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ずるい大人たちの実話

二の腕が触れるほどの近さ 肩に回された左手は、気まぐれに、おろした髪を梳いたり後頭部を優しくなでる 指先が耳の輪郭を浮き彫りにして、ときたま唇が鼓膜を揺らす 首筋に落とされた温かさと跳ねるような音が背筋を走る 幼さが顔を出したみたいに、とつぜん横から抱き寄せられる かと思いきや、見つめ合って、頤に添えた手が顎を持ち上げる 触れるか、触れないか 吐息が絡まり合う気がした 「寸止め中」笑うとバランタインがすぐそこを香って、鼻孔を駆け抜ける 同時に、一瞬、 触れる アールヌーヴォ

    • 完璧な、天使のような、良い子でいたい

      対岸が見えた。行っては行けないあちら側。 PMSか?なんて思ってみたけど、どうやら違いそう。とにかくずっと、泣きそうなまま生きていて、小さな小さな小石が爪先に触れただけで溢れ出してしまいそうな表面張力を自分の中に感じてる。 週末、平日は仕事で行けない無印に行ったら整理券が終わっていて入れなかった。それだけのことで、帰り道から夕飯を食べ終わるまで、いや、その日が終わるまでずっと泣いていた。たったそれだけ、で。 #BlackLivesMatter。ニュースで映像を見たら苦し

      • 25歳で人生初の投票にひとりで行ってきた話

        ”選挙“”投票“という概念のない家だった。 封も切らずに放置された引き換え用紙が、選挙後しばらくしたら机の上から無言で消えるような家だった。 25歳にして、はじめて、ひとりで投票所に行ってきた。母はわたしが投票してきたことを知らない。 選挙や政治のことは、正直わからない。投票してきたけど、ほんとに一票を投じていいのか今も少し不安になるくらいよくわかっていない。それでも、なんとなく、行った方がいいと思って、投票用紙を銀の箱にすとんと落とした。 今回の選挙で(

        • 完璧じゃなくても死なない

          思えばこの約1年、予定がない限り、 平日は母の夕飯と自分のお弁当、 休日はブランチと夕飯を作ってきたけど、 買ってきたお惣菜を出したり出前にしたことはなかった。パスタだって必ずソースを作ったし、そうめんなのにおかずもちゃんといくつか作った。 冷凍の餃子を焼いたことは3回くらいあるけど。 世の主婦はそれが当たり前かもしれない。それができる人もいるかもしれないけど、それができなきゃいけないわけじゃないのかもしれない。 でももしかしたらわたしはもう少し、手を抜いて

        ずるい大人たちの実話

        • 完璧な、天使のような、良い子でいたい

        • 25歳で人生初の投票にひとりで行ってきた話

        • 完璧じゃなくても死なない

          愛の終わりに

          愛の終わりに向き合えるのは、終わってからずっと後のような気がする。 もう戻れない、戻らない、それが確かになったときにやっと、見つめられる気がする。 日常のなんでもない名詞をタイトルにつけがちな歌手ことaikoが歌う「線香花火」 久しぶりに聞いたら心がえぐられた。 ぽとっと落ちて地面に溶けていく火種と、 手の中に残ったみすぼらしい持ち手。 愛の終わりは見えなくて、今思い返したらあああそこが終わりだったのかと気づく。 今気づいたところで、みすぼらしい持ち手は取

          愛の終わりに

          鬱、「猫になりたい」と思うこと

          おかしくなったのがいつかは正直もうよく分からない。 大学1年の夏だったとも言えるし、ここ2ヶ月くらいとも言える。 誰かのなんでもない小さな言葉にダメージを受けすぎる性格なのだとわかってはいても、そのなんでもない小さな言葉に大きなダメージを受けずにはいられない。 現場にいるときは日に13時間14時間の労働の中、お客様にも先輩にも店長にも100%以上で接したし常に笑顔は絶やさなかった。 それでも23時を回ってなお退勤時間のめどが立たない時なんかはゴミ捨て場に向

          鬱、「猫になりたい」と思うこと

          でも今は、恋がしたい

          ガッキーが言った。 「結婚したいと思っていた時もある。でも今は、恋がしたい。誰かのことをすごく好きになりたい。」 細かくは覚えてないけれど、そんなようなことを。 心が破裂するかと思った。思い返して咀嚼して反芻して、また思い返して咀嚼して 繰り返していたらどんどん泣きそうになる。 そうだ、恋がしたい。誰かのことを、すごく好きだと思いたい。 でも怖くないですか?誰かのことをすごく好きになること、めちゃくちゃ怖い。 だれかひとりに心の全スペースを明け渡ししま

          でも今は、恋がしたい

          細胞ひとつさえ

          高校2年の時、倫理がいちばん好きだった。でも授業で聞いたことの大半は忘れてしまって、ただひとつだけ、はっきりと覚えていることもある。 デカルトの心身二元論。 "どれほど愛する人を失っても、どんなに苦しんでないて死にそうになっても、あなたの細胞ひとつさえ壊れてはくれない" 当時もその言葉にハッとさせられたけど、大きな喪失を知った上で思い出すととんでもない威力だ。 どれだけ悲しいことが起ころうとも、傷つくのは心だけ。逆に言えば心は傷つき放題に傷つく。すり

          細胞ひとつさえ

          大波はなにを為すために

          自分が何をしたらいいのかよく分からなくて、どうしたら自分にとっても会社にとっても気持ちがいい答えになるのかわからなかったけど、ずっと現場にいて最近本社勤務になった先輩に言われた言葉に非常に救われたので覚えておきたい。 めちゃくちゃに酔って据わった目で言われたけど、ハッキリと明瞭な言葉で微笑みながら言われたもんだから、もう少しここにこの会社にいたいと思ってしまった。 例えば、わたしもね、 今は9時に出社して18時に帰る生活をしているけど、 少し前まで会

          大波はなにを為すために

          鬱なら休めばいいというのはそう簡単な話ではない

          同期が休職した。 その数日前、ふたりで出かけて、ご飯が美味しいと思えなくなったから明日人事に辞めるって言おうと思うんだと軽く笑いながら言う彼女に、おーおーそんなのすぐ辞めたほうがいいなとわたしも軽く笑って返した。 もしわたしがあの日彼女の決断の背中を少しでも押せていたら、いいなと思う。 まだたった半年前。 わたしは2ヶ月の研修の後配属された店舗を、たった3ヶ月で辞めた。 辞めた、というか、現場ではなく本社勤務に移してもらったので、退いたと言うのが正しいのかな。

          鬱なら休めばいいというのはそう簡単な話ではない