見出し画像

【観光戦略とインサイト】コロナ下で求められる3つの基本戦略

日本の成長戦略の一端を担っていた「観光」が、どの産業よりも先にコロナ禍の大きな打撃を受けました。

今後、想定されるコロナ禍のシナリオ

下図は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2020年6月24日に公開した資料「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」の一部です。

画像1

コロナ禍の「今後想定されるシナリオ」3つのうち、シナリオ①は活動抑制期は初回1回のみの想定、2021年冬としたワクチン開発予測時期を除いて、既に外れてしまっています。
現在はシナリオ②2023年くらいまで長期化する段階に差しかかっていると見るのが妥当なのでしょう。シナリオ②には「コロナ禍以前の経済活動再開5年後、グローバル化後退」とあります。

そんななか、2020年7月17日に閣議決定された、成長戦略実行計画に付随する成長戦略フォローアップには以下の通り記されています。

・Go To Travel(観光)事業を開始、観光需要を強力に喚起し、需要の平準化も進めつつ、国内観光の回復を図る
・これを契機に、ワーケーション、ブレジャー、サテライトオフィスの活用など働き方改革とも合致した、より安全で快適な新しい旅行スタイルを普及させる
訪日外国人旅行者数2030 年 6,000 万人の目標は十分達成可能であり、その達成のために観光立国の実現をすることを目指して、官民一丸となった取組を進める
                                                      (成長戦略フォローアップ P.95)


著者注:ワーケーションはGo To Travelキャンペーンとともに紹介されたこともあり、世論の厳しい反応にさらされました。ビジネスとレジャーをそれぞれ組み合わせた用語ブレジャーも普及の壁はまだまだ厚そうです。

これまでのKPIとされていたものの一つ(どちらかというとKGIに近いですが)、2020年訪日外国人旅行者数4,000万人はさすがに消えたものの、2030年の6,000万人、観光立国の目標は厳然としているようです。一方で、現実には宿泊施設や土産物屋、観光施設、さらには交通機関も含めて存続そのものが厳しい今の状況があります。

今回は、それぞれの観光地は今、何をなすべきかそこでのインサイトはどんな役割りなのか)を整理してみたいと思います。

基本戦略1 マイクロツーリズムから始まる復興戦略ステージ

コロナの影響と対策について、旅行・観光関連の方々の考え方をまとめると復興戦略は3つのステージ、6つのフェイズに分かれます。

画像2

stage1は地元、県内、そして近隣都道府県stage2は全国の段階。コロナ感染率の状況に応じて国内旅行の復活を目指す考え方です。
それからstage3のインバウンド

トラベルバブルは、コロナの治まった国同士で提携し交流を再開するもので、北欧バルト三国のエストニア・ラトビア・リトアニアが5月に3国間の移動を認める方針を発表、オーストラリア、ニュージーランド間でも協議されていて、日本でもハワイ、台湾などとのトラベルバブル促進をしようとする動きがあります。

地元、近隣からの観光客を受け入れるマイクロツーリズム提唱の代表格は星野リゾート社長の星野佳路(よしはる)氏です。6分ほどの動画。
(6月17日時点ですので、7月~9月はコロナの緩和期と見ています)

例えば、北海道の星野リゾート トマムは、「どうみん割」を積極的に推進しています。


この3つのステージ分類は、今、自分たちがどこにいて何を優先すべきかを知るためのものです。第1ステージを終えないと第2ステージに行かない、というような硬直的な考え方ではありません。特定の近隣県で感染率が落ち着いていないケースもあるでしょう。全国も同様です。
インバウンドも、国で大くくりにはできない状況や富裕層が先行的に動き始めるなど臨機応変な対処が求められるでしょう。

基本戦略2 地域創造とともに再出発するレジリエンス

画像3

レジリエンス(復元力、逆境力)の原点は、「自分は何者であり、どこに向かうのか」にあると考えています。
自分は何者であるのか=「地域の価値、アイデンティティ」を環境変化や逆境の中で明解にしていくこと、そして「今後どこに向かうのか」を知り、定めること。それは未来のための原点回帰といってもいいかもしれません。
そして、「自分は何者であり、どこに向かうのか」を見つける作業を通し、レジリエンスの大事な要素「パートナー・絆」、共感者や仲間を増やすを得ます。

観光が地域創造(地方創生)に寄与するのは、観光客がお金を落としていく、地元の就労に貢献するなどの経済的意味だけではありません。
地域の価値を創造するとき「隣の町とは違うというような近隣の目で見るか」「日本という視点からか」「それとも世界の中での際立ちか」を考えてみましょう。
最も高い競争力は競争相手のないこと、即ち、ユニークな価値、できれば世界の中の際立ちを求めたいに行きつきます。そんなグローバル視点をもたらしてくくれるのか観光の力です。

地域創造の再出発が求められる今、レジリエンスの最初の要素「自分たちは何者であるか」の答えを見つけるために、マイクロツーリズムはともに地域価値を創造するパートナーと出会う機会と見てはいかがでしょう。

地域の整備や6次産業化、観光素材などをともに考え創り上げる機会、「住みたい土地=旅行に行きたくなる土地」という原点発想です。その間には「複数居住」「会社以外で仕事をする場所」というこれからのライフスタイルも入り込んできます。

基本戦略3 ミレニアル世代を中心に、そのインサイトとともに

これまでは国内旅行者とインバウンド旅行者対応は別々のものと考えられることが多かったように思います。

レジリエンスのもう一つの要素、「どこに向かうのか」について考える時、世代変化はその基盤となります。
観光の直接的な逆境はコロナ禍での人の移動の急減ですが、未来の懸け橋となるのは世代変化です。
団体旅行からパーソナルな旅行、通過型(観る価値)から滞在型(過ごす価値)の旅行、体験価値の重視などのツーリズムの変化は、時代変化というより世代変化と見た方が次の戦略を立てやすくなります。

コロナ禍前まで迫られていたインバウンド対応も、その実は世代変化対応だったのです。
下図は、ATカーニー社の未来消費者に関する調査のベースになった世代分類です。

画像4

「沈黙の世代」「ベビーブーマー」「ジェネレーションX」「ミレニアル世代」「ジェネレーションZ」の5つの世代分類は、これまでもアメリカでオーソドックスな世代分類です。それに2017年生まれ以降の「アルファ世代」が加わりました。
なぜ、3歳かそこらで世代区分が分かるのかというと、「アルファ世代」は「ミレニアル世代の子ども」だからです。

ちなみに日本の世代分類は大きな区分は同じですが、世界の分類とは3~5歳のズレがあります。
日本の世代分類は、株式会社ツタガワ&アソシエーツ(蔦川敬亮代表)によるもので、ATカーニー社の発表した2017年よりずっと以前から世代分類とそれを決定する消費行動や価値観のズレを観測され続けてきました。
私たちも未来予測の枠組みの基本として、各種定量調査、定性調査で蔦川敬亮氏の世代分類の確かさを検証しつつ活用しています。

これからの消費価値を決定づけるのは、ミレニアル世代(日本ではロストジェネレーション)を中心にした世代で、ネット社会で世界共通化する価値観を有しています。
ということは、消費者視点ではインバウンド、国内の区別が意味を持たないことを示唆しており、SNS発信を解析して得られるインサイトはまさにこのミレニアル世代を中心とする新しいグローバルな価値観を示すものといえます。

次号は「【インサイト探索の意味を体験する】 観光戦略(マイクロツーリズム)のインサイト」です。星野リゾートがとらえた企業視点のインサイトとSNSから発見した消費者インサイトの違いを見ることで、インサイト探索の意味を体感していただきます。
(金)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?