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宿題やらない派になるためには(独自指南書)

宿題やらない派のみなさん、こんばんは。

私はあなたたちを尊敬します。というのも、私はずっと宿題やらない派に憧れていたのです。憧れだけではおさまらず、私もなりたいと思い至るまで時間はあまりかかりませんでした。それから真の宿題やらない派になるために5年を費やしました。決して平らな道ではなかったこの5年間。
宿題やらない派になるためのおおきなかべを宿題きちんとやる派の皆さんにぜひ知ってほしいのです。

①罪悪感に負けない

第一段階です。宿題をしてこない。昨日の夜までは余裕しゃくしゃくで白紙のプリントを眺めていられたのに、学校に向かう通学路、心臓がぎゅっとつかまれます。どうしよう。私は宿題をやっていない。足取りが重く、頭の中はランドセルの中のプリントのことでいっぱいになります。みんながやっていることを私だけやっていないと思うと、不安と緊張で心臓は破裂しそうなほど苦しくなります。学校が見えてくると、足が石になったみたいに歩くのが困難になることも。この感覚は日本人だからでしょうか。いいえだれでも。


②先生のお叱りに耐えなければならない

説明するまでもなく、宿題をしていない人は先生に怒られます。怖いです。みんなが座っている中、ひとり立たされるかもしれません。大声で怒鳴られるかもしれません。逆に呆れられて見放されるかもしれません。
お叱りに耐えられなくなって「宿題はしたけれど、忘れてきちゃったんです」と逃げてしまった人もそれを見た人も多いのではないでしょうか。しかし、それでは宿題やらない派の太郎に鼻で笑われておしまいです。言い訳で逃げてしまうくらいなら、宿題をやればいいのです。宿題やらない派になるには、堂々と「やってない」宣言することが必要になります。



一回宿題をやらなかっただけで派閥に入れると思っていたら大間違い。ここからが長い道のりです。毎日出る宿題を全て放棄しましょう。真っ白い紙は真っ白いままに、新品のノートは表紙がつるつるの状態をキープするのです。とにかく他の子のノートとのギャップを生み出すことが大切。みんなの宿題を集めた時に異様に綺麗だと目立ちます。それが重要なのです。宿題やらない派玄人の太郎ほどになると、新品のノートの表紙は一日でぼろぼろに、鉛筆で汚していくはずの中身の方が真っ白綺麗状態です。自分のノートだけでギャップを生み出せる玄人の技は痺れますね。

ただ、毎日真っ白、過剰な宿題拒否は危険です。なぜなら、そう、保護者を呼ばれかねません。ことが三者面談にまで発展してしまうと親と先生の監視人に昼夜問わず見張られてしまいます。これを囚人状態と言います。囚人状態に陥ると、ざんねんながら担任の先生が変わらない限り、宿題やらない派にはなれない人生が約束されてしまいます。あーあ。

そこで定期的に宿題はやりましょう。あれ?と思われた方もいるかもしれません。そうでなくても、「結局やるんかい」と思ったのでは? 甘いです。

③ふざける意思表示をする

宿題をするといっても、きちんとはやってはいけません。適度にふざけましょう。

例えば、算数の宿題を全て3と答える、校外学習の感想文を2行でおさまる文章を大きな字で書いて10行分にする、漢字練習帳を利き手じゃない手でするなどが挙げられます。

そして、胸を張り先生の目を見て堂々と提出します。「宿題やりました」と言ってしまうのも効果的です。先生が改心したのだと感心し、油断いっぱい笑みを顔にくっつけたままノートを開いた瞬間に、ひどいクオリティの宿題があらわになる。先生の機嫌は急上昇からの急降下。非常に素晴らしい富士山ができます。かなり高度な技です。F難度のクイックです。

ここまでくると、クラスのみんなの意識も変わります。まず私に宿題を教わろうと話しかける者は消えます。提出期限などもってのほかです。
それから感心されます。過去の私を含め、本当はみんな宿題やらない派に憧れているので、そこへ果敢に挑戦する姿に勇気を与えられているのです。太郎が松坂大輔だとするなら、この時点の私は甲子園のマウンドに立つ高校球児です。プロ野球より一生懸命で初々しい高校野球の方が好きだと言う人もいますよね。そういうことです。

生徒の変化がみられたら、ゴールはもうすぐ。
先生にも変化があらわれます。一心不乱に私を怒鳴ってきた先生は、この頃燃料切れを起こすのです。実はこれまでも燃料が切れそうになることはありました。そのたびに他の優秀な生徒を褒めたり、同僚に愚痴をこぼすことで補給してきていたのですがそれに限界が訪れます。
燃料は怒鳴るたびに消費され、汗の蒸気と固定観念(=固体)が発生します。特にふざけた宿題はいい着火剤になるため、適度に燃料と宿題を反応させるとよいでしょう。
期待という液体燃料で動く先生は「無駄」や「また」といった固体に弱く、一度タンクにこべりつくとなかなかはがれません。
ようやく武道館がみえてきました。

ある日いつも通り白紙のノートを提出すると、先生は最後に大きなため息を一つ。

そしてついに……

④宿題やらない派になる

真の宿題やらない派の仲間入りです!
白旗をあげた先生から、派閥にはいった印として分厚い革でできた「レッテル」を頂きます。あとはそれを自分の好きなところに縫い付ければ完成です。

レッテルは環境が変わらない限り有効で、他の先生が縫い付けておいたレッテルを発見次第、適応されます。ですから、舌の上などなるべく目立つところに付けておくとよいでしょう。

宿題やらない派の先輩たちは新人を歓迎します。しかし宿命なのか彼らは来年同じクラスになる可能性は限りなくゼロです。

新年度、転任した先生がどいつのレッテルを最初に見つけるかを競う「問題児探し」は春の季語でありながら字余りのため世間一般にはあまり知られていません。


私はこの派閥に入ることを小6に決意した遅咲きだったせいで、宿題やらない派になったのはそれから5年後の高校2年のことでした。レッテル贈呈が遅れたために効果は数学だけにとどまりましたが、他の子が1か月費やしたキャンパスノート2冊分の宿題を、キャンパスノートに名前を書きもせず終えられたことは非常に達成感を感じています。また、中学時代励んだ漢字練習帳のおかげで、左右どちらの手でも苦なく文字が書けるようになりました。

その後、太郎はKO大学に進学、私は無事大学受験を失敗しました。真っ白い数学ノートが恨みを晴らす如く、私の足を掴んだのです。

最後に、レッテルをくれた中西先生、宿題やらない派の世界を教えてくれた太郎に心から感謝を送ります。


つづく

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