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中国と台湾がTPPに参加申請~どうなるアジア太平洋の勢力図

先週(9月16日)と今週(9月22日)、中国と台湾が相次いでTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加申請を行ったことを発表しました。アメリカはトランプ大統領(当時)がTPP不参加を決め、その後バイデン政権成立後も復帰のめどがたっていません。その中で、アジア太平洋の勢力図に影響を及ぼしかねない動きが生じていると言えます。

米中の影響力

米中間の「新冷戦」とも呼ばれる状況は、ますますその構造が明確になってきています。この状況はトランプ大統領の時期に噴出した感がありますが、その潜在的状況は長年の間に蓄積されてきたものでした。その状況が、トランプ大統領という特異なキャラクターによって白日のもとにさらされたとも言えます。

したがって、この状況はバイデン大統領によって転換されうるものではないわけです。むしろ、より「落ち着いた」「大人な形で」定着してきていると言えると思います。このあたりについては、下記も参照ください。

この構造の中において、米中は相互に対する批判を展開するとともに、他国、特にアジア太平洋の諸国に対する影響力を競っている状況です。そんな中、昨年11月、中国は他のアジア・大洋州諸国とともにRCEP(地域的な包括的経済連携)協定に合意しました。そしてさらに、中国はTPPに参加し、この地域への影響力を確かなものにしようとしているわけです。

RCEPにせよTPPにせよ、非加盟国を敵視するものでも非加盟国に対抗するものでもありません。しかし、共通の大きな目標のために各国それぞれが一定の負担を引き受けることに合意すれば、参加国の間の連帯感を強めることになることは否定できません。

中国がTPPの求める自由化のスタンダードをクリアできるかについては、大きな疑問があると言われています。しかし、中国は参加各国に個別にアプローチし、このスタンダードを下げたり、または例外措置を認めるといったことを求めていくと思われます。その際に、様々な経済的利益を供与していくことも想定されます。

アメリカがTPPに復帰することが、かなり難しい課題であることは以前にも述べました。

それは十分に踏まえたうえで、アメリカ政府、議会、そしてアメリカ国民にはTPPに復帰することの大きな意味を考えてほしいと思います。アメリカ不在のまま、中国がTPPに参加することとなれば、アジア太平洋における勢力図に大きな変化がもたらされる可能性があります。

アメリカと中国の間でバランスをとっているアジア諸国にとっても、中国ばかりがこの地域の枠組みに入ってくることに居心地の悪さを感じるはずです。各国とも、まずはアメリカが復帰するという方向で協力は惜しまないのではないでしょうか。

中台間の競争

9月16日に中国がTPPへの参加申請を発表した6日後、22日には台湾が同様の発表を行いました。これらは、それぞれが発表した日付なので、両者が申請を行った日付は明らかになっていません(場合によっては、台湾の方が先かもしれません)。

台湾にとって、中国より先にTPP参加を実現することは死活的に重要です。新規にTPPへの加入が認められるためには、現加盟国すべてが同意することが必要です。したがって、もし中国が先に加入してしまえば、台湾の加入はまず不可能になります。

中国がこれまでいかに台湾の行動を阻害し、国際社会から排除してきたかは累次述べてきたとおりです。その経緯をふまえれば、TPP参加後に中国がとる方針は明らかです。

RCEPに中国が参加し、台湾が参加できていない状況(「参加できなかった状況」とも言えます)を踏まえれば、台湾にとってTPPは外せない目標のはずです。

ここにおいても、中国は加盟各国に対する個別アプローチを行うでしょう。台湾の参加に反対することと引き換えに何らかの見返りを用意するかもしれません。当面台湾の参加をブロックしておいて、中国が先に入ってしまえば「こっちのもの」と思っているかもしれません。

もちろん、TPPの求めるスタンダードをクリアしているか否かについては、客観的に評価されるべきであり、それによってどちらが先に加入できるかが決まることは理解できます。しかし、メンバー拡大が不当にブロックされるような状況が生じないよう、TPP現加盟国においては、ぜひ合理的な配慮をしてもらいたいものです。

特に、ベトナム、マレーシア、チリあたりの国は、中国からのアプローチに注意してほしいです。目先にちらつかされる小さな利益に惑わされず、地域全体の貿易・投資の自由化による長期的な利益の大きさをよく考えるべきでしょう。そして、その先にある自由で開かれた世界が、民主主義に裏付けられたものであることが大切だと、心にとどめておいてほしいと思います。

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