京都の生物多様性：地域戦略・保全利用を考える

2020年5月5日 09:32

日本海、若狭湾、丹後や丹波の山々、京都盆地にかけての地形の複雑さ、琵琶湖から流れる宇治川など、多様な環境が生き物にとっての様々な生息場所をもたらし、京都府の生物多様性を形作っています。

はじめに

生物多様性の保全や利用を考える場合、どのような生き物が、どこに分布しているのかを把握することが、第一ステップになります。地域の住民の皆さんも、自分たちの周辺に、どのような生き物が暮らしているのかを知ることができれば、生物多様性への親しみや、理解も深まると思いました。このような意図から、日本の地方自治体（47都道府県）の生物多様性の特徴を可視化して、保全利用に関わる科学情報を普及させていくことにしました。

この記事では、京都府の生物多様性の保全利用計画に関する分析結果をお知らせしていきます。新たな分析結果が出力でき次第、随時その内容も加えて、この記事自体を更新していくつもりです。また、この解説は、日本の生物多様性地図化ウエブサイト（保全カードシステム）と連動させて情報提供していきます。生物多様性の様々な地図情報（レイヤー）を、チャンネルを切り替えて閲覧できますので、以下サイトをご覧ください。

京都府の生物多様性を特徴づける環境条件

京都府の北部には、丹後半島が日本海に向けて突き出し、日本海や若狭湾に面しています。内陸は山が多く、南部にかけて丘陵や盆地が広がっています。このため、北部は日本海側気候で雪が多く、南部は内陸性の気候で比較的雨が少ないです。

北部の兵庫県境の丹後山地には、三岳山（839m）や大江山（832m）などが連なっています。

中央部には丹波高地があり、西は兵庫県の中国山地、東には皆子山（971m）などがあり、滋賀県の比良山地と接しています。

丹波高地の三国岳付近（776m）の芦生からは由良川が発して、西に流れて福知山盆地にいたり丹後山地の山麓を北東にぬけて若狭湾に注いでいます。

丹波高地の東部からは桂川（上流域の大堰川）が発して、西に流れて亀山盆地にいたり、愛宕山（924m）山麓の保津峡をぬけて京都盆地に流れ出ています。

京都盆地の北東部には比叡山（848m）が連なり、滋賀県の琵琶湖を隔てています。そして、琵琶湖から流れ出た瀬田川は、宇治川となって京都盆地を下っています。

京都盆地北部の山地の桟敷ヶ岳（896m）からは鴨川の源流が流れ出て、鞍馬山(584m)や貴船山(700m)の山麓をぬけて京都盆地へ至り、高野川と合流して桂川に注いでいます。

三重からの木津川は、高見山地から流れてきた名張川と合わさって、京都盆地の南部で宇治川に合流します。

以上のような地理や地形が、生き物にとっての様々な環境をもたらし、京都府の生物多様性を形作っています。

生物多様性の可視化：種数地図

生物種の分布予測を元にして、種数を１kmスケールのメッシュごとに数え上げて、地図化した結果を以下に紹介します。赤色のメッシュは種数が多い地域です。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種数が豊かな地域は、京都盆地周辺の山地、丹後高地の東端の皆子山周辺から比叡山にかけて山地、および愛宕山周辺にかけての山地、および、木津川や由良川の流域、丹波高地北部の一部、大堰川流域から亀山盆地にかけて、などです。

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土地利用の変化が日本の生物多様性に与えた影響については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。

哺乳類の種数が豊かな地域は、京都盆地周辺の山地から丹波高地（由良川上流域の芦生など）にかけて、丹波高地北部の一部、木津川上流域、丹後半島の山地（太鼓山683 m周辺）などです。

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鳥類の種数が豊かな地域は、京都盆地の全域、木津川流域、亀山盆地からの保津川流域、由良川の中下流域（福知山盆地から若狭湾にかけて）、丹後半島の沿岸域などです。

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爬虫類の種数が豊かな地域は、京都盆地周辺の山地や木津川流域、丹波高地北部の一部、丹後半島の山地の一部などです。

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両生類の種数が豊かな地域は、京都盆地周辺山地や河川流域、丹波高地の芦生付近から東端の山地にかけて、木津川流域の一部、丹後山地の一部や丹後半島の太鼓山周辺などです。

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淡水魚類の種数が豊かな地域は、京都盆地の河川流域（宇治川や桂川など）、大堰川や保津川の流域、木津川や名張川の流域、由良川流域などです。

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生物多様性の保全重要地域を特定する方法

生物多様性の保全重要地域はどこですか？と聞かれたら、多くの人は「生物の種類数が豊かな地域」と答えるかもしれません。その解答は、ある意味正しいのですが、他にも考えるポイントがあります。

生き物のレア度：希少性

例えば、生物の種数は少なくても、他の場所には存在しない、そこだけに分布する生き物（固有な生物種）がいたら、そこは、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所と言えます。

つまり、保全重要地域を特定する場合、生物の分布情報を基にして、レアな＝希少な生き物が、どれくらい分布しているのかを定量する必要があります。

保全政策上の重要生物：絶滅危惧種

また、生き物の種類によっては、絶滅が危惧されている種もいます。そのような生物はレッドリスト種に指定されて、重点的な保全施策が図られています。したがって、絶滅危惧種が分布しているかどうかも、かけがえのない場所を特定する上で考慮する必要があります。京都府は2002年に「京都府レッドデータブック」を編纂して、その後も生物分類群ごとにレッドリスト種を改訂して「京都府レッドデータブック2015」を公開しています。

生物の機能：人間社会にとっての生物の価値（生態系サービス）

生き物は様々な機能を持っていて、私たちは生物を資源として利用し、生物多様性や生態系サービスの恩恵に浴しています。したがって、それぞれの生き物が持っている価値も、かけがえのない場所を特定する上で重要な情報になります。

ここでもう一つ問題があります。それは私たち人間社会の都合です。

地域社会の経済活動

例えば、市街地や農地のように経済活動が活発な土地区画は、京都府の地域社会の持続的発展のために重要なエリアです。つまり、私たち人間にとって重要な土地区画を維持しつつ、生物多様性を保全して、両者のバランスをうまく調整する必要があります。

そこで、京都府内の１km x １km土地区画メッシュ全ての、人口・道路密度・市街地・農地など社会経済に関するデータも整備します。

これによって、地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を避けつつ、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所はどこか？を探索することができます。

具体的には、京都府を１km x １kmの土地区画メッシュに分割して、それぞれのメッシュに、どれくらいレアな生き物がいるのか、どれくらい絶滅危惧種がいるのか、どれくらい価値ある生物がいるのかを定量して、場合によっては、利害関係者の要望を元に、例えば地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮しつつ、生物多様性を保全・利用する上で、どのメッシュがどれくらい重要なのかを順位付けします。これは、生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析と呼ばれます。

京都府の生物多様性の保全重要地域

維管束植物（木本・草本・シダ植物）と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を統合して、生き物の種ごとの希少性・レッドリストランク・有用性などを考慮して、京都府の生物多様性保全の重要地域を順位づけした結果が以下の地図です。

注）土地区画の社会経済的価値も組み込んだ分析結果は今後公開予定です。

京都府の生物多様性の保全重要地域は、京都盆地と周辺山地、大堰川や保津川の流域、木津川流域、由良川中下流域、丹後半島の沿岸域や山地の一部などです。

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以上は植物と脊椎動物の地図情報を統合して、全生物分類群を包括して保全優先地域をスコアリングした結果でした。

次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を見てみましょう。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、京都盆地周辺の山地、大堰川や保津川の流域、木津川流域、由良川流域などです。

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哺乳類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、京都盆地周辺の山地、丹波高地の三国岳付近の芦生や大堰川の源流山地、由良川の中流域、丹波高地北部の山腹から山麓にかけての一部などです。

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鳥類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、京都盆地の全域、木津川流域、由良川の中下流域（福知山盆地から若狭湾にかけて）、丹波高地の芦生周辺の山地、若狭湾や丹後半島の沿岸域などです。

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爬虫類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、丹後半島や若狭湾の沿岸低地から内陸山地にかけて、京都盆地周辺の山地から低地にかけて、木津川流域などです。

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両生類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、丹後半島から丹後山地（三岳山や大江山など）にかけて、丹波高地北部の山腹、京都盆地周辺の山地、丹波高地の由良川源流部の芦生、木津川流域の一部などです。

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淡水魚類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、京都盆地の河川流域、大堰川や保津川の流域、木津川や名張川の流域、由良川の中下流域、若狭湾沿岸や丹後半島の水系などです。

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京都府レッドデータブック（RDB）事業の検証

生物分布データを用いて、京都府RDBにリストされている種の希少性を分析しました。分析の意図と手法については以下の記事を参照してください。

生物分類群ごとにRDBにリストされている種の分布メッシュ数（面積）を定量しました。分布面積の小ささが希少性の度合いになります。

維管束植物を見ると、RDBランクが高いほど（横軸の左のランク、絶滅危惧ⅠA類　CR、絶滅危惧ⅠB類　EN、絶滅危惧Ⅱ類　VU、準絶滅危惧　NT）、縦軸の該当種の分布メッシュ数が少ない傾向があります。種の希少性をよく反映したランク付けになっています。ただし、分類群によっては、現RDB「指定なし」にも（横軸の右端のランクに）希少種が含まれていることがわかります。

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