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貨物船の世界と事故について

昨年のモーリシャスでの重油流出、本年上旬のスエズ運河での座礁、そして先日の八戸での重油流出など、近頃貨物船の事故のニュースを目にすることが増えたように思う。報道を見ればなんとなく大変そうなことはわかるが、あまり縁がない世界の話であり実像がイメージしずらいため、海上輸送の世界についてざっとまとめてみた。

はじめに

船 = タンカー = 原油とか運んでるんでしょ?というイメージもあるが、石油・ガス・石炭・鉄鉱石といった原材料のみでなく、食品・衣類・雑貨等身の回りのあらゆるものが、船に載せられ24時間365日海の上を運ばれている。こと島国の日本では、重量ベースでみると年間の輸出入の99%以上が船で運ばれている。

船を動かしているのは誰か

船の所有や運航の形は多様だが、典型的なパターンでは船の所有者(船主)と、船の運航者(用船者)の二者により船を動かしている場合が多い。

船主は船を購入(造船所に発注して1から船を作る場合もあれば、中古の船を買う場合もある)し、船員を雇って船に乗せ、その船を用船者に貸し出して収入(用船料 : 契約期間〇〇年で1日あたりUS$〇〇といった形が一般的)を得ている。船主は国内の会社とは別に、パナマやリベリア等制度面で有利な国に子会社を作り船を所有している場合も多い。なお、近年では日本の会社が所有する船でも日本人の船員を乗船させることは稀であり、中国や東南アジアの国の船員が大半である。一般的な外航貨物船であれば20人前後の船員が乗船しており、一度乗船すると長ければ10ヶ月程度は基本的に船上で暮らすことになる。また、船に必要な物資を手配したり定期的な修繕を行うことも船主の仕事である。これらの仕事を船主が自ら行う場合もあるが、船舶管理会社に外注している場合もある。

他方用船者は船主と用船契約を結び船を借り入れ、荷物を運びたい人(荷主)を探して船を提供する。用船者は荷主を見つけると、船主に対し荷主の待つ港に向かい貨物を積み込み、どこそこの港に運ぶようにといった指示を出す。荷主が用船者に支払う運賃(貨物1トンあたりUS$〇〇や、コンテナ1本あたりUS$〇〇等)と、用船者が船主に支払う用船料の差額が用船者の儲けとなる。なお、用船者は一社のみでなく、用船者から再用船者に、再用船者から再々用船者に、といったように又貸しされている場合もある。

事故が起きたら

座礁・衝突・火災等で船そのものが壊れることもあれば、積荷・施設・自然環境等に損害を与えることもある。船の行き先を決めるのは用船者だが、実際に船を動かしているのは船主が雇った船員なので、事故が起きると法的な責任は船主が負う場合が多い。そのため船主は所有する船に様々な保険をかけている。自身の財産である船そのものへの保険(自動車でいう車両保険)だけでなく、第三者への賠償責任の保険(自動車でいう任意保険及び自賠責保険)等々。従って、事故により船主が被った損害は最終的には保険会社が負担することになる。ちなみに、国際条約や各国の独自の規則等により、国際航海に従事する船舶には十分な金額の保険をかけることが実質的に義務となっており、(よほど素性の怪しい船でない限り)無保険ということはあり得ない。

例:油濁事故の場合

積荷として原油を運ぶタンカーでなくとも、大半の船は燃料として重油を相当量積載しているため、船体が激しく損傷するような事故が起きると、同時に重油が流出する危険がある。沿岸部で重油流出が発生すると、以下のような費用や損害の発生が予想される。

- 重油の除去清掃費用
- 漁業者への賠償
- 観光業者への賠償
- 自治体等への賠償

重油の除去清掃作業には、最終的に多くの人手と長い時間を要する場合もある。また重油の除去が完了した後にも、直接的な漁獲量の減少や逸失利益のみでなく、風評被害等の間接的な損害等についても賠償問題になりうる。上記のとおり法的な責任を負うのは船主である場合が多いが、近年企業の社会的責任が重視されており、船主のみならず用船者も前面に立って誠実に対応することが求められるようになっている。


最後に

家にいながらスマホ1つでなんでも手に入る世の中ですが、物が手元に届くまでには長い道のりがあるんですね。ちなみに、「トン」という単位は、大航海時代にワインの輸送に用いた樽を叩く音を元に、ワイン1樽を1トンと呼んだことが名前の由来らしいです。

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