。元になったのは、時事通信外信部のニュース、”世界有数の漁場に異変 「亜寒帯化」で生態系影響―カニ100億匹が死滅・ベーリング海”だった。

この日記の題名に「なぜ今バズったんだろう」とつけたが、シンプルに答えるならそれは、大手プラットフォームがインパクトのあるタイトルをつけて取り上げたからだ。

時事ドットコムが2024年10月15日07時05分、Yahoo!ニュースが07時06分、ライブドアニュースがそれ以降(※現在、表示されている「12時37分」とは編集された時刻か)に配信した。

ライブドアニュースは午前10時50分にXでポストし、午後1時30分には1000RPされていた。現在のインプレッションは「133.1万件の表示」となっている。

Yahoo!ニュースやライブドアニュースは、多くの人が日常的にチェックしているため、内容が興味を引くものであれば瞬時に注目され、広範に拡散されることがある。Yahoo!ニュースであれば、アクセスランキングという仕組みもあるので、閲覧されるほどに、なおさら多くの人に表示され、バズりやすくなるだろう。WebサイトにはSNS(X、Facebook)へのシェア機能もついていて、拡散しやすい。

「世界有数の漁場に異変」「カニ100億匹が死滅」というタイトルがいい。
非常にインパクトがあり、気になってしまう。気候変動や環境問題への関心は高まっていて、どうしてそんなことが起きたのか知りたいし、日常的にカニは大量死しないのでおもしろいと思う。(100億匹のカニ! 1億人で食べても1人100匹食べられる。食卓を埋め尽くすカニ。台所を隅々まで侵略したカニの殻。ごみ袋を突き破るカニの足。誰かが見た甲殻類の妖怪。ごみ収集車が回収した後に残ったのは噂話。)


記事本文を読む:
「100億匹のズワイガニが死滅した」のは「2021年」?


ここでは記事の内容に詳しく触れないので、興味があれば本文を読んでいただきたいが、「100億匹のズワイガニが死滅した」のは「2021年」らしい。

2022年・2023年の情報も含まれてはいるが、もっと早く報じてもいいのに、2024年なのになぜ、と疑問に思っていたところ、ニコニコニュースが午前11時45分にポストしていた。このような引っ掛かりを覚え、クリック・タップしてくれる人のためだろうか。こちらは現在「3万件の表示」だ。トレンドについて調べた100人につき2人は表示しただろうか。

2023年10月24日(火) 12時00分に配信されたニュースで、ナゾロジーが元のニュースだった。

記事によれば、カニが消えた原因についての研究の詳細は、2023年10月19日付で科学雑誌『Science』に掲載されているとのことだ。

ニュース配信当日のナゾロジーのポストは上の通り。現在は275RPで「19万件の表示」だ。ライブドアニュースのものと比較すると少ない。当時最新の情報だったはずだが、新鮮で衝撃的なニュースではなかったのだろうか?


ナゾロジー・ニコニコニュースに「足りない」もの


ニコニコニュースの運営の側では、今回のバズりに際して、記事を配信していたことを思い出した人や思い出させた人たちがいたのだろうかと想像すると、それが私に伝わったことを思って、なんだか不思議な気持ちになる。

そのことはともかくとして、ナゾロジーのニュースが注目されなかった理由はいくつか考えられる。大手に比べ、足りていなかったものがある。

まずはやはりタイトルのインパクトだ。バズりを狙うなら「死滅」したとするべきだっただろう。「消失」という言葉では、内容が本来衝撃的であっても、読者に与える印象が弱くなってしまい、フレーズのインパクトが欠けてしまっている。また、原因が解明されたとしているにもかかわらず、タイトルが具体的な原因を伝えていない点が注目度を下げた可能性がある。曖昧に解明を示唆するだけでは、読者は具体的な情報が得られないのではと感じ、関心を強く引けなかったかもしれない。その点、大手はしっかりしている。「亜寒帯化」という言葉を使っている。それが何かというのは記事中で説明していないように思えるが、わかりやすい。


……2つの記事は同じズワイガニの大量死という出来事を扱っているが、焦点や原因の説明に違いが見受けられる。2024年の記事は、温暖化によるベーリング海の「亜寒帯化」に焦点を当てており、海水温の上昇によってズワイガニが餌不足で餓死したことや、北上した捕食者(マダラなど)による捕食が死滅の大きな要因として強調されている。

一方、2023年の記事では、記録上最大級の「海洋熱波」に加えて「ズワイガニの異常繁殖」が原因として挙げられている。水温上昇によってズワイガニの代謝が上がり、餌の消費量が増加すると同時に、ズワイガニの個体数が異常に増え、過密状態となったことで、餌不足や共食い、さらには病気が発生し、個体数が激減したと説明している。ズワイガニの消失をより多角的に捉え、異常繁殖による影響を強調している点が特徴だ。

同じ現象を報じているものの、2024年の記事は主に温暖化による生態系の変化に焦点を当て、2023年の記事は水温上昇と過密状態が引き起こす複合的な要因を取り上げている。


ナゾロジーのニュースに何より足りていなかったものは、真剣に大衆の話題になろうとする意気込みだ。ナゾロジーは、科学の魅力を伝えることに特化し、読者の好奇心を刺激するために、エンターテインメント性を重視しているメディアだ(ナゾロジーについて)。このアプローチにより、科学に対する興味を引き起こすことができる一方で、広範な読者層に不可欠な「公共性のあるニュース」を提供する姿勢が不足しているといえる。これはニコニコニュースにも共通する特徴だ(「ネット・科学」のニュース )。

大手メディアは公共性を重視し、重要な社会的課題や現象に焦点を当てている。カニが大量死した原因を探るだけでなく、政治的・経済的動向にまで視野を広げ、信頼性の高い情報を提供することで、読者の関心を引く努力をしている。

メディアには多様な姿勢があり、それぞれ異なる読者のニーズに応えるが、情報を受信し、かつ発信する読者は、必ずしも各メディアの特徴や役割を理解し、自分の関心に応じて選ぶとは限らない。2023年のナゾロジーのニュースが、2024年の大手のものほど注目されなかった背景には、メディアとしての伝え方が、大衆にとって受け取りやすい形に最適化されていなかったことがあると考えられる。もっと社会的にわかりやすく、キャッチーなメッセージを取り入れることで、注目を集める余地はあっただろう。


時間差は「提供社の都合」?


2024年10月のニュースが決して最新のものではないと知り、気になってくるのは、どこが最新なのかということだ。

研究の詳細が『Science』に掲載されたということもあり、世界(英語)のニュースを探してみると、出来事を初めてオンラインで報じたところは大雑把に3つあるといえそうだった。

①本家
The collapse of eastern Bering Sea snow crab | Science

(Science 19 Oct 2023 Vol 382, Issue 6668 pp. 306-310 
DOI: 10.1126/science.adf6035

10 billion snow crabs have disappeared off the Alaskan coast. Here’s why (sciencenews.org)

(By Jude Coleman October 19, 2023 at 2:00 pm)

Billions of crabs went missing around Alaska. Scientists now know what happened to them | CNN

(By Rachel Ramirez, CNN Updated 3:04 AM EDT, Fri October 20, 2023)


さらに探してみると、CNNは2024年の8月にもカニについて報じているのがわかった。

Billions of crabs vanished around Alaska. Scientists have evidence it will happen again | CNN

(By Rachel Ramirez, CNN Updated 7:43 AM EDT, Wed August 21, 2024)

アラスカ近海から消えた数十億匹のズワイガニ、温暖化による餓死だった - CNN.co.jp

(2024.08.22 Thu posted at 13:33 JST)


また、これを、ライブドアニュースは取り上げていた。

私は知らなかったが、これも当時バズっていたようだ。現在、ポストは、5720RPで、「118.6万件の表示」となっている。2024年10月のニュースでは3596RPだから、比較すると、表示件数は少ないが、拡散に協力したアカウントの数は多い。


次に気になるのはライブドアニュースのリンク先が今どうなっているかだ。

(「2024年8月23日 9時12分」)

提供社の都合により、削除されました。

簡潔な一文が表示されるのみとなっていた。


少々驚いたことに、何が掲載されていたのか、調べることができた。

このまとめを書こうとして、「Wayback Machine」というサイトを知った。偶然、復旧したばかりとのことだった。

Internet Archiveの「Wayback Machine」が復旧--ただし制限あり(ZDNET Japan) - Yahoo!ニュース

(10/15(火) 9:31配信)


調べてみると、掲載されていたのはCNNのサイトと同じ文章だった。そしてそれが9月5日には削除されていた。都合によって。今度も時事通信社の都合によって消えるかもしれない。


都合ということであれば、読者に向けて手短に伝えるのも理解できる。しかし、過去を遡って調べてしまった私は、「提供社の都合により、削除されました。」という何気ない一文が、単なる通知以上のものに思えてきた。ベーリング海で100億の命が失われたという事実は、もはや漁師や研究者たちだけの問題にとどまらず、遠く離れた人々の「都合」によって、何度もその語られ方が変えられていく。情報は再解釈され、目的に合わせて利用される。そんな現実が、まさにここに浮かび上がっているのではないか。100億匹のカニは今週死んだわけでもなければ、ニュースに取り上げられ、人類社会に警鐘を鳴らすために死んだわけでもない。それでも、こうした出来事は、繰り返し「都合」によって語り直され、利用されるのだ。そうした現実を改めて実感してしまった。勝手に。


11月にズワイガニ漁が解禁されるのに、
10月の気温が「30℃」て


ニュースは報じられなければバズることもないが、今回のズワイガニ死滅に関するニュースが広がった理由をさらに探るには、報道のタイミングを考慮する必要がある。タイミングというのは、ズワイガニ漁の解禁が11月に予定されているにもかかわらず、10月中旬に30℃を超えるような異常な暑さが続いている状況のことだ。このことが、人々にニュースを「自分ごと」として捉えさせ、注目を集める要因になったのではないだろうか。


Alaskan snow crab fishery, walloped by climate change, may never fully recover | Science | AAAS

(By Erik Stokstad 27 Aug 2024 5:30 PM ET)

11月解禁ズワイガニ漁に忍び寄る不安 京都の海にただならぬ「異変」、漁師「3割のトリガイ死んだ」|社会|地域のニュース|京都新聞

秋田久氏 2024年9月19日 5:05)

11月解禁ズワイガニ漁に忍び寄る不安 京都の海にただならぬ「異変」、漁師「3割のトリガイ死んだ」(京都新聞) - Yahoo!ニュース

(10/14(月) 17:02配信)(10月15日の前日だなあ)

能登の漁業「二重被災」で苦境 11月のズワイガニ解禁控え(共同通信) - Yahoo!ニュース

(10/16(水) 15:54配信)

冬の味覚「ズワイガニ」漁獲可能量が決定 鳥取県は前年度より増加 漁の解禁は11月(2024年10月16日掲載)|日本海テレビNEWS NNN

(2024年10月16日 18:13)

冬の味覚「ズワイガニ」漁獲可能量が決定 鳥取県は前年度より増加 漁の解禁は11月(日本海テレビ) - Yahoo!ニュース

(10/16(水) 18:13配信)

【異常気象】10月中旬に真夏日105地点|関東で明日も30度超え続出の予報(栗栖成之) - エキスパート - Yahoo!ニュース

栗栖成之 10/18(金) 21:38)

「夏日」の検索結果 - Yahoo!ニュース


ズワイガニに関するニュースが増えていることに加えて、異常気象に関連した報道も増加している。ニュースを積極的に探さなくても、実際に体感している暑さからその影響を想像することは容易だ。「自分ごと」として感じられる瞬間が増えていたことが、ニュースがバズった一因ともいえるだろう。


またバズるかもしれない


ライブドアニュースはズワイガニ死滅で2度バズっている。2度あることは3度ある。大手プラットフォームインパクトのあるタイトルキャッチーなメッセージが揃った記事を、読者が「自分ごと」として捉えられるタイミングで取り上げたとき、再び話題になる可能性はあると考えている。

そのとき「またか」と思った人には、黙る選択肢と黙らない選択肢がある。

あなたならどちらを選ぶだろうか?


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